第三十四話 喪って、得たモノ
馬車と荷車の整備を手先が器用な石岡が主導し、俺は王国軍へ村民が避難できる場所と荷馬車を借りれるだけ借りるために、村長の息子を中央に据えて四人で囲む、絶対防御で農耕馬を走らせていた。
うん、遅いよ。でも初心者には丁度良い。
村長の息子を町まで送り届けたらこの五頭は街に置いて新しい五頭で荷馬車を引いて帰還する。予定はそんなところだ。金?金ならドラゴンから毟り取った問題ない。
俺の仕事は、まず第一に村長の息子を何としてでも王都に届け、避難場所の確保を陳情する事。
次に王都での滞在先を賃貸契約で借りる。条件としては馬五頭を繋いで置ける馬小屋と村人が到着するまでの間、馬の世話が出来る人間を雇い、尚且つ王都での村長の息子が活動する暫しの拠点としての使用に耐えうること、である。単純に寝起き出来る場所って事だね。
次は新しく馬を買い付ける。これは農場を巡るしか方法がない。そして一番重要な事は、荷車を借りるなり買うなりする事だ。しかも出来る限り速く準備を終えなくてはならない。
上手く交渉が纏まれば王都から警備兵を伴って安全且つ迅速に戻れる筈なのでそのあたりは流れのままにお任せする事となるだろう。
槍を持って追跡者に対峙する。狼の群れ…である。
行きがけの駄賃等とは上手い事言ったものだが、村から王都までの間に皮を剝いだ狼だけで荷車が買えそうな程襲ってくるのは如何なものか?。
農耕馬の足が遅く、狩り易いカモに見えるのだろう…とは思うが多すぎる。
敵軍からの人の気配の圧力に追われ、狼がこちらに逃げて来ているのであれば状況は可也のレベルで切迫しているのだと言える。
此方がとれる手段と言えば、出来る限りの最大速力で事に望むしかあるまい。
王都に就く前に二つの関所を通る必要がある。その一つで警備兵と二台の荷馬車が村に向かってくれると言う。なんとも有難い。
神父様から頂いた仮の国籍証明書しか持っていない俺は咎められないか内心ビクビクものであったが、この世界には魔法があり、真贋判定は容易であったので速やかに通過を認められる。
途中の関所でも荷車の派遣を要請出来る一通の緊急支援状を所長より頂き、俺たち一行は王都へと急いで出発する。
馬は軍馬であり余剰は無い事を詫びられたが王都への使いを一人出して貰える事となり、予定は大分早まりそうだった。
王都に向かう二つ目の関所には荷車は無かったが書状のお陰で手続きが短縮され殆ど即時に関所の通過が許された。
大体が待合で一日は足止めを受けるのでこれはかなり有難い配慮であると言えよう。
農耕馬が期せずしてダイエットに成功し、村に居た頃よりも元気になって嬉しいやら悲しいやら複雑な心境になったあたりで王都の姿が見えた。
「いやぁ、デカい城だな。」
カラコルム城、国王ネア・イクス・トリエールが治める王都カラコルムであった。
俺たちが国籍を得るために忠誠を誓わなくてはならないのだが、それは避難が完了してからの話だ。
丁度良い物件を探すと言う事がどれだけ大変であるかを俺は痛感していた。
大学に近い物件をネットでポンポンと検索して吟味し、下見してハイ契約、入居は入学式一週間前、それまでに光回線でインターネット開通ですねー。
そんな訳には行かないのだ。まず不動産についてギルドと話し合い、権利を持つ人とアポイントメントをとりつけ、契約を交わすまでに何日も掛かる。
いっその事…と班を四つに分けて、農耕馬の番、不動産の待機担当、馬車確保、馬確保で四人掛かりで駆け回る事にした。ひとり一つだけを熟す事それしか手が無かった。
村長の息子は王城に止め置かれ、俺たちは王都に散ってそれぞれ全力を尽くす事にした。
見事一週間後俺たちは五台の荷馬車を疾走させ、関所で十騎の騎馬隊の護衛と合流を果たし使い古しではあるがまだまだ使える予備の車輪を頂き村へとまっしぐらに帰還する事となる。
タキトゥス公国軍進発す。
俺たちが焦りに焦った一文が王都を駆け回る。
替え馬を引き連れての馬車隊になったのは国王陛下の裁可によるところが大きい。
良く気の付く人物だと噂されていたが、感謝するしかない。
間に合わなければ、俺は村人全てと三人の友を纏めて失う事になる、そう思うと胸の中が辛く、重い。
縁起でもねぇとばかりに馬車の操作に集中する。そろそろ関所だ、事故だけは起こしたくない。
村々の至る所に荷馬車が到着するのを待ち構えた優先順位別に梱包された荷物が待ち構えていた。
どうあがいても持っていけないものは処分するしかない。
荷馬車は先に着いた二台に詰め込めるだけの物を詰め込んで持ち主と共に王都へと向かった。
年老いた老人たちを先に行かせたのには訳がある。
五台の荷馬車が着いたとして、恐らく追撃戦となる可能性が大だからである。
荷物よりも優先すべきは人命、最悪金銭に近しい物品だけを持って行く事が追撃から逃れる唯一の手段であった。
一日、一日が精神を削る卸し金の様に、ゴリゴリと村人の平常心を削って行く。
「勿論余所者の俺たちが最後ですよ、安心してください。」
半狂乱になって叫ぶおばさんに優しく石岡君が答えている。彼は常に語っていた、本当の窮状を助けてくれた恩義をこそ忘れてはいけないと。
剣の素振りをしながら雑念を払っている、そんな危うさが見えるのだろうか?、いやきっと…。
予定より速く戻って来たと言うのに事態は蜂の巣を突いたように深刻であった。
俺たち四人は手荷物だけを手に取り、再会を喜んだ後、徒歩で王都へと移動することとなった。
「まぁ、予想通りだな。」
こんな時まで呆れるほど冷静な倉橋君を見て私は何を思ったのだろう。
不意に彼を抱きしめて仕舞う。
西田さんも石岡君もそんな私の行動に息を飲む。
「割り切んないで!、そんな簡単に人を割り切んないでよぉ!!。」
胸の奥底にあった彼の歪な人間性の答えが其処にあったのだと気付く。
彼は何時も独りだ、集団の中に居ても独りなのだろう。
一頻り泣いた樋口さんの手に槍を握らせる。
目の前でマナを注ぐ手本を見せてやってみるように促す。
他人を頼ると言う言葉と他人を利用すると言う言葉の意味の違いは何か?、それは信じるという一点であるのだろう。
失いたくないと思ったから俺は此処に戻って来たのだ、恐らくこうなるだろう事を知っていて、俺は危険を回避せずに此処にいる。
今までなら間違いなく市橋君達と同じように捨て駒として他人を扱えた。
俺は変わってしまった。それが良い事なのかはまだ解らない。
彼女の手の中の槍が赤く輝くのを見て、それでも良いかと思う。
戦いの果てに全てを失っても、其れを後悔しない位全てを賭けよう。
あるあるあるだらけの文章を修正…というより改稿。