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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第三十五話 そんなのゆるせない

 村を出て最初の関所で後発の荷馬車隊と、先行し砦に待機していた二台の荷馬車が合流を果たす。

 兵士たちは村人たちを人別張で確認し無事を喜んでいたが、大人と子供達が口論しており、それは大凡村社会で起こりうる類の、配慮した口論とは険の強さが段違いであった。

 男の子が取り押さえようとする大人を身体強化魔法まで行使して跳ね退けると、一人怒りの頂点に達してマナを暴走させている少女がいた。

 村の食糧事情と金銭事情を助け続け、荷車に積まれたドラゴンの鱗をほぼ二人で集めて村に提供し続けた余所者がいたと言う。その上村を幾度となく脅かしてきた猛獣と魔物を毎日打ち倒し、怒りに染まった少女の命をも一度ならず助けたことがあると言う。

 それでも彼等を助けに行けないと宣うおばさんにエセルちゃんの感情とマナが爆発した。


 四人を余所者だからと見捨てた大人たちに局所爆裂魔法を放ったのだ。

 文字通りの爆発であるから怪我人がでた。

 勿論砦内部は魔法禁止区域であるから警備隊隊長がため息交じりに兵士に何事か命じ、エセルちゃんは逮捕拘禁される事となった。だが兵士たちは彼ら村人に冷たい目線で答えた。


「明らかにこの娘の言い分が正しいじゃないか。」


 睡眠魔法でエセルちゃんを眠らせて独房へと連れて行く魔法師が苦々しく呟く。

 村人が治療を求めたが「もう我々は協力する気が無いので出ていけ」と追い出しを開始する。

 エセルちゃんの両親は荷馬車から荷物を降ろし、留置所へと連れて行かれた。

 この関所から貸し出されていた荷馬車は返却を強制され、中の荷物は村人に投げつける様に捨てられた。



 兵士たちは先行して到着した日数と後追いで合流を果たした日数を計算して青ざめるも捜索隊を出すべきだと上申する。

 先行進発しているはずの王都からの騎兵隊の到着を待っている間に、彼等は間違いなく無残に殺されてしまうだろう。それを見過ごすのは国民を守る立場である警備隊にとって恥にも似た気持ちが存在する。

 待てば良いなどとはとても言える筈も無く、関所の防備を全て諦めて必要書類や物品を迅速に梱包し荷馬車に積み文官と護衛三人はもう一つの関所へと撤退する事となった。

 エセルちゃんとその家族もその荷馬車に乗れる事となり、途中、ノロノロと進む村人を追い越した。



 関所警備と言えど軍属で兵科は騎馬である。

 正規の騎馬隊に比べ練度はそれほど高くはない。だが、この辺りの治安を守り続けた自負が彼等にはあった。


「マルクト、答申せよ我らはこのまま街道を進む冪や否や!。」


「はっ!、敵軍進行速度が奴隷の肉壁を押し出す従来の進軍であるなら、彼等はまだ無事と推測いたします。更に彼等は狩猟にて身を立てているものと聞き及んでおります、よって彼等は敵の追尾に効果的な魔物の習性そのものを活用すると愚行致します。即ち川辺を移動する事によって危険を持って安全確保を狙うと考えて行動するものと予測します。」


「あい判った、総員、ミネルト川に繋がるオブラン川を南下する、急げよ。」


 唯の二十騎ではある、去れど二十騎でもある。

 倉橋達四人を助けに兵士たちが一斉に駆け出した。



 ジリジリと盾をもって前進を続ける集団に見覚えのある顔立ちの同じ国の同胞の姿が見える。

 既に自我無く、盾持ちて歩くだけの集団と化した彼等が黙々と盾を持って歩いてくる。


「逃げろ、このまま川沿いを走ればあの後ろの矢も届かない、足を挫いたりしないように身体強化を念じ続けて進むんだ。」


 意識をしっかり持って延々と川沿いに逃走を続ける。

 対する彼等は意識など殆ど持たず延々盾を構えて前進あるのみであった。

 弓箭兵が行軍速度を上げて前へ前へと前進を開始する。肉壁隊のペースに合わせていたら撃ち殺されるであろう。


「盾を持ってるやつらの何人かが鰐に喰われたから血の臭いに釣られてヤバい奴らが来るはずだ、だからもっと逃げるんだ、気をしっかり持って!。」


 飛来してくる矢が段々と近付いてくる、距離を図って位置を微調整しているのだ。

 慌てた様子で西田さんを担いで石岡が走り出す。


「やっとお出まし…か。石岡!絶対に振り向くな!。」


 半ば強引に樋口さんを背負って走る。樋口さんが振り向いた感じが伝わる…しがみ付き方が強くなった。見るなと言ったのになぁ…。

 身体強化を殆ど足に集中させて只管、川沿いを走り続ける。

 イザとなれば川に入る危険を冒すしか無いがそんな決断が許されない事態が発生していた。


 肉壁隊の横合いから恐竜が襲い掛かり、弓箭兵も一緒くたにして踊り食いを始めたのだ。

 大きな物音と肉の団体が森の横を突き進んでくるなら、そりゃ嫌でも気付くよ、石岡だって気付く。

 相手の行軍が恐竜の齎した恐慌により鈍ったので増々安全マージンを確保出来る。

 俺達四人が目下一番欲しいものは休憩出来る場所と、川底が浅く渡河のできる場所だ。出来れば川の向こうに安全地帯があればそこで一息入れたい。贅沢か?。




 酸欠状態の身体と血液にマナを循環させて吸収効率を高めて持久力を底上げする。

 石岡は得意ではない魔法だと言いつつ素振りや腕立てなどの運動の際に意識して発動を習慣付けしていたようだ。努力が報われるってのは良い事だ。

 走る走る走る。渡河ポイントを探しながら兎に角走る。対岸のはるか向こうから王国軍の騎馬隊らしきものが見えた。村の誰かが救援を求めてくれたかなと甘めの予測を立ててみる。

 普通は見捨てた手前後ろめたさが先行して自己正当化に走る。ひょっとすると子供達が頼んでくれたと考えた方が納得できるかな。何れにせよ大人が動く理由って奴を推察してみても距離が縮まる訳でもない。


「足元に気を付けて最大速度で慌てず走れ!。」


「無茶言うな!。」


 辛うじて渡河出来そうなポイントに西田さんと樋口さん二人に魔法弾を打ち込み続けて貰う。

 ダメで元々鰐除けだ、命中して飛び跳ねた鰐を刺し殺して撒き餌にして川を渡り始める。膝までの深さが最大と見込んで突入したが甘かったな。

 槍にマナを注いで雑魚散らしに爆裂魔法をぶち込む。その勢いで対岸まで突き進む。暫く渡河先で鰐塗れになり乍ら追いかけてくる鰐を悉く刺し殺していく。

 ああ、あっちの剣闘士も元気よく殺ってるよ。

 暫くして騎兵かと思った人達と合流し、幾人かの親交のあった守備隊員と再会を喜び合う。


 そして、俺達を助けてくれたのはエセルちゃんであると知る。

 四倍返しされたこの恩は余程の事でないと返しきれないなと第二関所のある方角に一礼し、その直後疲れて座り込む。

 息が整うまで敵の混乱が続きます様にと祈りながら。守備隊員の強引な手は俺達を軽々と馬に乗せて運び出す。

 軍人は何処の世界でも軍人だった。

逸り過ぎて書いた部分の修正、誤字修正。

更に

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