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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百九十三話 虚弱体質冒険者とドラゴンブロー

 探索し続けて多少ではあるが理解した事がある。

 まずここにあるもの全ての風化速度が遅いこと、建物自体は少なくとも魔法的要素で護られている、即ち結界の影響下にあるという事だ。

 銃弾の痕が時間経過とともに修復されている。死体や汚れはそのままだが構造物は結界の軸やら枠組みとしてその形を保たれているのだろう。

 尤もこれらの知識はゴールディの受け売りから類推されたものなので俺の功績であるとは言えない。


『私と君は一蓮托生だ、知識も共有しているのだから余り卑下する事は無いぞ』


 申し訳ないが知識共有検索サイトの様な膨大な記憶を既に多少なりとも閲覧させて頂いているのでゴールディの発言が謙遜であることくらい重々承知している。

 まぁ、これからも相当お世話になるのだろうし、お言葉に甘える事としよう。

 ところで梯子から飛び移る際に足を滑らせて落下し、呆気なく死んでしまい、水が満たされた教室だった場所まで滑り落ち、ラゼルに発見されるまでの間暫く水路を漂ってズブ濡れの土座衛門になっていたようだ、全身冷え切って凍えるように寒い。



 設えてあったトロッコに乗り軽機関銃を車両に固定して射撃を開始する。

 弾丸にも限りがあるのでセミオートで出来得る限り精密に射撃しなくてはならない。

 トロッコも速度が出せる訳ではないので殺した魔物を収納しながら進むのは難しい事ではない、乗り遅れてしまえば置き去りになるがそこは、あっ。



 転倒して死んだようだ、トロッコ内部で目覚めた俺は膝パットや肘パット、そして腰を保護するコルセットも装着する事になった。

 遺跡探索一週間目にして多少体力が着いた証として装備品を増やせる限界値が上がった、それでもあっさり死ぬことに変わりは無い。

 宇宙服や漬物石を装備しないように注意しなくてはならない、重量限界を超えてしまえば動けなくなるからな…って何を要らぬ心配をしているのやら。

 早速とばかりに魔物の遺体回収にむか…。



 毒が噴出する配管があったそうだ、配管の穴を塞いでいた魔物の死体を回収して蓋が取れた形になり、噴出した毒をモロに浴びたらしい。

 誠に久しぶりだがステータスウィンドゥを開いて己の死に易さの原因が何処にあるのか確認してみようと思う。



 人名:ジョウジ・カケイ(掛井譲治)

 ネーム:ジョー

 属性:空・聖

 弱点:高位属性

 レベル:25/99

 基礎能力(才能限界)

 力 D-(C)↑

 知識 C(C)↑

 敏捷 E(C)↑

 知恵 C(C)↑

 健康 D(C)↑

 信仰心 D+(C)↑

 運 F(C)↓

 HP1/20 

 MP120/200 

 備考:半病人・村の便利屋・スペランカー

 聖人見習い・聖人の弟子・代行者の弟子

 初級精霊使い・初級魔法剣士



 軒並み能力は上昇していた、弟子やら見習いやら精霊使いやらレベルも申し分ない。

 HPが1から回復しないし、呼び名のジョウジも呼ばれなくなって久しいから消えたのは仕方ないとして…。

 いや、マテHPが1から回復しないのは何故だ、スペランカーの意味は洞窟探検家だから今現在の俺を示すものとして間違ってはいない、寧ろ普通の称号だ。

 そして運、何故お前は下がっているのだ…。



 久しぶりのステータス確認に何一つ問題は無かった。

 低すぎるHPと数値が1に固定化されるという原因不明の何かがあったのだが、ラゼルにもゴールディにも解決法は判らない様だ。


「なぁに死んでも自動で蘇生するから心配はいらないさ、安心して戦うといい。」


『増えた称号について調べておこう、成果があれば報告する』


 死に対する概念が麻痺して仕舞わないように努力しなくてはならない、そう試練か何かなのかもしれなかった。


『神の試練は基本的には嫌がらせだ』


 言い切ったよ、この聖人言い切ったよ。

 ラゼルの方を向いて確認を取ろうとしたら酷く真面目な顔で静かに顎を引く仕草をしている。

 嫌がらせってどれだけ人間に興味があるんだ神様は……。


「相手が本当に嫌がっている事を理解するくらい見ているって事だよ…ね。」


 二人から苦い感情の篭った重い沈黙が返って来る、全く救いの無い聖人への道が俺の前に延びているのかもしれない。


「逃げて良いですか。」


 悲しい瞳と心の波動が伝わって来る。

 知っているか?、神からも逃げられない……と。





 遺跡の最奥で禁書を手に入れて、クォイスの封印を解いた。

 形を喪って概念と化したその武器は存在が酷く有耶無耶でとても俺とよく似ているように感じる。

 神の真相に至った俺はHP1に固定された試練を乗り越えて夏の草原でドラゴンと殴り合っていた。


「右!右!行きたまえ!そこだ!蹴りだ!。」


『ジョー!壊れた関節の治療が追い付かない、魔法による強化で少しでもいいから時間を稼ぐんだ』


 太い尻尾の一撃を肘で迎撃しドラゴンの背後に跳ぶ。

 足にクォイスを纏って蹴りを放ち即座に逆正面に跳躍し拳打を見舞い、クォイスを概念武器に変えて何本か精神が保てる本数投擲する。

 ブレスを障壁魔法で流し続け乍ら関節の治癒を待ち、打撃に切り替えて来るタイミングを見計らって跳躍する。

 結果として非常にウザいくらい(スタイリッシュ)回避に特化した、俺が形になった。

 武器の概念が固定化されていないなら何にでもなれる等と、考えて仕舞えばいいと半ば自棄になって開き直ったのもプラスに働いたようだ。

 剣術と体術はラゼル、馬術はチャガ婆さん、魔術はゴールディと教師に不足はない。



 跳躍(リープ)…要するに短距離のワープだ。

 行き成り真逆に跳ばれたら慌てるだろ?、好きな場所に跳べるから真逆に限った話ではないのだが、振り抜いた剣の逆側から斬撃が襲ってくるのは達人でも厳しい筈だ。

 そして好きな武器をセレクト出来る事、クォイスが一定の形を保っていればラゼルの時のように剣であったのだろうが、今は手甲になったり靴になったり斧になったりハンマーになったりと忙しい。

 フラフラと定型を持たない俺らしい武器と云えば俺らしい武器なのだろう。


「喰らえ!鱗剥ぎ!。」


 鯛という魚の鱗は堅い、それを剥す専用の道具がある。

 目の前にいるドラゴンにも非常に硬質な鱗が生えている、俺の手には大剣サイズの鱗剥ぎが握られている。

 となれば、そう、やる事は同じだ。

 バリバリと剥ぎ取られる鱗の音と飛び散る鱗が周囲に撒き散らされ、ドラゴンが絶叫をあげて尻尾をブン回して暴れる。

 この武器で倒す事は出来ないがドラゴンは鱗で鎧われている動物だ、その鱗を剥ぐという行為は人間に例えれば爪を剥ぐ行為と同意である、それと同様に鎧を脱がして無防備にしてしまう事に他ならない。

 防御力の無くなった表皮に鋭利な棘の生えた手甲での一撃を見舞う、効果アリだ。

 何十枚も一気に爪を剥がれれば痛い、その剥き出しの血が滴る場所を殴られれば更に痛い。

 あとはスタミナが尽きるまで跳躍でドラゴンの攻撃を回避して死ぬまで殴ればいい。


『えげつないな』


「教えた通りよくやっているよ。」


軽い沈黙が流れた。


『本当にえげつないな!』


 護る範囲を鱗剥ぎでドンドン大きく拡充されて、鱗を剥がれた場所は延々と殴られる。

 逃げようとするドラゴンが空に張り巡らされた結界に激突して墜落した。

 ラゼルの特訓カリキュラムから逃げられないのは俺も同じだ、逃げたい気持ちは判るし同情もするが、そろそろ風呂に入って寝たいのだ、申し訳ないが速く死んで貰いたい。

 ドラゴンには知恵もあるし知能も高い、そしてプライドも高い高貴な生き物だ、撤退を選んだからには後日の再戦では絶対に殺すくらいの覚悟を持って腸を煮えくり返らせたに違いない。

 残念だがドラゴンよ、お前の腸を煮えくり返らせる場所はチャガ婆さんの台所の鍋の中だ、下処理は俺達がするが食べられるのは明日の朝だ。



 回復聖法の連発も、増幅・増速魔法の重ね掛けも、その副作用を和らげる錬金術も毎日の修練で磨き上げ続けている。

 村の外に小屋を移築して新たに柵を作りながら村の拡幅工事兼、修行の日々は続く。

 ドラゴンの肉を物干しに掛けて血抜きしながら虫が寄らないように網をかけて結界を構築する。

 出来の悪い結界だが綻びを指摘されながら繕い物のように補強し続ける、これもまた鍛錬の一つであった。


「まだ軽く病人である状態でここまでやれれば及第点かな。」


 ドラゴンから剥ぎ取った物品を纏めて採点しているラゼルの目は穏やかだった。

 戦える状態まで形が整ったのは本当に極最近で、それまでは跳躍するだけでも位置取りが怪しく、何度も死んでいたのだ。


『おめでとうジョー、ついに一度も死なずにドラゴンを倒せたな。』


 成長と言って良いのかは判らないが、成長する武器クォイスの加護だろうと俺は思う。

 盥に入れた洗い立てのモツを臭みを取り除く為に小麦粉で揉み洗いしながら、多少は成長出来た事を他人に認めて貰えるという数少ない経験を噛みしめる。


 でも…だ、普通の人生でドラゴンを殴り殺すなんて飛んだ大偉業じゃないかねぇ?。

 色々と釈然としないところではある。

 この二人の設置するハードルの高さは、如何考えても尋常では無い。

 それだけは間違いなく言い切れるジョーであったが声に出して云えばよりハードルは高くなるであろう。

 そして声に出さなくても丸聴こえなのは、一体何の冗談であろうか。

 やっぱり神は嫌がらせが()好きなのだと確信せざるを得なかったのである。

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