第二百二十五話 拝啓、ダンジョン三十階層より。
コンクリートで出来た壁に永続魔法による耐久コーティングが施されている。
必要に迫られて壁を破らんと試みた結果知る事が出来た事実に絶望度が増す。
破壊不可能な壁であると言う現実が其処にある、イザとなれば迷宮のセオリーを無視して逃げる腹づもりであったが、困った事に逃がしては貰えないようだ。
パッと見このダンジョンは公共施設のような造りをしており、デザインは市役所や学校のようなありきたりで無機質な印象を受ける。
その平凡なデザインであるにも関わらず大きな違和感が全体的に存在する。
マッピングが必要なレベルで廊下が迷路になっており、階段の位置に一貫性が無く、所々に無意味な行き止まりが登場し俺を悩ませること仕切りであった。
何処からか遠くない場所から黒エルフの咆哮が轟くが、魔法の所為かどうかは定かでは無いが、位置を掴めないように音が乱反射している。
これも防犯やら侵入者対策なのか精確なところは不明なのだが、逃げる側としては迷惑な事この上ない。
エルフ語で記された案内板と地図を確認したが、ここまで複雑な構造では無かった。
エントランスホールと記された場所は確か臓物が撒き散らされたような生体通路だった記憶が薄っすらとある。
生暖かく柔らかい床を踏み締めて降りてきたのだから間違い無いだろう。
時折現れるバイオなハザードの被害を受けたような歪な生物との戦闘をこなし、魔石を回収する。
貧乏性過ぎる己の行動に頭痛がしないでもないが、捨てて行くにはあまりにも惜しい。
マジックバッグからシュークリームと良く冷えた緑茶を取り出して小休止、障壁魔法で壁を形成して警報の魔道具を設置して槍を抱えて眠る。
どうせ一時間後もすれば黒エルフが遣って来る、眠れるだけは寝て置きたい。
重苦しい衝撃と共に警報が鳴り響く。
ここ最近の目覚めは何時もこうだ、黒エルフのショルダーチャージで障壁魔法がパリパリアイス最中のように脆くも崩れかけていた。
障壁を挟んで黒エルフと対峙する。
ゴールキーパーとストライカーのような姿に見えなくもないが、捕まれば間違いなく犯される。
背筋に冷たいものを感じながら身体強化魔法をオリジナルを交えて掛けて行く。
ブツリと言う音が体中のあちこちから聞こえる。
毛細血管の切れる音だ。
壁と天井を螺旋を描くように駆け抜ける強引な疾走で黒エルフの股の下を通過する。
膝を絞められていれば終わっていただろうが判断は間違っていなかったようだ。
黒エルフから逃げる場合、常に九死に一生を得るレベルでの判断を必要とされる。
ループ能力が封印されている今の俺は、ワンミスで取り返しがつかない心的外傷を背負う事になりかねない。




