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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百七十二話 レアリティ獲得への道

 膝下に捻じ伏せたダークエルフ達を率い、四十年程の歳月を掛けて地下研究所を強奪した私は、捕らえたエルフ達を素材に替えて研究を再開、召喚装置を停止させて後、分解、清掃を行った。

未整理だらけの設計図を半ば新たに描き起こして整理する嵌めになりエルフ族のケツを蹴りながらウサ晴らししつつ、後から追加された要素の解析を行う事を当面の目的とした。

 見た目が生前の私だが、何年経過しても年を取らない身体を見渡して仕事を割り振る。

 中身は結晶にコピーされたエルフ達だ、エルフの身体は年を取り辛いがそれでも老化するし劣化する。

 私達の身体のようにエラーを起こさない遺伝子を常にフレッシュに生産し続ける改造を施していない身体では、長い研究には不向きであると言う結論から、ダークエルフ達が導き出した答えだ。

 黒化された研究員ダークエルフ達は古い身体を捨てて後追い自殺のように、私と同じ結晶に魂を複製した存在となり、大量生産した私の複製品に流れ作業のように結晶を埋め込み私の姿をした何かになっていった。



 地下大空洞の大地底湖の側面に穴を開け、水抜きを行いつつ、湖周辺をぐるりと歩けるように整備する。

 土の精霊使いとして熟練したエルフ数人を労働力として酷使し続けて、地底湖側面の下り坂を階段に整形させる。

 地底湖の更に下にあった地底の空洞は新たな研究所として使う旨を伝え、工事を指示した辺りで煩雑な制圧業務の様なものが片付き、地下研究所の完全掌握を終えた。

 後は度々ここを訪れるエルフの潜水艦強奪作戦へと戦いのフェイズは移る。



 研究所掌握から十二年、季節は春だったろうか?。

 海の幸で朝食を終え、食後の錬金術研究に没頭していたダークエルフが潜水艦の接岸に気付き、気圧ドアが開くのを静かに見守っていた。

 真っ暗闇の海底空洞の海底ドックにゆっくりと侵入してくる潜水艦に誘導装置がカラカラと作動して赤いランプがクルクルと回転し先端が壁に衝突する前に衝撃吸収アームが潜水艦を受け止める。


「逃がさないように上手くやれよ。」


「判ってるさ、あいつ等に協力しなきゃ世界樹には帰れないんだ、この上なく上手くやってやるさ。」


 エルフのオペレーターの手によるマジックアームが潜水艦の揺れを制御する固定鋲を所定の位置に差し入れて完全制止状態を確認して排水作業を開始する。

 メンテナンス排水であることを気付かれる前に突入できるかが勝敗の分かれ目だった。


「排水システム異常なし、排水弁ブロー速度よし。」


「毎年メンテナンスさせられた甲斐があるな、システムオールグリーン、コモン所長に報告、状況予定通り、繰り返す状況予定通り。」


「よろしい、作業員は補給口、ハッチに異物が無いか確認、清掃に向かえ。」


「艦の側から貨物ハッチへの通路接続要請入ってます。」


「了解したと伝えろ、オペレーター配置に、電磁接続許可、慎重に行え。」


「のり面に海藻やゴミが無いか確認、真水の放水を忘れるな。」


 双方平常運転のような作業風景である。


「上部ハッチ開く模様。」


「想定通り、慌てるな平静を保て、制御術士の保護を忘れるな。」


 貨物ハッチへの通路接続に合わせて放水が開始され上部ハッチの隙間から軽く水が滑り込む。


「貨物ハッチ電磁接続確認。」


「あちら側からの接続確認報告を待て。」


「放水ヤメ、補給口の点検状況を伝えよ。」


「良好、海水の洗い流しと拭きあげの後、燃料チューブの接続に入ります。」


「艦側より通路接続異常なしとの報告。」


「搬入路も準備良し、受け入れよし。」


「では状況を開始する、しっかりやんなさいよ。」


 潜水艦は荷物の搬出を行っている間にアームにより宙づりにされた。

 船底に海水が無くなり、スクリューを回そうが舵を切ろうが身動き一つ取れない状況に追い込まれる。

 上部ハッチ、搬入路からエルフ達は捕縛し連れ去られ、続々と艦内への侵入が開始される。

 艦長の来訪を出迎え、握手したその手で艦長を拘束し、コモンは艦の中枢部に乗り込み狭い艦内の乗組員を黒い力であっさりと支配下に置いてしまう。

 長らく使っていなかった眷属作りの黒化の力であったが魂以外の全てを失っても良好に機能した様でなによりであった。


「第一艦橋制圧、機関部、通信部も急ぎなさい、私は第二艦橋へ向かうわ。」


「作戦室制圧、士官室制圧、機関長取り押さえに失敗、魂の複製許可を願います。」


「許可するわ、滅ぶ前に迅速に行いなさい。」


「了解、装置は稼働を維持しています、何時でもどうぞ。」


「火器管制室の制圧難航中、障壁魔法による発射管封印が破られるのも時間の問題です。」


 自棄を起こされて折角の艦を破壊されては堪らない。


「実験中の憑依弾の使用許可を与える、とっとと制圧しなさいな。」


 それにしても全員私と同じ声と言うのは、どうにかならないものかしら、そろそろ飽きて来たわ。

 髪型と服装が違う以外は全部私しかいない。

 コモンデッキみたいだって?言われなくても判ってるわよ。



 潜水艦を手に入れてから行った事は、格納して修理点検、現代科学を投入。

 要約すると好奇心を満たすだけ満たすレクリエーションのようなものだった。

 ドック入りが長く続き、新造艦の構想が立ち上がると、研究者エルフが楽しそうに研究を開始する。

 没個性のダークエルフでも喜怒哀楽はある、私に逆らわないし、害意は無くなるけれど、害だと一欠けらも思っていなければ、私と言えども実験材料として扱うような事もしばしば起こる。

 左手にサイ■ガンのような武器と、差し込み式脳波動作義手も装着させられている。



 折角腕を取り戻したと言うのに、凡そ六十年後には回収されると言う悲しい憂き目に会いつつも、エルフ族…いや賊でいいかも知れない連中が保有していた潜水艦三隻全てを然したる苦労も無く手に入れた。

 異世界転生百年の節目としては、エルフが牛耳る世界の海を征服した……と言っても良いかもしれない。

 少なくとも潜水艦を持っている種族はエルフ族以外もう居ない筈だ。



 あらゆる懸案事項を終わらせる目途の一つも立てる必要が無い、不毛も愉しむ不死族たる我々の朝は早い。

 研究所から潜水艦でぐるり外回り、とばかりに航路上に存在するエルフの拠点を襲い続ける。

 七つの海を旅する戦いの日々…私が率いる潜水艦隊が、ある時は老朽化に耐えきれず圧壊、ある時は大型スルメイカによる圧壊、そして最後に海神ポセイドンとの殺し合いで圧壊、ノリと勢いで造船していた船が出来上がるまで、その海戦自体は実に二百年に及ぶ楽しい楽しい消耗戦であった。

 ノリと勢いで作ったお爺ちゃんのアニメコレクションを参考にした、潜水艦ノーチラスはポセイドンとの戦いの後、ドックまで我々を運んだあとダメージの大きさ故に廃艦となった。


「初めての圧壊以外の最後で嬉しくて五年ほど宴会をした覚えがある。」


「ノーチラスの自立型魂魄自体はバックアップもマスターもありますから、何時でも再建できますね。」


「時代は進むんだよ、再建なんてケチな事は言っちゃいけない。」


 血で血を洗う神々との戦いは海神を屠ってから始まったのだ。

 ただの初心な大卒の女の子が今では神殺しだ、世の中儘ならないねぇ。



 心血を注いだ研究はまだあるが、エルフや魔物、生き物の全てから抽出できる魂魄や肉体を構成する根源の物質をある時発見した、才ある者達に更なる才と差異を与える正しく禁断の物質である。

 七色…いや鈍色に輝くその液体は、液体にして固体であり、物質であり非物質であった。

 キチンと保管できる器に流し込まなければ世界に気化してその姿を失う生命の水にしてスープである。


「要約すると錬金術の到達点にして始源、柔らかい石。つまり賢者の石というやつだ。」


 私のような無才で非力で可憐な乙女には、この世界は過酷に過ぎる。

 だから、コモンセンスな私でも才能を後から獲得できるこの装置は絶対必要不可欠な装置なのよ。

 私の集団が私に惜しみない拍手を送る、ダークエルフ達も私達を見習い拍手を続ける。



 虚しいわ。


読み返して気になった部分を手直し、加筆。

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