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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第二百一話 世界を巡る者と護る者の再会

投稿後字数の少なさに驚き、青褪めたままログを漁って復旧 (;・∀・)胃にわりぃよ。

加筆修正前のものだったので訂正。(微量)

 サリス・ロディア、洗礼名ゴールディ。

 サン・アダルデレドス聖堂の片隅で、ザンの輝ける星は神父と出会う事となる。

 二十歳の兄と三十三歳の弟による再会であったが、そんな事その場ではゴールディ以外知る由も無かった。


「楽になされよハル・ザ・ナイル殿。」


 そう言うとサリス・ロディアは無事に生き延びている弟を見てホッと胸を撫で下ろす。

 目の前で強者の態度と威信を示さんと務めている弟は常在戦場の大将軍とも呼ばれる英雄の一人であった。

 その彼の持つ威風いや威圧などはサリス…いやゴールディに取っては微風よりもどうでも良いくらいに意味の無いものであった。

 傍にいる副官らしき女性がゴールディの余裕ある態度と語り口調が気に入らないらしくキッと口元を結んで睨み付けて来るが、ゴールディは彼女の感情そのものを全く意に解してはいないようなので増々腹が立っていた。


「ジュリアーニ、そう殺気出っていては神父もお困りであろう。」


「ですが…。」


「構わないよ、彼女は将軍の事が好きなのだろう、その将軍に対して私が畏怖しない事に腹を立てておるのだ。微笑ましくはあるが不快には思わんよ、これからも将軍を公私ともに支えて差し上げて欲しい。」


 そう言うとゴールディはジュリアーニに頭を深々と下げる。


「えっえっえっ。」


「んっ…神父殿部下を揶揄わないで頂きたい。」


「事実だよ、神も肯定しておられる、報いてやれる範囲で手を差し伸べよと…。」


 そう言うと空を指差し雨雲をなぞると光が射してくる。


「確かに言っておられる。」


 そう言い放って卓上の書類を手にする。

 目の前の二人は神父にあっさりと会話のペースを握られた事に軽く狼狽えるが即座に居住まいを正しポーカーフェイスを決め込む。


「攻め込む場所が悪すぎる、輜重隊がまるで足りてない。それでもやると言うのならば山一つ越えてドラバラル市を陥落させてから攻めるべきだと言わせて貰うよ。」


 英雄、大将軍と呼ばれている彼に二十歳になったばかりの神父が軍事を語る。

 故国を捨て最前線をザン・イグリットの直轄軍として戦い続ける彼は正しく評価すれば根無し草であった。


「それでは遅すぎる。」


「遅くはない。」


「お言葉ですが神父、貴方に軍略の何がっ……。」


「コートバサルより西進して敵方であるシア国が護りを厚く展開できる有利に過ぎるジギア関を五日で破る方法を示しなさい。」


「それは…。」


「糧食も武装もまるで足りていません、ドラバラル市を先に陥落させ糧食を手に入れて、教会に納めるものを納める前にパオラル関なりテアテム関でも好きな方を陥落させてシア国を直撃すれば良いのです。シア国を落としてから教会に送る物を計算すればよろしい。」


 計画立案書をテーブルに静かに置いてゴールディは紅茶を呑む。


「より合理的に、正確に見極められる参謀を私が探しましょうかハル将軍。」


「それ…は…。」


 ギリリと歯ぎしりの音が聞こえた、老婆心をだしてしまった己の迂闊さを後悔する。


「余計なお世話かと思ってはいるのです、"空の旅をするには羽根のある相棒"が必要なように、貴方にもそれを補佐する対になる羽根を持った者が必要なのではと思っただけなのですよ、ハル将軍。」


「私では…私では駄目であると…足りないと仰るのですか神父ゴールディ様。」


 冷えた目、凍えるように冷めた目線がゴールディから返って来た。


「王道にせよ覇道にせよ、必要な人間は数多く適材適所に従えなくてはなりません、貴女は貴女の適所が御座いますよ。」


 不意に扉がノックされる。


「誰かね。」


「オラースで御座います神父様。」


「入り給え。」


 厚めの紙束を携えた武官然とした男が背筋を伸ばした姿勢のまま一礼すると神父に紙束を手渡した。

 静かに神父が紙束に目を通し頷くとオラースは一礼した後退室していった。


「ハル将軍、まずは一読あれ。」


 神父から手渡されたそれは、これから戦う地域の詳細な周辺地図であった。

 修道士見習の少女が神父の紅茶を注ぎ静かに後ろへと下がって行く。


「ジュリアーニ殿、補佐官や秘書官であるならば感情をしっかりと"殺し"なさい、諜報・情報士官たらんと欲するのであれば尚の事です。神に仕える者としては貴方の在り様は好ましい限りですが、私も含めて、勿論貴方も含めてハル・ザ・ナイル将軍は"特別"なのです肩入れするにせよ深入りするにせよある程度の叱責なり勘気は覚悟の上で苦言(くがごと)を申さねばならない事もあるのです。それに一々反応し一喜一憂されては将軍も落ち着くことが出来なくなるのです。腹心となりたいのであればもっと先を見越して将軍の欲するところを察して動くべきですよ。」


 お説教であった、ジュリアーニの面子など粉砕され塵も残らないお説教である。

 年下の、十も離れた者からの諭す様なお説教であった。

 しかし彼は神父であり、将軍に金を出すスポンサー側の人間である。

 滲み出る怒りの感情と屈辱に満ちた目をも神父は真っ直ぐに見つめて受け止めていた、つまり、本気で心配されている。

 十年以上戦場で生きて来た誇りも自尊心も何もかも"甘い"と断じた挙句転んで泣きそうになった子供を見守るような目で心配されているのだ。


「この地図を私に下されると、神父は仰るのですか。」


「如何に素晴らしい知略と軍略がハル将軍の脳漿にあっても正確な地図が無ければその軍略は曇ります、地図を見た上でお聞きしたい、ジギア関を五日で陥落させる策は御座いますかな。」


「無い。」


「ならば結構、その地図は差し上げます、新たな侵攻計画書はまた明日にでもお持ちくだされ、今日よりも良いお茶と茶菓子と軍資金を用意してお待ちしております故。」


 悠然と紅茶を呑みながらハルを、弟を見つめる。

 あのまま()かせては大敗は必至、多少強引でも曲げさせる必要があったのだ。


 退室する寸前ハルは呟いた。


「"空の旅をするには羽根のある相棒"か…頭のおかしい者が好みそうな物語だな。」


「そうですな、私が好きな物語ですからね。」


 目を瞠るハルに一礼する。

 返せたかどうかなど判らぬ前世の借りを返せたのだと思いたい。取り敢えずは最初の死の回避である。

 閉じられたドアを背に執務机に手を掛けて腹心の二人を呼び出す。


「サリス、ルーチェ、エルフの森に戻って女医に伝えてくれ、借りは無事返して頂いた、ありがとう、と。そして二人は、その後自由に生きていい、戻って来なくても恨みはしない。こんな汚い復讐劇など私一人で成し遂げて見せる。」


「はは、冗談言わないでくれ。」


「パパとママの仇をとるまで私は絶対逃げないよ。」


決意を込めた眼でルーチェはゴールディに答える。


「二度目の生を無駄にする事も無いと思うのだがなぁ。」


 ボリボリと後頭部を掻きながら私室へとゴールディは歩き出す。

 共犯者の二人は報告の任務をこなす為に速やかに退室したのだが、確実に戻って来てしまう事だろう。

 二人を蘇らせたと言うべきかどうか意見の分かれるところだが、二人は女医の作った身体に入っていた、エルフの特徴が全く無いが中身は列記としたエルフである。



 来る未来にエルフは迫害に近い扱いを受けるので今のうちに改造しなくてはならないのだ、と女医が言っていた、相も変わらず斜め上過ぎて言っている事が不明なのだが今は解らなくとも良いそうだ。

 サリスとルーチェの両親の仇を討つ為にザン・イグリット教を打倒する事は三人共通の目的だ。

 そして、神都クジングナグに居座る神帝ジオルナードを抹殺する事は神より与えられた使命だ。

 途方もない時間が費やされる予感にゴールディは軽い眩暈を憶えた。

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