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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第二百四十二話 ひみつプラント♪封印消失④

明けましておめでとうございます。


本年も遅筆で拙い本作にお付き合い頂ける皆様に感謝し通して参る所存でございます。

尚、仕事がひと段落した途端にリンパが腫れあがってる作者でございますが、榛名は大丈夫です。

2019-01-01

 世界樹からの追撃を防ぐために、枯れ果てた世界樹の根が転がるフロアにユリ謹製の魔法陣を描く必要があるらしい。

 別段塗料や筆記用具などを用いずとも展開するだけで使える魔道具をトモエはマジックバッグから引きずり出す。

 思わず俺はそれを見て溜息を漏らす。


呪符(アルカナ)にしてはデカいなぁ。」


 レジャーシートのようにバサリと広げて、トモエが手早く栓を抜いた聖水をトポトポと注ぐと黒を基調にした衣装に身を包んだ背の高い美男子が魔法陣から染み出すように現れた。


「水先案内に感謝する、我が主の盟友よ。」


 貴族にするような恭しい一礼を優雅に熟した男は、コートを翻すような軽やかな動作で黒い翼を大きく広げて黄金の宝杖を手にする。


「あとは任せていいわね、コイツを早くユリに診せないと死ぬからさ。」


 幾つかの生薬を混ぜ合わせた猛烈に苦い薬を与えられて気絶したタツヤの前髪を左手の指先で透きながら、苦笑いをするトモエ。

 黒翼の男は軽く顎を引いてその言葉に答える。


「勿論追撃などさせはしない、主の名に賭けて誓う、安心して後ろを気にせず帰るといい。」


 暫時漆黒の瞳が黒翼の男の眼の奥を射貫く、値踏みは済ませたとばかりに一つ頷き、(おもむろ)にタツヤを担ぎ上げて背負う。


「変なのが来たら逃げなさい、汚染(けが)される前に……ね。」


 そう一言残し、彼女は歩いて行く。

 人を数段程超越した存在に、忠告出来る存在とは何であるか?、其れは則ち神や悪魔の類であるだろう。

 彼女の背中でグッタリしている人間からも、黒翼の男が仕える存在が放つ力の波動が感じられる。

 超越者を従わせることが出来る存在、神の格を与えられてしまった彼らもまだ知らぬ事は多い。

 使いの身である黒翼の男達から見れば、問答無用で仕えるに足る存在達。

 逃げても良いと言われる程の何かが訪れるでも言うのだろうか。


「いや、来るのだろうな、神の言葉は避けがたい事実を時として我々の前に顕現させるのだから。」


 彼の周囲に幾つかの光が浮かびフロア一面に描かれた魔法陣とリンクする。






 それは─────


 汚泥。


 命を失って久しき魂たちの慟哭。


 彼に倒された───彼に殺された。


 多くの人間たちの怨念と執念の汚泥。


 依り代になるはずの肉体を亡くしてしまった───否!奪われてしまった。


 復活が近い事を喜び過ぎて失われた生気を一刻も早く奪わんと欲したが為に、その身を集めて晒してしまった凡ミスが運命を明後日の方向へと捻じ曲げてしまった。

 誰を恨むでもなく、誰の責任にも出来難い凡ミスをやらかしてしまったのだ。

 どうしてそんなことが想像できるものか、どうしてそんなキテレツなアイテムをソイツが所持している等と思うものか。

 異次元にアイテムを隔離できる素敵収納、ラノベの基本中の基本、物語によっては誰でも所持している戦略兵器、輸送の革命アイテム。

 マジックバッグに身体のパーツ全てを仕舞われてしまうと言う致命的なケアレスミス。

 依り代を失った、己の肉体と云う説明不要の相性など問うべくもない身体を持っていかれたのだ。



 ─────こんな状態で封印を解かれでもしたら何を元にして復活を果たす事になるのか。



 強大な力が動く気配がする。

 マナでも無く、オドでも無く、不可思議な力があらゆるものの力を踊り食いにして機構を回していく。

 言うなれば魔法力、マジックパワー。

 この世界の理の外側から書き加えられた新たな概念魔法が封印に干渉しながらバリバリとメッキを削り剥がしていく。

 理不尽に非常識を塗り重ねて新たな常識として染め上げて行くが如き蛮行がパッチワークのように繋がれて構築された空間を元通りに引きちぎって繋ぎ合わせていく。

 千切られた魂が飛び散り、元の形へと戻るように各々の空間から投げ出されていく。


 未だ───。


 そう、未だ早いのだ、身体を取り戻していない。

 戻る器を喪った魂が次第に彼の封印を解いていく、解き解していく。


 辞めてくれ。


 明確な意思でもって拒絶を試みるも、励起した魔法陣は、無慈悲に容赦無く、生前の彼が持っていた活力を()()()()()()


 絶叫。


 魂が引き裂かれる痛みと五体が引き千切られる痛みのどちらが上げさせたのかはわからない。

 ただ、痛みが治まった彼の周りには、彼が殺した者達の因果が渦を巻いて待ち構えていた。


 捕食の宴が始まる。

 彼は遥か昔、勇者として召喚され人を、魔物を、世界を蹂躙した。

 彼は今新たに創られる。


 彼が殺した者達の恐怖や絶望、憎悪と怨念、他者から見た彼の姿とイメージを投影されてその身が構築されて行く。

 己から見た自分自身など只の一面から見た姿だ、多種多様な目で認められた姿こそが真実であるとするならば、其処には一切の美化も無く、全くの妥協が無い在りの儘のアナタが其処に生まれ落ちるであろう。

 父を、母を、兄を、姉を、妹を、弟を、祖父を、祖母を、血塗られた剣で嬲り殺す者の、顔や姿や声が美しいモノであって良いものだろうか?。

 恋人を、妻を、夫を、家族を、赤子を、その輝く魔法の力で焼き尽くす者の、心や魂や目が奇麗なものであって良いのだろうか?。

 否定がそこに並ぶ、拒絶がそこに並ぶ、怨恨の呻きが辺りを包む、返せ還せと慟哭の果てに声すら出なくなった者達のギラギラとした瞳がアナタを睨んで離さない。





 世界樹が世界中から吸い上げて集めたあらゆる穢れが、祓われず集まり続けて蟠ったまま湛えられ、今日(こんにち)まで保存されていた。

 神々が世界を見捨てたその時から、浄化の力など失われた世界樹は吸い上げて、吸い尽くすしか能が無かった、無くなっていたのだ。

 世界樹から世界の穢れが逆流する事を防ぐ為に造られた”ひみつプラント♪”には初代勇者をついでに封印する機構が備えられていた。

 それは綿密な計画の末に為された難問を先送りにするだけの舞台装置。

 センパイが世界を救った物語の終幕に起きた出来事。



 汚泥が封印から解き放たれ、形を得る事無く、遥か深い地層へとじわりじわりと染み込んでいく。

 やがて彼は地下水の流れる場所へと行きつくであろう、あるいは岩盤の上を流れて地底湖へと至るのであろうか。

 それは未だ我々が知る由もない話であった。





 ───── ・ ─────





 過去、そこは医務室か何かであったのだろう。

 安静に出来る場所としてこの部屋は優秀で、無影灯や手術台等の設備が残る間違えようの無い用途の部屋だ。

 壁にはタツヤのものである血痕が手形と共に残っており、黒エルフとの激戦の痕跡が廊下に刻まれている。

 螺旋状に床から壁、天井を駆け抜けて又、床に至る、人間を辞めた存在に抵抗し、疾駆した痕跡である。

 化膿や縫合不全が無いか確認したトモエは抜糸の作業を浄化しながら行っていた。

 勿論タツヤが縫えなかった背中の化膿した部位を切除し再縫合したりと割と時間のかかる手術を施した後ではあるが。

 技能実習では献体の縫合や動物の肉での自主練くらいしかした事の無いトモエではあるが、そこはタツヤともあまり変わりはない。

 野戦病院に配属されでもしない限り学生に患者は荷が勝ちすぎるものだ。

 運良く国都防衛戦等の、敗色濃厚な戦況では無かった彼らは、将来の軍医となるべく養成された医師の卵であった。

 しかし、今は孵化する事も無く異世界に飛ばされ、学んだ事も殆ど生かせない……寧ろもっと別の事を学んで置くべきだった事を悔やむ様な生活を送らされている存在なのである。


「よし、治癒魔法は目が覚めたら教えて貰おう。」


 丁寧に縫い終えた背中に走る七本の創傷を確認して一息ついたトモエはソファーに身を預けてとっとと寝る事にしたようだ。

 この部屋から地上へは約三日の距離である。


 但し、封印が解かれた今はどうなのか?。

 それは何れ語る時が来るだろう。

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