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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百四十八話 パジョー島

 旧王都キウ、今は広大な湿地が覆い尽くすこの場所は、遷都が決定される切っ掛けとなった海水面の上昇が無ければこんなに勢いよく人口が流出する事も無かった大都市であった。

 遷都以降は衰退する一方であり、毎年少しづつ海水面が上昇を続け、湿地帯がじわりじわりと広がる、この地をまた人が住める平野とする為には、大規模な灌漑工事を必要とするだろう。その技術や資金があるかどうかは兎も角として…十年二十年では成し遂げようも無い大工事に他ならない。



 キウ湾に幾つかある港のなかでも、未だ辛うじて賑わいを残している港がある。

 軍港と言ってしまえば身も蓋も無いのだが、造船業を生業とする企業も多く投資するダシ港は、この地の数少ない大軍港の一つである、造船業を維持する為の金銭が動く以上、ある程度の活気が収まる事はないと言って構わないだろう。



 つい最近人身売買と、人攫い。人殺しと禁忌魔法の製造・使用を行った大罪人捕縛の報せが入った。

 誤って主犯格を殺して仕舞ったが、被害者と幾人かの容疑者を確保したとの詳細な報告もまた遅れて知らされた。

 ただし、其処からが問題と言って良い。

 現地に派遣された特殊任務捜査官と制圧任務を帯びた機動隊員から齎された、翌朝までの報告の数々は恐怖と恐慌と彼等の命を奪った何者かの存在等の、大凡不確定要素しかない報告であった。

 何故に不確定要素とされているのかと言えば襲って来た何者かの容姿が、奇妙で異形に過ぎた事が原因であった。



 彼等が恐慌状態の中マニュアル通りに行動したことは間違いなく、勿論救難信号と緊急救難魔法弾も確認された。すぐさまパジョー島へと救援部隊が派遣されたが、その救援部隊も未だ定期報告すら途絶え、帰って来る気配すら無い。

 非常事態であることが疑いない、との報告が記された幾つかの書類を睨みながら情報将校は唸り、報告魔法も魔法弾も打ち上げられず、船までも見つからないと云う、その有様にカラコルムの本部から派遣された軍務将校が鼻白む。

 軍務将校の命でオーサカ港から軍艦二隻と乗員・戦闘員合わせて四百名が島へと派遣されたのはそれから半刻も経たない早朝であった。





 異形の者と海軍が戦闘状態に入り、運よく手薄になった真夜中のパジョー島に六人が上陸した。

 ただし彼等がその運の良さを実感する事は無い。どちらとも出会ってすらいないのだから。


「では、予定通りオポフェウセニーとドロイヌヌは女神様の護衛を、俺達は遺体回収を行う。一人は木に吊られていたとのお話だから遺骨の回収は可能だろう、もう一人は木の根元との事だが腐肉を漁る連中に持ち去られている可能性が高い、周辺捜索に気を配ろう。」


 地図を広げて三人の勇者が現在地を確認し魔力の篭った石を一つづつ袋に入れてオポフェウセニーに渡す。

 彼等の魔力が尽きれば石は輝きを失う、黙っていても死亡報告が出来るマジックアイテムだ。



 無言で彼等三人が闇夜の砂浜を駆けていく。

 その背中を女神キュリエが祈るように見送る、女神とその従者にも仕事はあった、この島の中枢にある祭壇なり儀式の場として使われていた檻…その奥の真相に用があった。



 私は民間人だ、卒業を控えた大学生だった。

 どうして魔法が使えるのか?どうして海で溺れずに呼吸が出来たりするのか?。

 疑問だらけである。どんな人体実験が行われたのか興味がある、知って得られる絶望にどれだけ愉快になれるのかと謂う不埒な考えもある。


「ここ、八丈島よね…。」


 元居た世界がオリジナルなのかコピーなのか知らないけれど、見た事のある景色が私に確信を与えてくれる。

 スキューバダイビングは私の数少ない趣味の一つだ、海が好きと云うのもあるのだけれど、弱肉強食が綺麗な場所でちゃんと行われているのを見るのが大好きだった。

 必至になって逃げても食われてしまう、その捕食者がまた必至になって逃げても喰われてしまう。私は摂理が大好きなのだろう。



 そして今の私はそれらの感動に興奮を覚えない。悟りでも啓いてしまったのだろうかと思うぐらいに面白さを感じない。身近な何かが追われて殺されたからだろうか?自分自身が追われて必至に逃げたからだろうか?未だにそれが判然としない。

 気になり続けている友の死と死体を放置した申し訳無さがずっと平和なビーチに居た私を苛んでいた。

 ある時聴こえたのだ、私達もそのビーチに連れて行ってよ…と、幻聴かもしれない、只の妄想かもしれない。



 楽しい日々を過ごす自分と森で朽ちていく彼女たちの…チエ、ユミコ、サオリの姿を見比べるとやはり胸の奥が痛い。こんなに他人を思いやれる自分と出会ったのはあの五人の半魚人たちが肉片と化していたあの時以来だった。

 私はきっと、変わってしまったのだろう。


「倉橋に好かれる性質では無くなったのは確かね。」


 ポツリと呟いて顔に上がって来る血の気に感情を揺さぶられる。

 今、私何を口走った?。





 左舷上空から翼の生えた人型の魔物が投石を繰り返している。中には急降下爆撃を試みる魔物も居るが障壁魔法が強化された軍人たちに防げない程度では無かった。


「やっててよかったタケル式!。」


 岩を弾きながら伍長が吠える。何名かの部下が彼の言葉を唱和しながら欝々とした空気を努めて笑い飛ばす。

 戦況は防戦一方、此方の魔法は届かない、上空から船を襲われる対策など想定外だった。

 海上では矢弾の消費など当たらぬ物を射るが如しなので反撃禁止で上陸を目指す。攻撃は苛烈にして激烈であったが障壁魔法でこれを凌ぐ。

 それでも一人、また一人と甲板に倒れていく兵士を船倉に運んでいく。魔力枯渇まで必至に防いでくれた彼等の為にも何としてでも上陸を成し遂げねばならない。


「障壁に角度を付けて尖らせろ!、大質量の物は面で受けず点で受けて流せ!。」


「詳しくはテキスト参照!。」


「敵の位置が判らん場合は照明弾だ、放てぇ!。」


 物見の兵の報告では空飛ぶ魔物の数は凡そ千匹、絶望的兵力差じゃないか。

 腰に佩いた剣を手の中で弄びながら苛々とした表情で空飛ぶ魔物を睨む。笑いやがった…殺す。





 遺体回収班は森の中を捜索に当たる、腐肉喰いの動物の糞や足跡で巣を探す必要がある。

 子供の歯磨きとして骨は巣に必須なのだ。

 アンキロススは樹上からロープの下がった樹を探すが、それは林道沿いにあり、容易に発見出来た。

 左足だけが残されていたが遺骨の回収さえ出来ればそれでいいとの事であったので、乾せ枯れた足を袋に納めてシンダラマッダが捜索する腐肉漁りの動物の巣探しに合流する。



 モヴァーデンは女神様が連れられて閉じ込められていたという地下遺跡周辺に打ち捨てられていた筈の友達を探していた。

 拷問器具のようなものに乾燥した皮膚と毛髪が残っているが取り敢えず毛髪を布に包み袋の底に仕舞う。

 周囲を見渡して遺骨を探すのだが、影も形も無い。

(これは、シンダラマッダに合流した方が良さそうだ…。)

 モヴァーデンがそう心の中で呟くと鋭い鉤爪を持った何かが遺跡から飛び立った。

 慌てて近くの巨木に身を隠し気配を殺すも、半魚人である彼等から人間の匂いはしない。

 飛び立った何かはモヴァーデンを歯牙にも掛けず海の方…海しかない絶海の孤島ではあるが、その崖の方角へと飛び去って行った。




書き出しの文章が滅茶苦茶だったので修正致しました。

誠に申し訳ございません。

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