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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第十六話 四方時間差連続突撃

 爆雷魔法(サンダーストーム)により多少混乱したが、タキトゥス公国軍は依然健在であった。

 本国までの道に点在する後方守備軍が壊滅している事を知らないと言う点を除けば、ピーシャーブディ二世の炭化した遺体とその麾下の戦象部隊を操る兵士の全滅くらいが損耗であると言えた。

 飼育員のいない象が群れで草原の木を押し倒して葉を貪り食っていたりする程度…ようするに野放しの猛獣が自陣に紛れ込んでいると言う微笑ましい有様であった。



 前支配者層は現在落ちぶれて都落ちしたが、民衆に協力した一部貴族が名誉職と戦象部隊を維持管理して新しい権力者を保証するという形で名を残している。

 それが仇となった形であろう。



 鉄格子の檻まで誘導できるものが生存しているか捜索させているが、未だ良い報告が上がってこない。

 最悪の場合、象は全てここに捨てて行かざるを得ない。



 夜の帳が静かに陣営を包み、篝火(かがりび)が各所に焚かれ夜警の隊が点呼を始める。

 敵地であるから警備は密に、余裕のある人数で行わなくてはならない。



 三人の将軍が治める小国の精鋭達が各々三方にある敵部隊と対峙し、本陣は合流予定の本国からの援軍が到着すれば三万の兵となる。



 到着すれば…である。



 左翼軍歩兵二万五千が先行させた騎馬隊と合流するために敵領内を進軍していると、後方から敵影がやって来るのを確認する。

 近くに水場は少なく、川は干上がっており間違いなく野営予定地で鉢合わせる事は火を見るより明らかであった。

 それでも全く焦る必要性などは微塵も無い。

 今からやってくる部隊は”援軍”であり”補給”部隊だ。しっかり足止めを果たすだけで敵は餓えて瓦解する。

 前回が何時頃補給を受けたのかは知る由もないが、一か月以上補給無しで軍隊がその形を保てるはずもない。


「備えよ、総員知識と知恵と力を出し合って、戦いながら砦を築くつもりでこれに当たれ。」


 守勢の人であり臆病者との謗りを受けることもあるが、守りに長けた人物であることは間違いなかった。


 くして敵本陣への援軍と補給は断たれ、三万の兵となる予定であった彼等は二万をやや下回る兵力で夜を過ごす事となる。





「我々辺境八氏族と力強い援軍を率いてきた諸兄が力を合わせれば此度の勝利は揺ぎ無い。」


 イスレムの言葉から会議が始まり、半刻もしないうちに一万七千騎は闇の中へと、様々な工夫を施して後、敵本陣へと進撃を開始する。



 彼等が宿営地を後にして一刻後、敵陣から火の手が上がった。さぞかし驚いて居る事だろう。

 騎兵一万七千騎による夜襲である。寝ているところに友人数名が訪問してくるのとは格が違う。

 火の手は敵の輜重部隊や寝床となるテントから上がっているのだろう。



 秋も深まってきて夜も底冷えする程に寒い。テントも寝具も無しに果たしてどれだけ保つものであろうか?。

 完全燃焼の青い光が仄かに見える程度の隙間のある箱が、ワイドに強い温風をテントに振り撒く。


「こりゃ凄いな、面白い構築式だ。」


「あ、吹き出し口に斜めの遮蔽板をイメージして下さいね、火傷しますよ。」


 (ファン)(ヒーター)魔法改である。

 今までの温風魔法は明るく、人によっては眠りの妨げになる上、赤い光であった。

 そこでマナの温度を高めて完全燃焼へと術式を変更し高温になりすぎるのと明るさを外に出さないように鱗状…と言うよりサンシェードのような遮蔽板を構築するに至る。

 勿論吹き出し口を下に向かって大きく広げ改良を施す事により風の精霊が影響を大きく及ぼせるように設計、つまりワイド化に成功したのだ。



 当然単純構造の組み合わせなので現物を見た者にはあっさりと真似ができる。

 温かみのある赤い光が好みであるという派と、寝るときは暗い方が良いとという青い光派との、二つに別れて言い争いを始めたかと思うと、理知的な兵士が割って入り、寝床を別けると言う方法で喧嘩にならないようにすみやかに班分けをしてしまうあたり、軍隊と言うものは色々と効率的に出来ているらしかった。



 同じ火であっても場所によっては意味合いも色合いも、そして明暗も別れて仕舞うもののようだ。





 大地を揺るがす馬蹄の轟きが、寝静まるタキトゥス公国軍本陣を四部隊四連続の突撃で縦横無尽に引き裂いていく。

 伝令弾を打ち上げタイミングをずらし、ぶつからないように突撃を繰り返す。

 最後の突撃の際には火の点いた松明を周囲にバラ撒いて包囲網を形成し、残しておいた逃げ口に決死の突撃を仕掛ける者達を捕らえたり横合いから襲って殺した。

 彼等から奪うものは命と勝機くらいのもので、生きて逃げのびたとしても最早趨勢は決していた。

 果敢に兵を集めて抗戦を試みようとする者達には敬意を込めて送るべき言葉があった。


「突撃。」


 降伏は認めない。



 朝が訪れるまで戦いは続いた。

 騎兵が引き揚げた場所に残されたものは燃え付きた物資と死体の山である。

 タキトゥス公国より以前に存在した王国軍との戦いでも互いに降伏を認めることは殆ど無かった。

 例外と言えばハン・シヴァとその子ダン・シヴァの二人が降伏を認める穏健派であった事だろう。



 古い古い歴史上の因縁で、毎年諍いが絶えず、旅先であっても殺し合うくらい仲が宜しくない。

 小さな子供同志でも殺し合って功を誇り合うくらいであるから相当に根深い。



 捕虜となった僕が殺されなかった理由は御館様と薄っすら似通った顔立ちであるという事、ただそれだけである。

 僕と同郷と見られる者達も耳の形と顔を改めて別けて埋葬したそうだ。

 僕達の世界の言葉で言うならば判定基準はモンゴロイドの特徴そのものであった。



 早朝、朝霧の只中を凱旋してきた騎兵を出迎え、馬具を外して馬を柵の中に放つ作業と騎士たちの防具を外す手伝いをする。

 身体拭きと着替えを終えていた騎兵達と食卓を共にする。王都を進発してどれだけ振りの再会であろうか、顔見知りの居る者達で再会を喜び合い、散ってしまった戦友を悼む。



 ところどころに設置されている旧式の温風魔法のついでに、変な生活魔法を創る新人として紹介され、困った僕は、新作温風魔法を提供する事でコッソリとその場を脱出したのであった。

 きっと普及速度は現代よりも速い事だろう。

常に崩壊してますが、文章修正。

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