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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第二百五話 空中空母

 軌道エレベーターバベルの失敗を反省材料として建造された空中空母。

 地上から打ち上げるよりも安価に宇宙へ行ける事をコンセプトとして設計されたものであり、空母というよりも空港と呼んだ方がより用途としては正しい。

 世界大戦らしきものはあったとデーターベースに幾らか記載されていたが、それを纏める者はおらず、多くのタブロイド紙の情報やネットユーザー有志のニュースなどが煩雑に納められている程度でふっつりと情報は途絶えていた。

 名前は違うが顔はクローンのように同じ研究員たちによる運用状況の報告や患者の容体や投薬情報、製薬についての意見書等を見乍ら、不意にゴールディが唸る。


『エルフの女医は私が気付かなかっただけで何十人もいたのか……』


 二千年の時を越えて知る驚愕の事実に彼の意識は真っ白に塗り潰されていた。

 ホログラムキーボードを叩きながらラゼルが幾つかのアクセスウィンドゥを開いては並べている。

 全てにIDとパスワードを入力するBOXが示されており重要な情報にアクセスするために必要な鍵であることは疑いないだろう。


「全部ダミーである可能性も否定できない。」


 ラゼルが破壊した張本人である以上、ラゼルが易々と突破できる状態で放置はされていないことが予想される。

 廊下にラゼルの顔写真のような手配書が幾つか掲示されているのを発見したので推測してみたが当たらずとも遠からずな推理となるだろう。

 ダーツの矢が刺さり過ぎて穴だらけになっているラゼルの写真など状況証拠に事欠かないのは御愛嬌である。


『コーヒーサーバーがちゃんと動くのは嬉しいねぇ』


「俺が元居た世界より凄い機械だよコレは。」


 コーヒー片手にドリンクマシンを調べ、そしてコーヒーを頂く……毒無し、汚染無しとくればいただきますである。

 日本的薄味コーヒーであるアメリカンを味わいつつラゼルにも一杯提供する。


「苦いな、だが香りがいい。」


 ウィンドゥの隅にLIVEと書かれたものが左上から順に開き始める。


「衝撃を感知してカメラが作動したか。」


 それは原始的な投石器と隕石魔法の激突であった。

 状況は東方都市圧倒的不利。門を全て開いて降伏した方が、明らかにマシな沙汰を頂けるであろう戦況ではあったが、何らかの事情があるらしく、籠城戦に突入し城下町の家を破壊して瓦礫に替えてそれを投擲しつつ戦う事となったようだ。


『表層建築物以外に浸透しそうなダメージ無し、ここにいる限り戦争に巻き込まれる事もないだろうな』


「なぁ、こういうSFモノにありがちの自動防衛システムってのが作動する可能性は無いのか?。」


 一瞬建物の電源が落ちてオレンジ色の常夜灯のような光に満たされる。

 黒い画面に幾つかのダメージ報告が走り……。


≪緊迫感溢れる音楽が流れ≫

「ちょっとマテよ!おい。」


≪第一種警戒令≫が発令され。

『して無いんじゃないかな、指揮官……いないじゃないか』


≪臨場感溢れる音楽と共にカメラマシンが空高く飛んで行き≫

「全方位からの映像が確認できるな。」


≪そして宇宙からの真上からの映像が見える≫

「「『     』」」


 そしてスピーカーから俺とラゼルには聞き覚えの無い女の声が響く。


「名乗れ、貴様は誰だ。」


『ゴウダであります』

≪認証しました≫


「貴様、所属はどの艦だ!答えろ!。」


『宇宙病院戦艦であります』

≪認証しました≫


 その日、東方都市アンヅに住まう人々は、突然住んでいた土地ごと浮上し、住んでいた場所によっては地割れに巻き込まれ、時間差をもって崩れた場所に住んでいた人は千メートルを越す高さから落下した。


≪艦上に想定外の障害物を確認、打ち上げポートまで移動しメンテナンスを行う事を強く勧めます≫

≪巡行モードにより打ち上げポートへ移動します≫



「高度六千メートル、アンヅの人達は生き残っていても酸欠か凍死寸前だな。」


「確認しに行こうにもハッチはロックされていて出れないからな、カメラで確認は出来そうか。」


『駄目だ、どうやら格納されてしまったらしい、多分凍結の可能性を考慮したシステムなんだろうな……』



 あの一瞬で死んだ東方都市アンヅの人口は五万をくだるまい。

 トリエール王国軍から見ればゆるりと包囲して締め上げるつもりの敵が勝手に死んでしまったのだから驚く以外の方策など何もないだろう。

 幾らかの機能の有効化を確認したものの、ビジター権限で出来る事は殆ど無かった。

 空から見下ろす景色は優雅だが、流れる景色を毎日眺めていると変なものを目撃する事になる。

 人?と、心の中で疑問視した影を望遠装置で拡大したところ、ラゼルとゴールディの思考が魂ごと凍結した。



 気色悪い組体操で人間を創り上げたような巨人。

 原材料を人間として素材を生かしたまま合成、人間を溶かして固めたような歪な人型の何かだ。

 合っているような間違っているような違和感とはこうなる事を予見して事だったのかと溜息を吐く。

 目指していた敵は遠くで巨人として蘇り、それを倒さんと歩んでいた俺達は良く判らない空母に閉じ込められており、彼の巨人との距離はドンドンと離れて行っている。



『代行者様、貴方のお力で何とか……出来ませぬか』


 ゴールディの声は真剣そのものであった、この閉じ込められた現状を何とかする方法だけならばあるにはあるが、先ずは二人の言葉を聞いて見ようと口を差し挟まずに聞き手に回った。


「二千年前には出来たが、今は無理だ、あの力は誰かに奪われたのでな。」


『そんな……あの力は』


「忌避していた力が何の抵抗も無く奪われたというだけの事、奪った者の顔すら見ていない。」


 異次元の病室の扉を開けてラゼルに振返る。


「出るだけならば異次元経由で街に出て、其処から飛び降りればいい、墜落死した後で生き返ってから扉を開ければラゼルも降りられるだろう、どうする?。」


 しかし、結果だけを述べると、俺達は地上へ降りることは出来なかった。

 覚悟を決めて飛び降りようとした場所に魔法障壁があり、飛び降りる事が出来なかったのである。

 凍死ないし低酸素症で倒れていると思われた住民もそれなりに生きていた事もあり、瞬間安堵したが即座に思い悩む種が増えてしまった事を痛感した。

 死んでしまった者を思い悩むのは自由だ、好きにすればいい。

 俺達が艦内に戻る事が出来ても彼等を格納する事は出来ない、入口が完全に無くなり閉鎖されているからだ。

 つまり着陸するにせよ高空を目指すにせよ何らかのアクションを起こす際には魔法障壁が一時的に割れる可能性を覚悟して行わなくてはならない。

 民衆を殺す覚悟を決めてから選択しなくてはならないのだ。



 艦の上に積もった土砂の上に乗っているだけの城郭と城下街は、皿の上のショートケーキのようなものだ。

 乱暴な動かし方をすれば滑り落ちてしまう、魔法障壁はいうなればビニールシートと銀紙のようなものだ、外してしまえばショートケーキの形など守れはしない、乱暴に剥せばショートケーキは倒れてしまう。

 彼等を殺す覚悟を決めなければ、神帝ジオルナードとの戦闘に赴けないのだ。



 正義を貫くために多くの民衆をゴミのように捨てる。

 その決断を俺達は突きつけられていた。





 何処までも続く青空の下、結界能力を持つゴールディが艦の防御結界に穴を開けようと試みている。

 神帝ジオルナードはダムに座り込み身動きを止めていた。

 時間はもう残されていないのだろう、ラゼルも希薄になっていた感情に細波を立て乍ら魔法陣を構築している、長く戦い過ぎたせいで感情が摩耗していたラゼルから人間らしい一面がほの見える。



 ラゼルが持っていた能力とは時間遡行能力だと言う。

 思い通りの時間に戻ってやり直す事が出来ると言う破格の能力であった。

 何度も、何度もやり直し続けた結果、ラゼルは一度壊れてしまったのだとゴールディは語った。

 でも今は、多分壊れる前のラゼルらしさが蘇ったのかもしれない、ここにいる人々を無為に死なせたくは無いと必死に足掻いている。

 ゴールディの試みが成功すれば俺が飛び降りて目標達成。

 ラゼルの魔法陣が正しく機能すれば大精霊か妖精の助力を得て選択肢が広がると言う形だ。



 彼等が必死になっている理由は何も東方都市アンヅの残余七万二千人の命だけではないからだ。

 空中空母の真下、打ち上げポートと呼称された地点は南方都市カポであった。

 総人口四十万人の都市を磨り潰して着陸するか否か……。



 神の試練──────悪辣すぎやしないだろうか、ねぇ。



 ゴールディの持つ知識と智慧と魔力に俺の持つ魔力を流し込み、結界魔法での穴あけに挑むも、大出力の空中空母の魔法障壁と殴り合うには力が足りない。



 俺達は七万二千人を殺すか、全て皆殺しにするかの何れかを選ばさせられる岐路に立たされていた。


どうも鼻水が止まらず眼の奥、鼻の奥、喉の奥が鈍痛で辛い、発熱の風邪引きです。

何時もよりおかしな文章ですがご容赦頂ければ……幸いです。


では、くしゃみと咳の地獄より愛を込めて。


読み返してみて全部書き直したい気持ちに囚われ乍ら矛盾を抱えて進みたいと思います 2018/2/21

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