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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第二百四十話 ひみつプラント♪封印消失②

 トモエの独断先行によるタツヤ捜索は、十日目の朝を迎えた。

 僅かな進展有りと、メモに走り書きしたトモエは、蔦のような植物に絡めとられ全身に木の根が突き刺さり枯れ果てた黒エルフと、フロア全体を埋め尽くす様に繁茂した木の根に幾度か薙刀での斬撃を加える。

 黒エルフの樹は斜めに切り裂かれた斬撃の痕を遺し、崩壊の兆しを示す破砕音を立てて折れているが、木の根の方は纏う様に帯びていた結界ごと切断され、パックリと割れた部位から水を噴き出していた。

 世界樹に備わっていた高いマナによる防壁は、非常に残念な事に彼女の薙刀による斬撃の前には無力であった。

 瑞々しいナマモノの根に鬱憤晴らしがてら幾らかの刀創を更に深く刻み、それにも飽き足らず切断した根を細切れにしたあたりで小休止を入れると、徐にトモエはセンパイから届けられた除草剤をマジックバッグから取り出し、振りかぶって容器ごと根に打ち込み、薙刀の石突きで更に力強く深く押し込んで、仕上げとばかりに一突き入れて容器を割った。

 尖った形をした茶褐色のガラス容器が濁った音を立てて割れると内容物である除草剤がシュウシュウと焼けて煮え立つような危険な音を周囲に響かせる。

 塩酸か硫酸の類を疑い、トモエは数歩後ろに飛んで除草剤から離れた。



 ───効果覿面。

 驚く間も無く枯れていく根に除草剤と言う何かの正体を詳しく知りたい気持ちが湧き上がるが、センパイから送られた手紙の内容を再読して確認し、その指示通りに火炎瓶を投げ込んで魔法で着火して燃やす。

 根から消火の為に必死になって放たれる水も、水魔法も無視して化石燃料は燃え続ける。

 周囲がジャングルのような高温多湿となってもトモエは意に介さず、火勢が弱まると又、除草剤を抉りこむように炭化した根に打ち込み、石突で深く深く押し込み未だ焼けていない生きている組織に刺さる感触を確かめたのち、最後に捩じって除草剤の容器を割って内容物を溢れさせる。

 あとはルーチンワークであるかのように枯らして燃やすを延々と繰り返すだけだったが、その内枯れてゆく範囲が速度を増して異様に広がって行く事に気付く。


「免疫不全かしら、作業が捗るからいいけど。」


 枯れていく根の一部を握るとウェハースのようにパリパリと砕け散る。

 先程の燃やされながらも水を撒けるほどの生命力は感じられない。

 確かな手ごたえを感じつつ、容赦ない作業が続いて行く。



 やがて火は黒エルフの樹にも引火しフロアが黒焦げになっていく、その過程でみっしりと隙間なく根が階下への道を塞いでいる場所を見つけ出し、除草剤を黙々と打ち込む。


「進展はあったものの物資の浪費が甚だしい、除草剤の効果は想定よりも弱く、改善の余地あり……と、あとは爆炎魔法あたりでこの気持ち悪いのを吹き飛ばすしかなさそうね。」


 メモを取り出してガリガリと状況報告を書付け、マジックバッグの中にいる人造生命体にそれを手渡す。

 紙のメモ用紙のようにさらさらと書き付けられれば良いのだが、残念なことに獣皮紙か羊皮紙くらいしか記せる物はない。

 羊皮紙は使用後やすりで削ればまた再利用できるとてもエコな代物ではあるが、如何せん羊皮紙の書き心地は非常に悪く、時々ペン先が所々存在する凹凸に引っ掛かり、文字の態を為さないナニカが書きあがる事がある。

 そんな時は目を付け、耳を付け仕上げに髭を書いて猫の絵にして誤魔化すのはトモエの何時もの癖である。

 猫のある場所は必ず書き損じるので、そこを遺して他の部分を削って再利用すれば新たな書き損じは防ぐ事が出来る。

 メモ程度ならその程度の羊皮紙で十分である。



 一晩経過してマジックバッグから爆炎魔法が封じられたスクロールと、追加で送られたらしき除草剤入りの瓶が取り出される。

 ラベルには強力除世界樹剤Var.2.3と書かれていた。

 マジックバッグ同士でのアイテムの遣り取りは手紙や小包程度なら可能であるが、タツヤがその気になればガバガバなサイズでの遣り取りが可能になるだろう。

 タケルに奪われてはならないアイテムの筆頭であるので制限を掛けている訳だが如何程の意味があるのかは不明であったりする。



 聖なる光の尾を曳きながら、トモエの薙刀が世界樹の根をフードプロセッサーのように粉々に挽いて行く。

 時折強力除世界樹剤の瓶を投げ込んでは砕き、その活動を停止させては穴を掘る。



「魔力を通して励起させて……我、樋口鞆絵が盟友西田百合の名を借りて命ずる、我が道を阻む彼の物を焼き滅ぼせ”地獄の爆炎(エクスプロージョン)”。」



 詠唱を用いた封印解除ならば、周囲の被害を考えずに解放しても構わないとユリの記した注意書きを思い起こす。

 確かに使用者を保護する魔法の壁が存在することを知覚できるので、なるほどなと感心する。

 無詠唱でスクロールを開放するとホブゴブリン程度には通じる威力どまりの(ささ)やかな威力であるそうだ。

 彼女の(ささ)やかなと言うべき威力の基準は、小さな村一つ丸ごと焼ける威力であるらしい。

 そして、変身して専用ステッキで封印解除を行えば、魔物との戦闘で大いに役立つと記されていた、その手紙は読み終えたあと止せばいいのに試しに使ってみた結果、添付されたステッキと共にマジックバッグの奥深くに死蔵されている。



「あの格好は無理……絶対無理。」



 変身する際に一度全裸になる必要性が何処にあるのか理解できない。


「仕様よ。」

「仕様だな。」

「仕様……いや伝統だろう。」


 私には理解できない。

 見たこともあるし確かに楽しかったのだが、そこは慎みを持つべきだと思うのだ。

 そして、そんな伝統廃れてしまえと願う。



 ──── ・ ────



 潮が引くように根がズリズリと音を立てて階下へと退き下がっていく。

 タコやイカの触手のようにうねったりはしないようだが、植物の生長を巻き戻して観察しているかのような気味の悪い光景だった。

 カンテラを胸元まで掲げて、引き潮のような速度に合わせて根を追うことにした。

 逆撃を食らわないように十分警戒しながらではあるが、その速度は小走りよりも速く、立ち止まれば結構な距離が開くくらい速く、脇目も振らない”逃げっぷり”であるかのように見えた。

 直感で逃走と判断した理由は判らない。

 恐らく”目的”なりなんなりを達成したのだろう。

 それは酷く嫌な予感を伴う痛痒を私の胸の中に落とした。

 悪い予感である。



 予感は予感として大事ではあるが、致死量が不明である以上、強力除世界樹剤の投与を辞めるわけにはいかない。

 それはそれ、これはこれである。

 色々とお約束があるらしいが()()()()()()()()()()()()、世界への悪影響とか説明されても()()()()()()()()()のだ。

 有害な雑草なら刈ればいいし、馬が食わないなら燃やせばいい。

 武家と云うものは斯く在るべしと近くの気に食わない他家の首など捩じ切って仕舞えば大人しくなるし、大人しくさせてきたのだ。

 言い換えてしまえば()()()なのだ。

 領主一族と山谷を駆けた時代も、周辺の豪族を捻じ伏せて従わせ続けて来た青春時代も、荒れ野で戦い敗走したあの日も何時だって邪魔者は排除し続けてきたのだ。

 全て今更何をどう繕っても変わらないし変えられない、唯一排除できなかったものは、あのお方の大切なものであったから、ただ其れだけ───。



 だから─────。


 ─────私は変わらず排除するだけだ。


 邪魔者を─────。



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