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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第二百十話 工事現場作業員

家の表と裏から重機の音が、ここ四ヶ月鳴り止みません。

その思いをジョーに託します。


全然文章や思考が纏まらないですがフと疑問に思った事があります。

工事の人たち、プレミアムフライデーもなく、毎週土曜も休まず働いて住宅街で工事を続けています。

市の依頼でやってる筈なのに労基にモロ引っ掛かる労働ぶりなんです……。

そのうち死人とか出されると困る、小説の中だけで十分スよ人死になんて。


 やれることを全力でやるしかない。

 誰かがそんな事を言っていた、確かに目的も無くフラフラしているよりは随分とマシで建設的な意見であるだろう。

 空中空母の艦載機出入口の上に建設されていた城を吹き飛ばして艦内に人を移動させる方針を定め、半日以内に王城から退避せよと命じミサイルを打ち込む。

 有無を言わせない攻撃であるが、権力者にその陣地を明け渡せと言葉で言ったところで素直に譲渡することは絶対ない。

 籠城戦で悪戯に民衆の命を浪費して全滅等と言う結果も散見されるものだ。

 間を置いて財宝を運び出す様子を確認しながら城を更地にすべく断続的にミサイルを撃ち込む。

 できれば被害を少なく、殺さないようにしたいところではあるが誤射は絶対おこる、オートターゲットに対して魔法攻撃などすればそちらに弾が飛んで行っても知った事ではない。

 反撃ないし反抗は認めない、無事に地上に降りたければ我々の言う事を聞けとは既に告知済みだ。

 瓦礫と土砂を取り除き艦載機出入口(カタパルトは長い年月で堆積した土砂の下)を露出させなくてはならない。


「駄目だ、システムが表層部の人間を"人"として認識してくれない。」


 ホログラムキーボードを打鍵しながら苦り切った表情を隠さないラゼル。


『細胞・血液・遺伝子のサンプルを採取とはどういう意味だ』


 未知の要求に困惑仕切りなゴールディ。


「魔法でも錬金でもなく医学かな、専用の採取キットみたいなものがあるのか、それとも設備があるのかをまずは検索しよう。」


 虚ろ憶えの薄っぺらい知識でなんとかゴールディの疑問を解かそうと試みる。


「わかった。しかし土砂の除去を任せて大丈夫か?。」


 二人の頭脳を生かす為に肉体労働を買って出ただけの事ではあるが、これは或る意味必然の選択であると言えた。


「自信は無いけど多分やれるさ。」


 格納庫の隔壁を開きショベルカーで土を掘る。

 御覧の通り元の世界の重機、通称ユンボである。

 この手の重機を感覚的に理解できるのは、動作している状態を見た事があるからと言う既知の情報があると言う事に他ならない。

 掘り出した土砂はブルドーザーで除けていく事になる。

 当然閉鎖された空間に取り除いた土砂を廃棄する場所など無いので格納庫の壁際に適当に、それでいて満遍なく固めて集める事になるが、なんとかなるだろう。

 空中空母が垂直に体勢を変えた場合内部の土砂は壁際に流れて溜まる、最初から集めて固めて置けば後は土魔法で……などとプランを考えていると、外からりミサイルの爆発音と衝撃が響いてくる。

 魔法障壁の耐久力と堅牢さを体感出来て有難いが、取り敢えずのところは、この作業に没頭し作業内容をルーティンワーク化、要するに身体に覚え込ませ惰性でやれるように取り計らい、脳のリソースをゴールディに回してやりたいところだ。



 地表に存在する東方都市アンヅの市民を、どうにかして"人"として認識させようと試みている理由は艦内に収容できるか否かという理由である。

 奴隷や捕虜と言う括りで収容を試みたものの、エラー文が端末から吐き出され"人"ではありません"人類"に該当しません。

 ……と来たものだ、明らかに人型であってもモンスターやアンノウンに分類され、家畜にカテゴライズしようとしても"人型"です、と来たものだ。

 オークは"食用"に分類されており"人型"のフィルターからは除外されている、多分"味"がボーダーを超えさせたのだろう、なにせ驚く程美味い。

 ラゼルは艦上のカテゴリーアンノウンをせめて人として認識させようと必死であった。


 ピコンと音が鳴りディスプレイに表示される文言を僕達は何度も見た。


 ──────エルフに非ずんば人に非ず。


 つまりはそういう事である。





 嘗て世界を席巻したエルフ族による異種族支配の名残りとして旧人類はエルフ以外、地上で殺し合う憐れな生き物として認識されるに至った。

 支配者たるエルフは空に王国を築き、世界樹を窓口にして世界を放置気味の支配下に置いた。

 選民が進み、地上の他種族との交流を汚らわしいものとして扱う事により統治がおざなりになった顕著な例である。


『ここには図書館は無いみたいだ、私は一体どこに収容されていたのだろう』


 ぼんやりと見取り図を見ながら入浴後のドリンクタイムを楽しんでいるとゴールディがひとりごちる。

 艦内の屋外監視モニターのある部屋に寝室を設け、そこの端末で得られる情報を元に空中空母の掌握を試みる。

 ラゼルに至っては管制室の制圧を担当しているため俺より自由は無くなった。

 それも致し方ない、ハッキングによりシステムを乗っ取ろうとする場合、エルフと同等かそれ以上、所謂上位互換でなければアクセスする事も出来ない。

 精霊族や妖精族等の幻想種に適した造りをしている魔法コンピューター、概ね霊子と植物と魔石や鉱石、それに勇者から齎された半導体技術、エルフのマッドサイエンティストが心血を注いで創り上げたテクノロジーの集大成が王国の基幹を支えているのである。

 実際過去にラゼルがこれらの機構に行えた行動は破壊と言う名前の足止め程度のものであり、現在のように自動修復が完了してしまっていると殆ど付け入る隙が無い代物だと言える。

 精霊族のラゼルによるハッキングはエルフにとってイレギュラーであるのか想定されていた出来事なのかはようとして知れないが……。


「アスレチックコースやクイズばかり出してくるコースが続いているが、セキュリティやプロテクトのような、ジョーが危惧する精霊殺しのようなものは仕掛けられていないよ。」


 久しぶりのコーヒー休憩と共に溜息交じりにラゼルは答えてくれた。


「同族か、其れよりも上の存在に対する節度は守っているところが鼻持ちならないところではある、あるけれど今回のような非常事態に生命の危機を考慮しなくていいのは有難い事だよ。」


「油断大敵ですよ、ラゼル様。」


 ちくりと一刺し注意喚起する。

 チラリとテーブルの上の穴だらけになった自身の写真を一瞥するとラゼルは良い笑顔で笑った。


「ああ、わかってる、相手の本心はそこにある通りだからね。」


 そして一枚のカードキィを俺に差し出して来る。


「空中空母下層部に最初の転送者、ジオルナードの嫁が保管されている、どう扱うかは君に一任したい。」


『こんなところに何故……』


「さぁな、女帝マーリナ・エセト・ブラウにどの様な思惑があったにせよ、滅亡した旧王朝から持ち出された至宝が時の支配者の手に渡る事など良くある話だろう。」


 さて、またもや良く判らない存在と話が二人の間で盛り上がっているようだ。

 嫁か……嫁という言葉にはありきたりな意味とイカれた意味があったな、人によっては毎年嫁が増えたり、課金する事によって存在が強化されると言うモノであったはずだ。

 ラゼルが俺に任せると言ったからには理由が存在するからであるだろうが、さて、同郷の者であるかもしれない事以外に何が俺と共通するのだろうか?。

 真っ暗な外の景色を眺めながら休憩室を後にする。

 肉体労働に従事した後は頗る眠くなる、ゴールディが頭脳労働し続けているので疲れは倍増するのだが誰の役割も替わって等やれない役割である以上、雑用は俺がやるしかないだろう。

 益体も無い考えで遊び乍ら布団に潜り込むと、俺は何一つ抵抗する事無く意識を手放した。



 猛烈な爆風で城の基礎部分であった丘が吹き飛び、城が金属質のドームの上に建っていた事を東方都市アンヅの住民たちが知る事となった。

 彼等の騒めきなど何処吹く風のように周囲にミサイルが降り注ぎ、徐々に艦の表面が露わになって行く。

 お目見えしたのは滑走路の一部、どこまでも平らで遮蔽物は土砂しかない。

 爆風で土砂が耕されたところにブルドーザーが走り人の通れそうな道が拓かれる。

 ジョーの命に危険が及ばないように作業中は障壁魔法で付近は立ち入り禁止状態になっている。

 障壁魔法による保護地帯は戦闘により穴が開いた場合の応急処置として展開されるバリアーであり、別段新規で誂えた機能では無い。

 開口部までの道路を整備しながらジョーは焦りを憶えていた。

 空中空母に少しづつ傾斜が掛かっている事に今更ながら気付いたからであった。

×零子 → 〇霊子 訂正しました。

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