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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第十八話 蝙蝠と御姫様と静かな湖畔

 奴隷となったタキトゥス公国国民は家財を持てるだけ持ち故郷を後にする。

 逃げ延びたものも居るだろうが、此れから行われる悪魔の所業を目の当たりにすれば容易に復讐を考える様な事はあるまい。

 我ながら悪辣な提案であったが、隊長格どころか国王陛下まで草案に破壊の手段の追加を提案してきた。

 そうなれば決議したも同然であるので速やかにその方法を練ると言うステージに移行する。

 奴隷達を受け入れる施設が王都に完成してもタキトゥスでの作業は続き、新年祝賀の義を終えてもまだ国元に帰る事も出来なかった。



 さて、我々は何をしていたのであろうか?。

 二ヶ月ぶりにタキトゥスの市街を見渡せる小高い丘から国王陛下の天覧となり、いよいよ準備した極大魔法の披露と相成った。

 街の至る所に魔法使い達の研究成果がこれでもかと刻まれ、設置されたあらゆる節度と常識とを無視した極大魔法が(ひし)めく魔法のラッシュアワーであった。

 過去、これほどの憎悪と殺意と憎しみと怒りと復讐と怨嗟の感情で織り上げられた魔法は存在しない。

 未来、それはどうだか判らない。

 街の周りに溝を堀りそこで完結するという陣の基礎を掘り上げる。物理的にやらないと力の奔流があらゆる方向へ節操無く漏れて暴れる事になる。

 縁故を頼って力ある魔法使いを招集しての大魔法実験、しかも国家の予算で好きなのをブチかませるとなれば、マッドマジシャン達が放って置く筈がない。



 各所から詠唱が始まり方々から撃鉄が落とされるイメージが魔法陣の外枠で蓄積されていく。

 入れ替わりに詠唱した魔法師達が馬車で避難したり馬に乗って離れていく。

 三千人近い魔法師が自身の魔法とマナのリンクを繋いだまま、研究成果の行く末を見守る。

 魔導士、魔術士は魔法使いよりも格は落ちるが、名が通っていないだけで弱い訳ではない。

 偉業を為せるかどうかは強さだけでは果たし得ないものなのだ、鍛えた技能と蓄えた知識を披露する場を掴み取る力が無くては魔法使いとは呼ばれない。





 そしてなんだか良くわからない蝙蝠と御姫様が魔法陣に何かしら力を注いで楽しそうに帰って行った。





 今、何か変わったものが混ざったが気にせず魔法使いは魔力の流れを制御する。

 国の魔法使い達が知己を頼って集めに集めた魔法使い十四名は、突然注がれた津波のような魔力を死に物狂いで整える。

 確実に寿命を縮めながら、魔力の圧縮に努める。

 大地が鳴動する、もう無理だと。

 大気が震えている、勘弁してくれと。

 あらゆる魔法が縮退し、魔法使いが次々と退避を開始する。

 僕はイメージした。この現象を炉の中にあるものだと。

 遥か昔に見学した原子炉を思い出した。



 タキトゥス公国は丸い盆地と化し、地図上から消滅した。



 ドリンダ暦四年 二月末日の事であった。





 滔々と注ぐ水音が心地良い春の湖の畔で若木の植樹祭を思い立たれた、我らが国王陛下に付き添って辺境八氏連合の騎馬隊と国王親衛隊の騎馬隊が一人一本運ぶことになった樹木の苗を植えていく。

 天気は晴朗であり、良い陽射しと心地良い風が吹いていた。

 諸国会議で自国領となった人造湖周辺には人の姿は無く、さりとて領主になろうという者もいない。

 全ての植樹を終えて神酒を撒き儀式が終わると皆で一献かたむけ、亡くなった戦友たちに黙礼し砦への帰路に就く。



 従軍が完了する時期は未だ未定ではあるが、タキトゥス公国と言う目の上のタンコブは、本当の意味で物理的に取り除かれた。

 そんな有様を諸国の王達も間者を介して見ていた筈で、逆らえばお前の国もこうなるぞと言う見本が出来た様なものである。



 タキトゥスの奴隷達は王国領の至る所で清掃作業や雑務、肉体労働に従事し、僕が感涙に咽び泣いた美味なる食事を約束されて元気に生きている。

 元肉壁隊であった周辺諸国から売られた奴隷達は、その多くが罪も無く奴隷にされていた、一般市民であった。

 本当の犯罪奴隷は確かにいたのだが、殺人までは犯していない軽犯罪者が多く、司法担当官達を大層憤慨させたと言う。



 春の風が静かに吹き、穏やかな陽射しが差す学園宿舎のような収容施設に、奴隷紋はそのままで捕虜としての生活を送っている者達がいた。

 タケルが奮闘した結果救えた…いや本当の意味で救えた訳ではないのかも知れないが、命だけは拾えた者達が静養していた。

 大半の者達が精神的カウンセリングを必要とし、且つ心神喪失状態であった。



 聖イグリット教のシスター達の懸命な介護も空しく死んでしまった者達も少なくない。

 安堵しすぎて死ぬ事もあるのだ。

 タケルは死んだ学友たちの墓を掃除し花を手向けると静かに黒馬に跨りサナトリウムを後にする。

 もっと他に方法は無かったのかと自問自答を繰り返しながら。





 目覚めると水汲みの仕事が待っていた。せっせと汲み上げた水をディルが運んできたバケツに次々と注いでいく。


「おはよう、タケルお兄ちゃん。」


「おはようローラ、これで顔洗っておいで。」


 平たい盥に水を注いでディルの妹ローラに手渡す。使用人の朝は早い。



 朝食を終えて窓掃除に庭掃除、雑務を終えて使用人長達に練習を兼ねたお茶の給仕を行う。

 軽くて動きやすい使用人服から執事服に着替えての礼儀作法の訓練と言葉遣いの授業を終えて昼食の時間である。

 まだまだ見習いの身であるため余りのんびりとはしていられない。



 全自動掃除魔法は却下されたので自室でグルグル回っている。近くに居る人からマナを分けて貰う仕様が宜しくなかったようだ。

 スチーム魔法は屋敷に着いた泥染みやコケ、カビなども綺麗に落とせるので執事長がマナ枯渇に陥るまで使い続けたので暫く僕達若者の仕事となった。


「こんなに美しく掃除が出来るものだと嬉しくなってな…。」


 とは執事長の述懐である。



 古くなった屋根板を張り替え終わり、ゆるんでいたドアや鎧戸の修繕を済ませ御館様の帰宅を全員でお出迎えする。


「休暇中にお前は何をやっておるのだタケル。」


 軽い説教を頂き、書斎に呼び出されると本格的に身体を休めて来いと金貨三十枚を与えられた。


「価値はわかりませぬがとんでもない大金であることは察しがつきます。」


「そう言う処ももっと学べと言う事だ。わかるな?。」


 静かに黙礼し、ディルとローラを連れて何処に行くか相談するために彼等の家に訪れる。俺が寝起きしてる小屋の隣だから間違うことも無い。

 御館様から既に話が伝わっていたので説得などは必要としなかったがこの世界に疎過ぎるほど疎い僕に行き先など決められるはずも無かった。

失字追加です

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