第二十八話 或る惨劇について(俯瞰)
絶食状態に近い生活を強いられた俺たちではあったが、一度に沢山食べる事を禁じて、少しづつ回数を増やして食べる事を全員に強いた。
女子二人に何故かと問われたが、石岡があっさりと答えを口にした事で、俺は糾弾を避ける事が出来た。
「絶食状態から行き成り重い飯を食うと人間は死ぬからだ。」
流石女子からも一目置かれているコイツが言うと無駄な説明をしなくて助かる。
お椀に半分の汁と一切れの鰐肉をゆっくりと良く噛んで味わうと俺は洞窟の壁際に背中を預けて眠る。
翌朝目を覚ますと、折角の食べ物を吐いて倒れている女子と、腹を抑えて呻いている女子の二人がいた。
係わり合うのも面倒なので静かに洞窟から外に出る。助けを求められたが人の話を聞きもしない馬鹿とは付き合い切れない。
二人とも息はあったので問題は無い、胃袋が消化してくれるまで我慢するしかない。
焚火の前で半分寝入っていた石岡を揺すってキャンプ用の携帯鍋を置き、朝食を食べる事を薦める。
「あいつ等全部食ったのか。」
石岡の肩に手を置き首を振る。
「死んではいないから反省させてやれ、自然から学べる機会を取り上げちゃいけない。」
鰐肉をナイフで小さく刻んで水と一緒に鍋に入れて塩を振って火が通るまで暖めて、ゆっくりと味わって戴く。
焚火を消して立ち上がると獲物が掛かっていないか確認するためにベースキャンプを後にする。
丁度昼飯時に戻ってきた俺たちは、重い荷物と幾つかの木材をベースキャンプの前に積み上げて、洞窟内部で引きこもっている二人に呼び掛ける。
食べ物を無駄にした罰として鹿の解体をさせることにしたのだ。
鹿の両足を木の棒と縄で拘束し木に吊るして両足首の血管を切り、頸動脈を切る。
勢い良くボタボタと落ちる血が血の水たまりを作る情景だけでも嫌なものを見る目であった。
「そんなに嫌なら喰わなくていいぞ。全部干し肉にすればいいことだし。」
鹿の腹を割る様に指示してナイフを握らせて見物する姿勢になる。
「石岡、手伝ってはダメだ、命を奪って食う意味をこの二人に理解して貰わないとここから先連れて行っても無駄死にするだけだ。」
「二人とも碌に料理もした事もないくらい、察してやれよ。」
「スマンそれは…気付かなかった。」
魚くらい捌いたことがあるだろうと、低いハードルを設置した気分でいたが買いかぶり過ぎていたようだ。
石岡が腹膜手前まで皮を裂き、女子の手を取り腹膜入刀と相成った。
まぁ、当然内臓がドロッと体外に零れ落ちる。
続いて俺が内臓の部位を焼き肉の品目で説明していく、これは石岡からの提案で見た目は既に生々しいのだから食指をそそる方向で説明してやって欲しいとの要望からだ。デキる男は違うな、見習わなければならない点が多くて知恵熱が出そうだ。
焼き肉談義をしながら捌いた内臓ではあったが、念入りに洗う場所も無ければ臭み取りも無いので今回はつぎの獲物の為の餌として使わざるを得ない事を詫びる。
旅の為の保存食を作り、人里ないし村を探すプランを説明するうちに、片隅で怯えていた女子が皆のところに戻ろうと提案する。
長い沈黙が流れる、石岡が頭を指の腹で掻いてこちらを見ている。
俺と石岡が双眼鏡ごしで見た惨劇と、皆を捕らえて連れて去って行った武装集団について二人に語らなくてはならない時が来たことを悟らざるを得なかった。
それは衝撃的な光景であった。木に登り周囲を警戒していた俺は、何気なく皆の待つ拠点を双眼鏡で確認した。
そこでは、御堂の前に立ち、見かけぬ男と口論していた…あれは多分井上だろうか?、大きく曲がったサーベルで咽喉を横薙ぎにバッサリやられる姿が見えた。慌てて石岡にも双眼鏡を出して確認するように指示を出し、暫くの間、惨劇の一部始終を目撃する事となった。
魔法のような…と言うよりも魔法そのものを行使する武装集団が年長者を狙って迷わず撫で斬りにした事。
助けを求める為に白旗まで掲げて出て行ったにも係わらず、”迷う事無く殺れる”その事実だけでココが地球での共通ルールが通じない場所と解る。
「委員長が斬られた手足が切り口だけ冷凍されていなかったか?。」
石岡が真面目に問い掛けてくるのでもっとしっかりと先程見た情景を思い出す。
「サーベルの方が凍っていたように見えた…冷凍しながら斬る何らかの技と考えた方がいいかもしれない。」
言葉を選びながら事実だけを互いに意見交換しつつ纏めていく。
生き残った全員が首に縄を掛けられて連れて行かれた後、探索から戻った班の者達が次々とボンヤリと立ち尽くし武装集団に連れて行かれた。
無力化する魔法か、それとも何かのお香でも焚かれたのかと二人で観察しながら息を飲む。
一部始終を確認し終えた俺たちは、あそこに戻るか否かについて極々簡潔に判断を下した。
「この丘の向こうは幸いにして川が流れている。川の傍には必ず人が住んでいる筈だ。」
俺の提案に石岡も同意を示す。
「この森は進化系統が雑多に過ぎる、氷河期を経由していないのは間違いないだろう。」
幾つかの草を毟って説明してくれるのだが、済まない石岡、頭に入らない。
脳の容積が限界に近付きデフラグを要求されたパソコンのようにとってもビジーな状態に陥った俺は、石岡の話を流し聴きながら状況を整理する。
樹上から時間を掛けて日が暮れるまで地図を描き、密林の出口と川への道を確認する。
幾つかの打ち合わせと行動の指標を立てて俺たち二人は女子三人を引き連れてサバイバルの旅へと行動を定めたのだった。
真実をキッチリ筋道立てて彼女たちに語って聞かせた。
幾つかの質問にはデジカメで撮影したR-18指定は免れ得ないグロ画像で答えざるを得なかった。
ハッキリと事実であると解る証拠がないと納得しない悪癖を治して欲しいと告げて電池が残り少ないデジカメの電源を落として壁際の定位置へと戻る。
夜中にこんな画像を見て彼女達は眠れるのだろうか?。
片手鍋から鹿肉のクズ肉で作ったスープを飲み、滋味あふれる肉の欠片を良く咀嚼する。
味噌や醤油が欲しくなるが塩があるだけマシであった。
字下げ忘れ。
拙い文を微修正…したところで拙いです。




