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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百六十一話 魔人の生態

 魔人がシルナ王国西部都市イースの守備兵に包囲されながらも戦い、倒した者の臓物を喰らい、血を啜り渇きを癒し、生前得意であった冷気魔法…いや生きては居るか、その冷気魔法で人を氷漬けにしてやけに瑞々しく躍動感のある氷の彫像を造り出していく。

 軍事的カラーの強いバージョンの氷の(アイス) 宮殿(パレス )の庭園の様なものである、テーマパークとして申し分ない、あの白亜の宮殿にディ〇ニ〇などとつければマネキンではなく普通の民衆が終日ごった返す事疑いないが、あのお嬢様と蝙蝠の執事にそんな雑多な客を持て成す素養はあるまい、精々食事として誘引して冷凍保存が関の山だ。



 逸れた話を心の中で打ち切り、憐憫の眼差しで見下ろして、イースの守備兵達の最後を観察する。

 謎であった魔人の食性と生態観察を優先して、市街の酒場で濁った茶色の酒を買い、麦芽糖で造られた砂糖を湯呑みを回して溶かしながらチビチビと味わう。

 幾らかの生薬が効いたチャグーと銘打たれたクセの強い酒を片手に血の海の中で高らかに吠える魔人を鑑賞する。

 決して正視に耐えられる所業をしている訳では無いが、何度死んでも蘇る様は、さぞかし兵士にとって厳しい現実をまざまざと見せつけると同時に、羨ましいモノなのであろう。

 魔人の肉片を持ち帰り、不老不死の妙薬の素材であるとかなんとかとの声が聴こえるあたり、彼等は見事に逞しい、寧ろシルナ王国国民が普段なにを食べているのか非常に興味深い。



 体内から肋骨らしきものを引き摺り出して魔力を込めて武器にしているようだ。

 伸縮自在のその武器は、棍のようであり棒のようであり錫杖のようなものであった。残念な事に三節棍のようなワクワクするような武器では無い、非常に残念だ。

 その日は適当な家に潜り込みシルナ服を調達し安宿の一部屋で眠る事とした。深夜に良く判らないお客様が僕への害意を持ったまま障壁魔法に触れたらしく幾分焦げ(くさ)(にお)いが宿に漂っていたが、賊は骨一つ残らず消える術式なので事故物件のような焦げ跡などが残ったりはしない。

 何故か怯えている主に一寸(ちょっと)細工を施して朝食を作らせながら、今もまだ続く魔人とイース守備隊の戦いによる爆音を聴く。


「体力も凄いものだ。」


 給仕の娘に白湯(さゆ)を用意させて、持参した茉莉花茶を一輪湯呑みに沈める。

 震えながら朝食を運んできた宿の主人に、普段通りに過ごせるように暗示をかけて不安を取り除いてやる、今のままでは不自然に過ぎ、その内不審に思った彼の仲間たちに殺害されてしまうだろう。

 熱々の包子(パオズ)を齧りながら、茉莉花茶を静かに啜り、広がる花の香りを楽しみながら天の目で戦況を見守る。

 驚いた事に守備隊は既に半数が討ち死にしている、指揮官を探しては見たがあの肉塊が元指揮官であると魔法マーカーが示している、複数人混ざっているので判別は付かないが惨い事だった。

 守備兵が全て倒れればあとは民衆しか残っていない、その民衆の中に魔人が紛れ込んでいる、無意識に戦いを回避している守備隊の中にも魔人は隠れ潜んでいる事だろう。



 魔人鑑定眼の有効範囲は極端に狭く、かなり近づかなければ其れとは解らない。

 遥か昔の文献から読み解いたこの魔人を鑑定できる眼の作り方は"聖人"と化してから与えられる一つの奇跡であるとされ秘匿されていた。

 溢れるほどの魔力の持ち主でなければこの疑似魔人鑑定眼の発動も危うい。

 今の時代よりももっと魔力を持った者達が産み出したこの魔法は、最適化や効率化を突き詰めて、より省エネを目指さなくては僕達のような凡俗では使うだけで卒倒する。

 魔法によりコンタクトレンズの形状を構築して魔人の正体を鑑定できる、非常に効果範囲が狭く解像度が低い代物が完成した、正直この程度で良いのだ、クリアな映像でなくとも明らかにヤバい中身があるのだと判ればそれだけで十分だった。

 普通の人は普通の姿に見える、其れとは異なるものはほんの少し垣間見えるだけで余計な精度など不要であった。

 次の課題は聖歌隊の神曲の効果範囲と声の届く範囲の拡充だ、スピーカーのような魔道具でもあれば一挙に解決するが残念な事に僕に魔道具は作れない。

 西の都イースの民衆が守備兵の隙間から魔人の手に落ち、清涼飲料水を飲むスポーツマンよろしく血を飲まれてポイ捨てされる。

 食性記録としては血の美味い固体と肉の美味い個体は別である様に見受けられる。個別に好みがあるのは間違いなさそうだがメスの魔人は男の肉を好むようである。

 女に対しては冷淡で血を飲むだけで投げ捨てる事が多い。

 もし男の魔人の食性が逆であるのならば魔人はバランス良く男女が喧嘩せずに生きていられるのであろうと予測される。

 それにしても、コンラッド達が到着する前に守備兵は全滅するのではなかろうか、と思いながら飲み終えた茉莉花茶から茶葉を食器に捨て、湯呑みから雫を払い布袋に丁寧に仕舞い込み懐に入れて席を立つ。

 愛想の良い店主と給仕の娘に見送られて宿場街を後にして外周に向かって歩く。

 荒れ放題の町並みと未舗装の道を歩調を乱さずに歩いていると逃げ惑う民衆が荷物を担いで都の外へと続く門に殺到していた。

 シルナ国民は西へは逃げられない、シルナよりも西にあるあの国はトリエール王国よりもシルナ王国民を憎んでいるからだ。

 試みに西門から向こうの街道を眺めればヤモリの黒焼きのような姿で串刺しになったシルナ人の亡骸が道沿いに突き立てられて並んでいる姿が見える。

 東門に殺到していた市民は門の外に布陣を開始し始めている軍隊の旗を見て恐慌状態に陥る。

 トリエール王国軍の旗が強い風の中で雄々しく翻っていた。今頃は軍議を行う陣幕の設営に大わらわであろう、安心していい、今日一日はここを出る気は無い。

 覚醒前の魔人を狩る大仕事を先にこなさなくてはならない。


「犠牲は最小限にしたいじゃないか、シルナ王国の犠牲はどうでもいいけどね。」


 人の皮を被った悪魔狩りの過程で魔人たちが合流したとしてもタケルには与り知らぬことであった。





「有難う御座いました、またのご来店をお待ちしております。」


 店舗の前に置かれた魔道具がお帰りになられるお客様に挨拶をしている昼食時。

 歩く死刑量産学園と囁かれる魔法学園で学ぶ少女達四名が、その無用に目立つ制服を着たままアルディアス食堂に昼食の為に訪れていた。いや、普通に着替えてから来るようなフォーマルな店ではないのだが、国民の等級で語れば彼女達が来店できるギリギリの等級である。

 彼女たちに粗相があれば即死刑と囁かれる程度には庶民に畏怖される対象である魔法学園の制服。

 黒を基調にした上着に白いスカート、ピンクのストライプが袖口と襟に入っており、その装飾はミスリル銀の糸で織られている。

 基本的には日本のセーラー服に近いが魔法を使う事に適した意匠が施されており、大凡尋常なイメージを抱く事は難しい。

 何よりも危険なのは彼女たちの制服右肩に縫いつけられたワッペンがネア・イクス・トリエールの紋章を戴いた二匹の竜が支える意匠であるという事だ、彼女達への乱暴狼藉は王に対する乱暴狼藉と同等であると見做される、歩く死刑量産学園の異名は伊達ではない。

 何故そのような呼び名になったのかは学園の起こりから話さなくてはならないが、掻い摘んで話せば王太子であった頃のネア・イクス・トリエールへの嫌がらせが発端であった。

 そのような異名になるまで生徒達にちょっかいを出した貴族を殺しに殺し尽くし最終的には王位継承権第二位の弟とその母の軟禁にまで至るお家騒動が勃発したわけだが長すぎて語る暇が無い。

 朝の仕込みが足りず鰻を只管捌いている俺よりあそこの暇そうなアロエゼリーにでも話を聞いて見ると良い。


「アロエゼリーとはなんだ、ボクはそんなに甘くないぞ。」


 ツーッと醤油を一たらしされてプルンとアロエゼリーが震える。

 見上げた先には素知らぬ顔で醤油差しを片付けているトモエが笑っていた。


「やめろー、醤油は好きだけど、やめろー。」


「黒蜜ときなこ塗した方が私は好きだな。」


 看板娘が汚れものをお盆に乗せて洗い場へと立ち去って行く。

 ゴリゴリと背骨の際を刃物が走る音が止む事無く続き、店長の手元では肉丼の肉がひっきりなしに焼かれる香ばしい音と香りが溢れ出す。

 男どもは今日も忙しい。

 人が食えるものは何でも食えるコモン先輩は今日も元気であった。


「凄いね、こんなの見た事ないよ。」


 黒髪の少女が透明な硝子ボウルでぷるぷると揺れるコモン先輩をテーブルの中央に置いて観察する。


「触っちゃだめよ、希少生物は大事にしないとお母様に怒られるわ。」


「かーっ、解る子には解るんだね、"希少"なんてさー。」


 上機嫌のコモン先輩である。


「わっ、このスライム喋れるんだ、すごーい。」


「もっと褒めてくれて、い・い・ん・だ・ぞ。」


 調子に乗っている様だがここからツッコミを入れるのは困難だ、まぁ好きにさせておこう数少ない晴れの舞台だ。


「クーちゃん、見たことある?。」


 何もない虚空に意見を窺う変わり者もいる。


「えっ?えっ?そこに何かいるの?。」


 目まぐるしく(コア)を体内で走らせながら不可視の存在を探そうと試みるコモン先輩。

 現状『NEW!』マークが付いて新種の魔物として登録されたばかりのコモン先輩には流石に大精霊はその姿を意識して顕現しようとしない限り見える事は無いだろう。

 生き物としてのの位階がまるで違う。



 NEW!

 モンスター名:コモンスライム

 ネーム:コモン先輩(■■■■)

 大魔法使い■■■■によるアロエクローン 

 父・母:スモールドラゴンアロエ(リーナ)

 属性:水・植物・先輩

 弱点:後輩

 レベル:1/99

 基礎能力・全評価E-

 才能限界・全評価A+

 備考:レアになりたいなら努力しようね(■■より)



 アロエがドラゴン種だった、判り易く言えば幻想種であるらしい。

 化粧品としても使えるアロエは、俺達男性陣にとって火傷の治療の際に大変お世話になっている一鉢である。

 なるほど、これからも宜しくお願いしたいものである。



 モンスター名:スモールドラゴンアロエ

 ネーム:リーナ

 属性:治癒・植物・古代

 弱点:無し

 レベル:288/999

 基礎能力(才能限界)

 力 C+(B)

 知識 B-(B+)

 敏捷 E+(C)

 知恵 B-(A)

 健康 A+(A+)

 信仰心 A+(A+)

 運 C-(B-)

 HP7278/8101

 MP1211/2541

 備考:御恩は忘れませんよ



 見ての通り平凡なアロエである、以前ここで食堂を経営していたお婆さんが亡くなるまで世話をしていたものが裏庭にあり、枯れかけていたものを剪定して毎日皆で面倒を見て来たアロエである。

 お婆さんが配ったと思しき株分けしたアロエ達も近隣の店舗前や片隅、店内にあり、概ねレベルは百レベル越えである、なので親株としてこれが普通なのだと思う。

 大体の怪我や傷、食あたりや就職難はこれで治る。

 塗って良し、服用して良し、悩み事を相談して良しのアロエである。



 鉢植えで身動きしない母とガラスボウルで身動きできない娘という構図であろうか…。

 調子に乗っている娘を見守るように今日もアロエは元気である。





 死屍累々の船舶ドック周辺の映像が届けられた。

 魔人との闘いが激化の一途を辿っているとの報告を受けたネア・イクス・トリエールは王都に駐在する貴族達へ動員令を発布する。

 兵力を遊ばせていると思しき貴族は特に念入りにパジョー島への出陣を命じた。

 古都キウで呆けていた侯爵並びに伯爵たちも王都へと召喚されシルナ王国の東の都を越えて南へと向かう軍の編成を強制される。

 代を重ねている貴族程戦いを知らない。純軍事的行動の基礎である補給もままならない、だがそれでいいのである、今回の大動員は減点方式で鈍らな部分を露出させる意図で行われている。

 門閥貴族も例外なく当主による出陣が厳命されており、パルハーノフ侯爵は病床に訪れたネアにより隠棲を命じられるまで兵力の出し渋りを続けていた。


「当主が戦場に立てぬから兵を出せないなどと腑抜けた事を抜かしおるから迎えに来たぞパルハーノフ、領内の守備兵を除いた全てを貰い受けに来た、次の嫡男が無能でもあの程度の兵なら問題あるまい。」


 ベッドから担ぎ上げられたパルハーノフはそのまま王都の病院へと担ぎ込まれ、彼の保有する資金と糧秣、そして軍馬、軍竜、兵士は召し上げられたのである。


「パルハーノフは王都にあり、彼の兵も王都にある、何か問題があるかテルノンド。」


 出る杭は打たれる。ネアの所業に異を唱えたテルノンドもまたパルハーノフとほぼ同じ状態に置かれ、守備隊と領土と嫡男以外の戦力と資産、貯め込んだ糧秣と嗜好品の全てを王都に移送させられた。


「シルナ王国内で疫病に罹患して死ぬ人数がどれだけになるか解らぬがもっと集めなくてはならぬ、テルノンド、どの様に集めればよいのかは理解しただろう、この任、貴殿に任せようと思うがどうか?。」


「このような非道の行い、神が許しませぬぞ、国王陛下。」


「神は居ないのだ、テルノンド、もう随分前にお見棄て遊ばされたのだ。」


 酷薄に笑う豪奢な姿の王と、病床にあったはずのパルハーノフが拝跪したまま控えている姿を見つけて息を飲む。


「神などいないが神の奇跡は人の手に落ちた、見ての通り死に掛けた家族も意のままに健康を取り戻せる。」


 青白くパルハーノフの左胸がイグリット教の紋の形に光り輝く。

 周囲を宗教家たちに取り囲まれながらテルノンドは手早く着席させられ一通の誓約書とペンを前にたじろぐ。


「より深いイグリット教への理解を其方に薦めよう、領地も跡取りも心配はあるまい、不正蓄財もそれにサインすれば広き心で赦して使わす。」


「神は居ないと謗り、それでも神に従えと…既にこの身は産まれいでし頃よりイグリット教徒だ、何故に改宗を命ずるのか理解に苦しむ。」


「貴様のイグリット教の頭には”ザン”がついておるであろう?。」


 全方位の目線が殺意を隠さなくなった。

 少し前よりザンを信仰する事は反逆罪であると布告された、解釈の齟齬だけで別れた同じ(・・)イグリット教に何の違いがあるものかと懐疑的であった自分が取った途はどちらも平等に扱う事であったのだ。


「それで御安堵頂けるのであれば、サイン致しましょう。」


 否やは無い、そこから疑われていたと言うのであれば致し方ない。

 日和見が過ぎた事で不興を買いこの事態に追い込まれたとすれば、確かにパルハーノフも病臥を理由に日和見を決め込んだ咎があった。


「宜しい、では司祭殿お納めください。」


 ネアの手から誓約書が司祭に手渡され天の光が降り注ぎ誓約書が受理された事を確認する。

 何時も通りの誓約であり、神に捧げた誓いに偽りは無い。修道士が左胸に聖法具を軽く押し当てて部屋の隅に戻り、祭具一式を片付けて整列する。


「テルノンドよ、其方の疑義は晴れ不正蓄財も国へと納める事で無かった事となった。」


「嫌疑が霧散し有難いことであります。」


「では命じよう、貴様と同じ穴のムジナであった者達を狩り尽くせ。」


「はっ。」


 何時か起こすクーデターの資金を貯め込んでいる貴族達を虱潰しに潰す任を帯びた私は、忠実なる国王陛下の犬となりてパルハーノフと共に嘗ての仲間だった者を狩る日々を開始した。

 ザンが取り払われたイグリット教の為に晴れやかな心で立ち上がる。



 その日からクーデター派の潜伏先の急襲が各所、各領で相次ぎ、進軍の途であった小領主などは宿営地で誓約書を書かされて宗教紋を打たれる事が相次いだ。


「乱用は避けたいところであるが、無理そうだなダンよ。」


 少なからぬショックを受けているネアを見かねて、ダンは傍に控えていたメイドへ茶を用意するよう指示を出す。



 乱用とは宗教紋の事であろう。

 その恐ろしさは魂を問答無用で支配下に置けることだ、クーデターを企むような最上級の不埒者でもあっさりと寝返らせる事が出来る上に忠実なる犬へと変貌を遂げさせる事が出来る。

 こんな便利な道具を権力者の自由にさせるタケルの精神に震えが来る、来ないものはタケルと同等の精神性を持つか聖人君子か、はたまた神か何かの尊きものだ。



 タケルはネアにこう言って宗教紋を献上した。


「僕の居た国の社畜の生き様を参考にして造らせた聖法具で御座います。」


 社畜というものに聞き覚えは無いがそれは後に説明を受ける事としよう。

 奴隷紋に改良を加えて解除も刻印も容易にした宗教誓約を鍵として機能させる聖法で起動させる魔道具であるそうだ。

 それでも魔のつくものを宗教家に使わせることは憚られるので聖法具と呼ぶことにしたようだ、聖法力でなくては動かないように造られているので魔道具とは列記とした違いがある。

 神罰についての話になった際にタケルは信じがたい事を語った。


「この世界を維持するために人身御供として置き去りにされた神は一人だけ居ますが他の神はこの世界を見捨てて既に一柱もおりません。」


「なにを馬鹿な事を言っておるのだ?。」


「僕が元居た世界に移住して八百万の神の中のどれかに混ざっております、もう戻って来る力すらも放棄して神によっては元の姿すら覚えていない者も……ですから神については深く考える必要は御座いませぬ。」


 タケルの手には不可思議な力で造られた一冊の本があり、手渡されたその本を見たネアは膨大な神に関する知識をその脳裏に書き写される事となる。


「タケル、国王陛下に何をした。」


 異常事態を目にしたダンの前にはタケルの姿は既に無く、拝跪し頭を下げた姿勢で王の傍から離れていた。


「王の手にある本に触れれば知識として手に入れる事が叶いますが他言無用に願います。」


 毒を喰らわば皿までと父ならば笑って取るであろう行動を思いその本を手に取る。

 それは、世界を見捨てた神たちの余りにも無様な姿と逃亡劇、そしてその終幕までの叙事詩であった。

 我に返った主従が拝跪した姿勢で待つタケルを見下ろし光の粒子となって消えて行く本を見送る。

 魔人は人類大攪拌の際に人の皮を被り人に紛れた、地に隠れた者もあるが大多数は真の敵の下へと侵攻を開始した。あらゆる路を拓いて造り、界を荒らして侵攻を続けて神の世界に至った。

 神界は侵攻を受けていたのだ。

 そしてその命を惜しんだ神は神兵が必死に戦っている隙に逃げた、あっさりと見捨てて逃げたのである。

 神界は破壊の限りを尽くされて魔人の手に落ちた、それが破界ルッツェゴードスである。


「神を神とも思わずとも良く神など信じるに値しない、それが真実だとは思わなかったぞダン。」


「恐れ乍ら国王陛下に愚かなる一兵卒に過ぎぬ身のタケル・ミドウより叶えて戴きたい願いが御座います。」


 唐突であった、低く卑しき身分の只の兵卒に過ぎぬ者からの願いである。


「申して見よ。」


「我等国民の、我等人類の神になって頂きたい。」


 それは神など居ないこの世界の新たな神誕生への最初の一歩であった。

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