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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百九十六話 虚弱体質冒険者と海の家

すいません自分の頭が悪いので何度か書き直してしまいました。

そして話数間違いその三。頭の悪い自分に萎えます。


 その日は確か連絡船が出航して三日目の夜だった。

 じわじわと外洋に流されていると判断したラゼルはゆっくりと船員たちの催眠を解き、彼等が納得するのに必要な情報を上書きして航路を正しい形に復帰させようとしていた。

 洗脳とか高度な人間操作等の人外過ぎる行いは慎んで、もう少し人間らしく振舞って欲しいなと思いながらも、神の代行者たる彼が見えている答えとは懸け離れた、洋上のそれほど遠くない雷雲を遥かに見る。

 船員を真っ当な状態にせねば間も無くあの台風が直撃する、あれは北上する台風か何かだろう。


「台風とはこれほどまでに成長するものなのか。」 


 俺の記憶の中の台風関連の映像等を見て、慌てて精霊を呼び集めたラゼルは、催眠を掛けた乗組員に納得のいく理由を暗示して違和感や記憶の齟齬が発生しない記憶の偽造作業に没頭し始めた次第だ。

 大掛かりな改竄らしいのは見ていればわかるし声を掛けることも憚られる。

 冷静そうに見えるがあれは大分追い詰められている気配が漂っていた。


『テレビか……錬金術の行きつく果てはやはり素晴らしい』


 ゴールディは別の世界に旅立ってしまっているし、俺はと言われてもコレと言ってする事が無い。

 なのでこの辺りの地図を記憶から探し出して上陸できそうな候補を探す手伝いをする事となった。

 精度の酷い地図とそこそこマシな海図と照らし合わせながら、細かな島の位置を重ねて見ても存在すら確認されていない島もある。

 行き足の鈍った船が沖へ沖へと流されていく過程で、細長い形をした島を発見したが、其処には全力で結界が張られていた。入港できそうな場所には砂浜があるが破滅的分量の結界とその強烈な形状にドン引きする。


「なんて飛び抜けた結界だ。」


 そこにある何者かの力が図抜けた力を持つ者であるなんて事は、深く考えなくても判る。

 刺々しいその形状はハリネズミの様な結界…いや雲丹の様に鋭利な棘が大量に備えられた攻撃的な結界であった。

 一つ一つの針が鋭利な刃物であり、どう見ても刀が乱立した危険極まりない異様が目に厳しい。


『ラゼル、ジョーが発見した島にこの船が捕捉されたようだ、攻撃を受ける前に何らかの手を打たねば不味いぞ』


 そう言いながらも慌てる様子すらないゴールディをさて置き、ラゼルは少し思案すると俺の頭に手を乗せて一言呟いた。


「ジョー、女神との交渉役は任せたよ。」


 場面が切り替わるように高高度から島を見下ろせる高さに跳躍させられた。

 パラシュートも何もない、ぶっちゃけブン投げられたようなそんな雑な扱いだ。

 交渉してこいと言われても、どんな交渉をするべきなのか解りゃしない。


 任意転移が二度弾かれて落下するしかないこの状況の打開方法を模索する。

 気が進まない方法を閃いたが迅速且つ労力の少ない方法を考えればラゼルが思い描いた答えに辿り着く。

 両手足を広げて風を多く受けながら多少の時間を稼ぎ、呼吸を整えて覚悟を決める、決めなくてはならない。

 ゾクリ……冷酷な何かに睨まれた感触と共に、結界の尖った針のような先端が全て俺の方に向けられた予感がする。


『ジョーにしては鋭いな、結界の照準が全て此方に合わせられているぞ』


 要らぬ事を褒められても何の慰めにもなっていない、上手い具合に着地をキメられるならば良いのだが、何分の一に成るかは相手次第、少なくとも落下地点を島に出来なくては交渉のテーブルには略、辿り着けやし無いだろう。


「速度良し、方角良し、死ぬ覚悟良し。」


『まさか打開策と言うのは…』


「無防備で迅速に死んで着地、保護と回収は任せた!。」


 大量に射出される結界の針に身を切り裂かれ、穿たれながらも、それをものともせずに加速力を上げて突っ切る。

 余計な事は考えてはいけない。

 考えて必死になり障壁魔法を張り巡らせ、魔力で回避行動を力の限り行ったとしても、気が遠くなる程に重厚な防衛線を突き抜ける事など出来ずに海の上に位置をずらされて迎撃されてサメの撒き餌になってしまう、やるだけ無駄な足掻きだ。

 雲丹が如く立ち並ぶ針鼠結界を通り抜ける方法は、生存を最初から放棄してしまうことだ。

 どのような有様であろうと、肉片一欠片でも陸地に辿り着けさえすればある能力の条件だけは達成できる。



 綺麗に掃除されているビーチにバラバラになった肉片が降り注ぐ。

 ゴールディの結界により保護された肉片が砂浜に落ち、ゴールディの結界魔法に運ばれて異次元へと収納され異次元内のベッドの上へとボトボト音を立てて集められる。

 半刻後、全裸の死体が異次元内のベッド上で蘇生され、荒い呼吸をしながら血塗れの姿で起き上がり、据え付けのシャワーで血を洗い流す。

 気分はもちろん最悪で最低モーニングだ。


『代行者様といえど流石にこの扱いは…』


 ゴールディの結界魔法のお陰で肉片は砂団子にならずに済み、迅速な蘇生が成功した。

 余りにも惨たらしい扱いに対する気持ちは判るし、人間としてその気持ちはとても有難い。


「無造作に俺を放り投げた時点でラゼルにはこの結果が見えていたんだと思うよ、これが一番手っ取り早いのは結果から見れば明らかだろうしな。」


『しかし…人間の扱いとして容易に選べるものでは』


「そうだな、でも俺にはもう、神の代行者の弟子という称号が付いてしまってる。」


 半ば自棄と云った口調でジョーは溜息を吐く。

 ゴールディとしては、ジョーは拙いながらも回避の努力や任意跳躍などの手を尽くすのだろうかと考えていた。

 だが、ジョーから”回収”を任せられた時、実体を持たなくなった自分ですら戸惑いを覚える方法をジョーが迷いなく選んだのだと悟った。

 そして神の代行者の"弟子"であるジョーは身震いする身体を押さえつけながら笑顔を作って"其れ"に至った経緯を呟いた。


「蘇生が容易な俺と、嵐に巻き込まれて死ぬかもしれない乗員と乗客、それを秤にかければ良いんだよ。」


『ああ、なるほど…君たちはそういう目線になるのか』


 幾らでも蘇らせる事の出来る命一つと大多数、度し難い計算式であった。



 ラゼルも私も、神と関わってからというもの、可笑しな事になり続けている。

 ジョーもその例に洩れないだろう、それにしても神の代行者とは何とも救われない存在なのではないか。


 一頻り体を拭い終えた後、異次元空間にある物置部屋へ入る、流石に全裸での交渉は不味いと思われる。

 気持ちを切り替えてなさねばならない事を果たさなくてはこの全身に走る痛みに申し訳が立たないではないか。


『とりあえず海と言うワードで思いつく限りの装束と装備を用意して見たがどうだろう』


「生まれて初めての海だからゴールディに任せるよ、何を来ていくべきなのか全然わからないからな」


 三つ又にかえしのついた槍を手に取る。


「交渉に行くのに武器の携行は不味いな。」


『紳士的に行きたいものだね。あ、交渉には手土産が必須だ……流石にこれを忘れては失礼に当たる』


「わかったそれもおまかせするよ、ん?この眼鏡はテレビで見た事があるぞ。」


 着替えを済ませて紙袋を片手に下げて外に出ると、なるほど、そこはプライベートビーチのように清掃の行き届いた砂浜で、特徴的な氷一文字が描かれた布地が風に揺れる海の家があった。

 海の家には、三家族くらいは滞在できそうな座敷があり菱印アイスクリームの冷蔵庫やかき氷機、焼いている最中のトウモロコシと焼きそば、揚げたてのサーターアンダーギーが油を切るために網の上に並んでいる。

 かりゆしを纏い麦わら帽子を被った半魚人の若者がラジオを聞きながらトウモロコシに醤油を塗っている。


「おじさん、カキ氷のイチゴを一つ。」


「あいよ。」


 焼いている最中のトウモロコシを横に置いてかき氷機に魔石を入れて氷をセットする。

 シャカシャカと小気味よい音を立てて氷が木の容器に降り注ぐ。

 イチゴシロップを一通りかけたあと又氷を重ねて行く、それを三度繰り返して完成した。

 カウンターで待っていたジョーの目の前にイチゴのかき氷の山脈が届けられる。銅貨二枚を店員に渡しカキ氷初体験である。


「これが…カキ氷か。」


 前世で未体験、今世で初体験。

 シャクシャクと爽やかなイチゴ味を味わいながらボンヤリと店内を見渡すと隣の席に半魚人の精悍な若者が座った。


「無茶で無謀な侵入者へ、女神様より言伝だ、この島の近くならば嵐は来ない一夜のみ停泊を許すが島への侵入は許可しない、とのお言葉だ。」


「助かるよ、女神様に感謝していたと伝えて貰うと有難い、あ、これお土産です。」


 紙袋を手渡して微笑み、カキ氷を美味しく頂く。


「うぐっ…がはっ」


 慌てて食ってはいけない、カキ氷による血管の収縮は鈍痛を伴う夏の風物詩である。


「客人、温めのお茶を呑むと良い、幾分楽になるぞ。」


 半魚人の店員から仕様がない者を見る目で手渡された湯呑みからお茶を頂き蟀谷を揉み解す。

 兎にも角にも挽肉になった甲斐があったようだ。

 半魚人達の気の毒そうな者を見る目と憐れみと友愛の眼差しが多少痛いが結界の針よりは明らかに優しかった。


「またカキ氷食べに来ますね。」


 水中眼鏡と水泳帽を装着し、耳栓を入れて海に飛び込む。

 船まで結構な距離だが任意転移出来る結界の切れ目まで泳ぐしか無いのである。





「行った?。」


「ええ、行きましたよ。女神様、これは、あの方からの手土産です。」


「まだ人間はダメね、指が震えてるわ。」


 そう簡単に心的外傷が克服されれば医師など不要であろう。


「人間とはあのように不死身なのですか、女神様。」


「あれは良く判らないわね、生きているように見えて生きていないようにも見えるわ。」


 ガサゴソと紙袋から包装紙に包まれた何かを取り出し包み紙を丁寧に外して箱を開けてセロファンの飾り蓋を取り、一つづつ袋詰めされた二十四個の何かから一つ選びギザギザにカットされた開け口から袋を開けて中の物を取り出して頂く。


「天使のパイね……クロヴレト城下町南エトーレ通り三番地……覚えたわ。」


 女神との交渉は女神の接見回避で幕を閉じた。


「では食事に致しますか。」


「そうね、ドロイヌヌを呼んで皆揃ってから頂きましょう。」

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