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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百九十二話 虚弱体質冒険者と遺跡探索

 風貌だけは一人前の顔付きになった俺はラゼルにユニコーンの角の治療をお願いして遺跡へと足を踏み入れた。

 雪風は一声嘶くと草原へと姿を消した。

 別れとはあっさりしたものである。



 空間魔法の粋である無限ストレージから真っ暗闇の遺跡を探検するための装備が引き出されて並べられていく。

 ヘルメットにヘッドライト、蛍光反射ベストに安全ベルトにカラビナが複数、ピッケルとザイルにハンマーとハーケン。最後に登山グラブとシューズを装備して腰にサブマシンガンを備えて準備完了だ。



 年代物の施設のわりに保存状態がかなりいい、誰がつくったのかゴンドラがあり垂直に口を開けた竪穴を降りるには十分な施設であると言えよう。

 サブマシンガンの安全装置を外しゆったりと構えゴンドラの柵の隙間から銃口を出したまま下降レバーを下げる。

 いきなり昇降口に敵が溜まっているとも限らないが念のためという配慮だ。

 そういう想定外の事にはラゼルも目を瞑る気は無いらしく、弾切れの際の交代要因として横に並び安全装置を外して待機していた。



 想定内だが予想に反して敵がみっしりと柵に固まり待ち受けていた。

 セミオートで銃弾が射出され停止したゴンドラが槍で突かれて揺れ踊る。

 足場の悪いゴンドラで俺が足を引っ張るのは予想通りなので早々にラゼルと立ち位置を変えてマガジンの交換作業に入る、面倒な槍使いを六度目のローテーション射撃で始末すると血染めの通路がそこに広がっていた。



 空になったマガジンに弾丸を詰めながら奥からこちらを窺う集団に警戒する。

 第一層からこの調子では精神が持つかどうか怪しい。

 闇精霊に励まされながら装填を済ませると魔石回収のための剥ぎ取り作業を教わる。

 脳か心臓に魔石があると説明され、馬鹿な魔物ほど脳にデカい魔石が鎮座して狂暴化するのだという。

 俺の脳腫瘍も魔石だったのかも知れないと思うと、ラゼルが苦笑する。


「人間に魔石は産まれない、そういう風に造られているからな。」


 何でもない事のようにとサラリと言ってのける神の代行者である。

 生暖かい内臓の中から魔石を取り出す。癒着を剥がすようにと喩えたとして果たしてどれだけの人間が理解できるか困ったものだが、アレだ広範囲に広がった瘡蓋を剥す様な得も言われぬ感触だった。



 軽機関銃の銃火が暗闇を照らし、薄闇の中で魔石回収という地獄絵図を繰り返し一層目の探索を終える。

 死体をストレージに回収してきたのはこの一番奥の部屋に纏めて置いておくためだ。

 餌が奥にあれば帰りは安全になる。

 血みどろの通路を浄化魔法で綺麗に清めると、ツルツルと滑る感じが無くなり漸くマトモに歩けるようになった。


「滑る度に股関節が外れそうになって辛い。」


「それは少し虚弱に過ぎないかな。」


 滑って転んで頭を打って二度死んだ俺に、今更過ぎる発言は辞めて欲しいものである。



 膂力の要らない武器は良い、実に良い。

 サイクロプスの目をマシンガンで撃つ際に魔法を付与する、属性は毒。

 ガードされても毒が回ればそれだけでも大分弱体化が叶う。

 マガジンを差し替えてサイクロプスから距離を取る。

 何故武器が近代兵器であるのか、剣の修行をしていたのではないかと思われるだろうが、この遺跡は困った事に天井が低く道幅も狭い。

 つまりはナイフで小回りの効いた戦いをするか槍でチクチクと少しづつ倒して進むしかないのだ。

 そしてこれらの銃器は近代兵器ではなく古代文明の兵器である。

 そうでなければラゼルが持っている事に違和感しか存在しない、もう滅びた世界の住人たちが残した置き土産だ、存分に使わせて貰おう。



 狭い通路を柱を遮蔽物にして進み、隠れ潜む魔物を効力射で撃ち殺す。

 生き物を殺す感覚が嫌に薄いのが銃器ではあるが、俺の筋力や体力、そして魔力では短剣で戦うという自殺行為は難しい。

 なんだかんだで階段上の蝙蝠のフンで三度死んでいる、首の筋肉を鍛えないとヘルメットもあまり意味が無かった。



 三層目の攻略に入る前にゴンドラで食事と睡眠を摂り、弾丸の補給を受ける。

 幾らかの獲得した資料を確認すると誰それの事が好きだとか、暴行傷害事件があっただのと実りの無い情報が記された紙片や鍵、壊れて動かない電子機器、見慣れたものだとパソコンやスマホが朽ちて溶けた状態で発見される。


『この遺跡は随分前に別世界から飛んできた建物でね、クォイスの封印に利用させて貰っただけで、遺物には余り意味はない筈だ』


 成る程、耐震構造が後付けになった何処かの学校のような建物であることは関係ないのかと納得する。

 攻略するフロアの幾つかの場所に設えてある魔法陣が封印を形成しているだけで建物はクエストする意味が無かったようだ。


「だが、書いてあることの意味が分かるのは新鮮な発見だな。」


 考えていることが全てお見通しな二人に隠し事は不可能だ、無意識に読み上げている文章が彼等にもキチンと伝わっている。

 三層もまた悲惨な血祭りの会場と化した。それだけここは魔物達にとって安全地帯であり繁殖するのに適した楽園か何かだったのだろう。

 小さい魔物を抱えて逃げ出す魔物の背をマシンガンで薙ぎ払いながらそんな事を思う。

 畳まれた制服に散らばる食後の大腿骨などを発見していなければそれなりに彼等に同情出来たかもしれない。

 風化せずに鞄の中で原型を留めた教科書やノート、生徒手帳に黒歴史ノートを発見しストレージに放り込む。

 僅かではあるが遺骨も回収した、墓を造るのは発見者の義務の様なものだとラゼルが言う、俺も自然とそう思えた。



 励起させた魔法陣が増えるに従い重苦しい空気が消えて行く。

 防火扉と書かれた鉄の扉を開けて隙間からマシンガンの銃口を差し込み、魔物に命中する音を聞き分けて解放するタイミングを測る。

 ラゼルと何度か交代し、精霊の力を借りて防火扉の向こう側を把握する事に努める。一時間後漸く防火扉に近付く魔物がいなくなったところで解放し反撃の投げ槍や飛礫や魔法を打ち落とす作業に入る。


 そして死ぬ。

 体力を使い果たして定期的に死ぬ。

 我ながら弱すぎると内心忸怩たるものを感じながら無様に死ぬ。

 自分の流した血で滑って転んで死ぬ。

 心が弱り、弱音を吐けば精神強化の魔法が掛けられる。

 明らかに不健康な健康を取り戻し、獲得して引き金を引く。

 トリガーハッピーとはこう言う事かと理解したあたりで調子に乗って身を晒して死ぬ。

 正気を取り戻して冷静に対処する事を心掛けて戦ってもやっぱり死ぬときは死ぬ。

 センスのないゲームプレイヤーが家庭用ゲーム機でコンティニューの限りを尽くしてハードモードをプレイしているようなものだ。

 瞼の動きや口にくわえたタッチペンで操作するパソコンゲームで健常者と勝負する様なものと言っても判るまい…でもセンスのある人ならその程度はハンデにもならないかもしれない。

 下手糞プレイヤーの最前線を行っているような俺が、何度も死にながら築いた死体の山から魔石の回収をしている。

 正当な報酬を受け取っている気にならないこのモヤモヤとした気持ちは理解して貰えるだろうか。



 視聴覚室へと足を踏み入れる。

 機材で無事そうなものは一つもない、ここが映像を見せる事が出来る施設であると知りラゼルが天を仰ぐ。


「勿体ない、君が僕の時代に来ていれば視れたかもしれないと思うと残念過ぎるよ。」


『少し思い出して見てくれないか』


「悪いけど俺は学校には通ってないからね…知識として知っているだけで二人となんら変わらないよ。」


 朽ち果てそうになっている室内で唯一つ大切に箱にしまわれたビデオカメラがあった、それは液漏れを警戒したのかバッテリーが抜かれており、和紙で厳重に本体が包まれていた。

 通っていない学校の友達から来たビデオレターのようなものが納められているのだと思い、視聴出来る当てはないがストレージへと格納する。

 少なくとも、ここにあるよりはマシだろう。

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