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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第三十三話 村から始めた異世界生活

 男子二人は朝から晩まで村への貢献をしなくてはならないと言い切って真面目に狩猟に明け暮れている。

 先日など六メートル超えの大きな竜を捕らえて帰ってきた。

 仲のいいおばちゃんが言うにはドラゴンの子供で肉は美味、鱗も一枚で銀貨一枚と大体同等で取引される生きたお財布だと喜んでいた。



 石岡と倉橋の服や下着を洗うのに抵抗が無くなったのは何故だろう。

 二人とも何かにつけ世話を焼いてくれるが見返りらしきものを求めてきた記憶がない。


「倉橋の気を引きたいなら料理が出来ないとダメだが、困った事にアイツは香辛料からカレーが作れるくらいの腕前だ。一度喰わせて貰ったがスパイシーで美味かったぞ。」


 鹿を捌かせようとした意味をその時に知る。アイツにとって料理など何の困難でも無かったのだと。

 ちょっとした作業的罰則のつもりで軽い気持ちで言って来たのだと気付くと何だか変な蟠りが解けた気がした。


「固形ルゥ無しで作れるの?カレーが。」


「ああ、そうだぞ目の前でゴリゴリと香辛料ブレンドしてたから間違いない。」


 なんだよ、跳んだチート野郎だよっ!。心の中で吠えてみる。幸い此処には主婦の大先輩達が居る。

 どんな手を使ってでも見返してやらなきゃこれからもずっと立場が変わらない気がして焦ってしまうのだ。

 保護者と被保護者のような…解って貰えるかな。



 今日も目が覚めたら其処には朝食が用意されていた。

 男子二人は狩猟に出かける、私たちは遅くに目覚めて用意された朝食の前で毎朝敗北感を味わう。

 この敗北感…美味い…じゃなくて朝御飯が美味い…。



 彼等の洗濯物と寝床の敷布を回収して窓を開け放つ。

 今日もいい天気だから洗濯物は全部乾くだろう。西田さんと二人で洗濯板と盥と石鹸をもって小川の炊事場へと向かう。

 何時もの朝の始まりであった。



 洗濯を終えて全てを洗濯紐に通して固定して干す。家に戻り掃除をして食器などの洗い物をもってまた炊事場へと向かう。



 火口などの薪や枯草を採取してきた西田さんと擦れ違い炊事場へと到着する。

 木製のコップや皿を綺麗に洗っている間に西田さんもやって来た、盥の中に布巾を敷き、食器と調理器具をきれいに並べて持ち帰る。家の外に折り畳み式のテーブルを広げて洗った皿を並べて乾燥するために並べる。ニスが塗られていないのでちゃんと乾かさないと腐るのだそうだ。



 猟に出ている二人は干し肉で昼食を済ませているので私たちは二人で昼食を考えて作る。

 練習する時間はこの時間と夕食までの時間だ。

 村の奥様方の家々を毎日巡り、料理法を必死になって学ぶ。食べられる野草とはどんなものか?、調理法はどうすればいいのか?。



 山野草を摘みに老人達と歩き回り疲れ切って帰宅する頃になると、竈の前で美味しそうな香りをもうもうと漂わせた鍋をかき回して私たちを出迎えてくれる倉橋君がいる。

 洗濯物を取り込んで男女別々の洗濯籠に洗濯物が選り分けられている。男子の洗濯物は折り目正しく畳まれて居た。流石に私たちの洗濯物は畳まれていない、そんなデリカシーの無い真似をこの二人はしない。シーツとして使っている布だけはキッチリと畳まれているけども。


 汁物にトロみがあり、団子のようなものまで存在している。

 薄くスライスされたドラゴン肉にシャキシャキとした野菜が塩と何かさわやかなハーブめいた香りのする野草が炒め物として食卓の中央にドンと置かれている。

 土間の片隅から私たちが知らない桶が出てきてしんなりとした野草が石の下から取り出される。

 石岡君がそれを水に晒してからキュッと絞ってナイフでトントンと刻み小皿に盛る。


 全員に汁物が行き渡り、各自定位置の座席について手を合わせる。


「「「「いただきます。」」」」


 レモンに近い風味がドラゴン肉の炒め物から漂う。付け合わせの野菜からキャベツの親戚のような食感を感じ、肉とのコンビネーションを良く噛みしめる。

 トロみの付いたスープからは冬瓜のような儚い食感を咽喉で感じる、スープの底にあった団子は芋のようなデンプン質の確かな重みと歯ごたえ、なにより腹持ちの良さそうな満足感を覚える。

 合間合間に漬物を戴く。シャキシャキとした歯ごたえが野沢菜ととてもよく似ていた。

 この美味は嬉しい、物凄く嬉しいんだけど私たち堕落しちゃわないかとも思う。


「はい、食後に皆、好きな時間に食べるといいよ。」


 カサカサと乾いた音が袋から聞こえる。

 ジャガイモをカラッと揚げて塩を振った…もう、完全敗北でよくね?。

 西田さんと顔を合わせて泣きながら味わう。このチープな味わいは魂を揺さぶる力強さを何故か持ち合わせていた。


「確かに良くできたが、泣くほどか?。」


「女子は事あるごとにポテチを食う。姉も妹も母もそうだった。」


「なるほど、喜んで貰えたようで何よりだ。」


 シレッとなにを言いやがりますか、こいつらにサプライズを仕掛ける難易度は多分ハードモードだと私は思うのですよ神様。


「おいしい…。」


 本当に幸せそうに噛みしめる西田さんに頷いてもう一枚口にする…。

 さっぱりとしたドラゴンの脂を集めて揚げてますねコレ、転んでも唯では起きない、この癖だけは付けておかないと絶対差は埋まらないと私は確信した。



 虫の鳴き声が涼やかに聞こえる。

 そよそよとカーテンが揺れて月明りが目に優しい。

 ふと土間を見渡すと倉橋君がコップを片手に月を見ていた。

 何をするという訳でもなく黙って月を見ていた。

 私もつられて月を見る、倉橋君の横顔と半々で月を見る。



 放り出されたセカイの果てで、皆力を合わせて生きている。

 これからも生きて居られるのだろうか?

 何が待ち受けているのか、それとも待ち受けていないのだろうか。



 眠りに落ちる前の刹那、どんどんと力が抜け落ちていく微睡みの中で変わらなくてはならないその時を向かえるまでに、どうか神様出来る限り長い時間を下さい。

 私はそう、ささやかな願いを神様に祈った。



 月は滴る様なマナの輝きを放ち、俺たちに降り注いでいる。

 渇きを潤すために飲んだ水だが、不意に命を落とした卒業旅行生達に捧げたくなった。

 何故かはわからない、漠然とした不安が胸の中で渦巻いていた。

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