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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第二十三話 象殺しの男、成長する

 最後は建国王、すなわち初代国王の墓へ参る事となる。

 色々と碑文があったのだが記憶に残ったものは唯一つである。いや、魂に刻まれたもの…と言い換えるか。

 献花を済ませ墓守に国王陛下からの書簡と御館様からの書簡を届ける。

 順番を逆にすれば対応が変わったであろうが、のんびりと参るつもりであったので結果としては良かった。

 ローラはお怒りの御様子ではあったが。


 たった一行の碑文の前で僕は立ち尽くした。

 初代国王の最後の言葉は日本語で書き記されていたそうだ、それを意味も解らず碑文として遺したのだろう。


「誰も読めないけれど、建国王最後の言葉として残っているのよ。」


「──ん、───い。だよ。」


 ローラの丸くなった目を見続けることが出来ずにその場を後にする。

 建国王の意志を知る事が出来たが遺志は流石に判らない。

 結局、何をするかは自分で決めるしかない。判り切っていた結論を胸に、僕たちは王陵を後にする。

 懐かしき使用人小屋まであと少しだ。






 轟音が聖地に(こだま)する。

 騎兵の演習として象狩りが行われているのだ。

 折角の国王陛下肝煎りでの植樹祭であったが、半数がこいつらに食い倒されたからである。


 ウィリアムによる熱い主張と言い出しっぺに仕事をさせよと言う古くからの気風も手伝い、百騎の編成が認められた。

 そこで斧が使える大柄な男たちを集めて重装騎馬隊が編成される事となった。

 足は遅いが力強い、どちらか問われれば農耕馬だと断言される騎馬隊が砦を進発する。

 飼葉をどっさり積んだ輜重隊が宿営地へと遅れて進発した。守備隊長のモロゾフは何時も通りイグリット教徒への警戒と抹殺を支持すると王国側への警備強化を重ねて厳命する。

 毎日必ず一人は何処かに隠れ潜んでいる。何かこう便利な魔法は無いかと思案する日々であった。


 一日一頭は確実に仕留め根絶に努めていたのだがついに植樹した苗木を全て食い散らかされるに至り、軍も本腰を上げざるを得なくなったのだ。

 そうなると基本的な指揮権はウィリアムにある。


 今のままでは象の餌食になりかねない練度の騎兵隊であると判断し、猛烈な練兵を開始するに至る。

 不満を持ち反抗的な者を寄り集めて隊伍を組ませ象と思う存分戦わせ、残りの騎馬隊にそれをじっくりと見分させて、今何が足りないかを徹底的に問うた。

 当然奮闘空しく死体となった兵たちもあったがウィリアムはこう一言言い残し…。


「こうなって欲しくなかったからこそ、必要な力を得るまで鍛えなくては、ならなかったのだ。」


 そう言って王国旗を遺体に掛けて敬礼を施した。

 訓練は苛烈を極めたが、ハッキリ言って象は生きた対城兵器だ、鱗もあるし角もあり長い牙を振り回して人を枯れ木の様に押し倒す魔獣だ。

 穏やかな生き物では無い、少なくともこの世界の象は魔法抵抗が高いのだ。


 文字通り血反吐を吐きながら必死に一頭を仕留めた隊は功労者が病院送りになり、今一つ士気が高まらない。

 象を屠る手段を持つのはウィリアム唯一人であった。

 そこでウィリアムは百人の斧を扱える騎士を騎兵に仕立て、数で仕留める方法を編み出した。

 後からやってきた騎士に象を倒す為だけに斧の訓練をさせる訳にも行かず、練兵も暗礁に乗り上げた。

 聖地近郊の古戦場を巡り、ザイニンが召喚される扉を探すと言う、ウィリアムが過去、一人で没頭していた地獄の作業を訓練に加える事となったのである。


 ドラゴンスレイヤーが象狩りにも投入されるに至る。

 魔法師団の一部が派遣され、その威力のお披露目と相成った。

 欠点は発射前に動くことが出来ない事と細かな調整は無理。と言う事で成果はあまり上がらなかった。


「象を撃つのであるならば弾体を小さくして荷車の上で魔法構築してから限定威力で十分でしょう、竜種ほどの強度を持つ大物なら別ですが。」


 そう答えたのは、自称生活魔法使いである。より一層使い勝手が良くなったドラゴンスレイヤーは、魔法師団で流行する事となる。巨砲主義と利便主義の二つの勢力に別れて…であるが。


 ザイニン捜索に勤しむ騎馬隊ではあるが、成果は確かにあった。

 幾つかの武器を手に入れた有志達が象でその威力を披露することになる。

 人海戦術で探せば何とかなるものなのだなと己の労苦を顧みて足から力が抜け落ちそうになるのを堪える。

 血に染まった様な赤い槍や金色に輝く大剣、そして形が特徴的なハルペー、そして禍々しい黒い刀。

 四種の武器のお披露目がなされ、象は刺身となった。


 貫く事に特化された赤い槍、切り裂くことに特化された大剣、首狩りに特化されたハルペー、そして、刺した象の血を今も啜り続ける不気味な刀。

 存在が濃過ぎる武器達であった。

 武器に正しく使用者と認められるか否かはさておいて、任務の遂行を急がねばならない。

 夏が訪れれば士気もガタ落ちするからだ。


 騎馬隊を四隊に編成し、追い込み、足止め、止め、の三役で事に当たる事を厳命し、実戦形式での訓練を繰り返し行う。

 ウィリアムは基本身体を張って教えるタイプなので熱血でやりすぎて仕舞うが熱心さは嫌でも伝わるので、そのうち彼は畏敬を集める事となる。


 何度か実戦に及ぶが、仕留めきれない時はウィリアムが殿軍を努めて一人で象に肉薄し叩き殺す。

 ウィリアムの戦い方は真似をしてどうにかなるものではないが、基本軍人は強いものに憧れ、強いものに従う。

 血塗れになりながら帰ってきたウィリアムを出迎えて帰路に就く。


 彼等は夏の日差しが強くなる頃に派兵を終えて、横列による絨毯大捜索を行いながら草原に潜むザン・イグリット教徒を血祭りに上げながら帰還した。


 ザン・イグリットの経典と信奉する主神の画布を踏み締めて砦の中に入る。

 あれからこれらの単純な儀式は王国のそこかしこで行われている。踏み絵というヤツである。

 王国の過去の文献でもそのような行為が何度か行われており、今更取り立てて誰が広めたとか言う儀式等では無かった。


 ザン・イグリット教会の跡地に謎の地下室が存在すると、囁かれてから軍人が派遣され、それはあっさりと発見されるに至る。


「開ける前に聖職者を呼んで浄化してください。」


 帰国して最初の仕事からいきなり面倒な事態になりそうなタケルであった。


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