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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百四十三話 英雄を目指す者、支える者

 枯れた大人がなるような孤児院の院長に、落ち着いて冷静沈着に見えたとしても、成人したての男がそんなに小さく纏まって人生を終えたいと切望する事があるだろうか?、そりゃ世界に絶望でもしてなきゃ在り得ないだろう。



 成人を迎える十二~十五歳の全種族に参加の資格があるという点も大きい。八氏族には人以外の種族も居る。

 大興奮で満月の夜でもないのに狼族のベンが遠吠えするくらいだ、普段は遠慮して我慢するアイツが、だ。

 狸族のリリカが俺の足元に座りフンフンと話を聴いているが、お前は五歳だから参加資格は無いぞと、リリカの頭を撫でながら俺も二人の話に時折質問を投げ掛けて内容を整理していく。



「タケル様かぁ、全く聞いた事の無い名前だが、御館様の抜擢だからな、確かな御方なのだろう。」


 そしてイノとコンラッドが首肯する、この二人は興奮しすぎなければ俺などよりもよっぽど鋭敏な者達だ、精霊氏族のコンラッドなどは本当に冷静で信頼できる頭脳派なんだ、今はその…珍しい程大興奮で参加を呼び掛ける駄目な子みたいなオーラを発散しているが…。

 イノはイノでガタイのデカい子供達の両肩に手を置いて…お前、それただの脅迫じゃねーか。



 お祭り騒ぎにも似た新世代軍の編成に湧く孤児院の広間に食事が出されて、更に興奮が高まる。

 今回の蛮族討伐で俺達は訓練を受けるとの事で、適正もその際に見極められるらしい。


「北東の端に野生の馬がいると聞いた、明日捕まえに行こうぜ。」


「そりゃいい、仔馬が居ればみんな一緒に連れてくればいい。」


「あたし仔馬さんお世話するー。」


 伸びあがって主張するリリカかご飯をこぼしながら嬉々として手を挙げる。


「ちゃんと食べてから話しなさい。」


 零したご飯を小皿に纏めてよけておく、あとで鳥に喰わせてやろう。



 簡易的な名簿に一般的な武芸か魔法の才、突出した武芸か魔法の才を判定魔法陣で出た結果を書き記して署名していく。

 妻帯、子の在る無しも記す。扶養家族の有無や特技の欄もあるので空欄の無い様に書き込む。

 東の果てであるこの国よりも東の果てから来た者達から齎された文物はシステマティックの粋を集めたものが多く残っている。

 王都では引っ越しの際も届け出が必要で印鑑と言うサインの最後に打つ判子が必要になる。

 封蝋と意匠が揃えられる事も多いが、文様で何処の家に連なる家臣であるかが解りやすいこの道具は、三等級以上の国民には必須の身分証明道具だ。

 大人になったばかり、または、成る直前の俺達にそんな洒落た道具などないので右手か左手の親指に赤いインクを浸した布に指を押し付けてから名前の横にペタリと押し付けて完成だ。





 集められた僕たちは、牧草地の柵を造る為、村人の誰もが近寄らない魔の森で木材の伐り出しをさせられることになった。

 誰が好き好んでこのようなデッドゾーンで樵の真似事をするのだろう、そう俺達がするのだ。

 俺達の指揮官であり隊長となる人が魔物を惨殺しながら俺達の作業の進行を確認している。

 非常に短い期間でありながら俺達は濃密な時を過ごす事になる。

 樵の真似事をしては肉を貰って帰り、一週間後には銀貨が与えられ、見習い軍服一式と各自が得意な武器と不得手な武器を渡される。

 任務の真似事も苦手なものばかり徹底的に鍛える意思が見えるのだが、細かい事を四の五の考えるよりも必至に付いて行かなくてはならない状況に何時の間にか追い込まれる。

 このタケルと言うお方はなんというか、追い込みのプロなのだと皆が納得した。

 ただしやる事は樵の真似事、柵作りの木材加工を繰り返し、魔物への不得手な武器での突撃と得意な武器を用いての撤退。

 待機と言う名の魔物肉の解体と柵などには到底使えない大きさの丸太の伐採である。


「タケル様!お尋ねしたいことが御座います、宜しいでしょうか。」


「訓練内容に文句でもあると言った顔だな。」


「柵や魔物狩りと、その解体までは良く判るのです、真っ直ぐで歪みの無い丸太を丁寧に用意するとは砦の建築くらいにしか思い至らず、工兵として我々が求められているのであれば何やら話が違うな…と。」


 イノが俺の袖を引いている。


「アレス、無礼だぞ答申の許可も頂いていない内に何を…。」


 タケルが手をひらひらと振りイノを下がらせる。

 あぶねぇ、無礼討ちの危機だったか俺。そう気づいて左胸に手を当てて頭を下げて姿勢を固定する。


「工兵であり、魔法兵であり、戦士であり…求めるものが多すぎて一言では言い難いな。」


 目の前で魔法障壁が箱型に造られ補強に補強が重ねられていく。

 そこに先端を削った丸太が差し込まれ、何やら角度と方向が定められる。

 コンラッドが障壁の塊と化した場所で方角を計測する魔法を発動させてイノが障壁の中に爆裂魔法を構築する。


「アレス、判っているだろうが軍事機密だ、後でコンラッドから詳細を聴けよ、必ずだ。」


 イノに睨まれながら叱られる、それでもそんな事より目の前で構築されたコレに興味が尽きない。

 凝縮された魔法障壁の筒の中で爆裂魔法が発動し、丸太が恐ろしい爆音と共に飛翔して的にされた大木に突き刺さって止まった。


「よし、上手く行ったな。お前達にはコレを使えるようになって貰う。」


「な…何なのですかこれは?。」


 驚き過ぎて何も思い浮かばないと言う顔をした俺の頬をコンラッドがペシペシと叩く。


「タケル様が大出世なさった魔法だ、名を”ドラゴンスレイヤー”と言う。」


「ウナギスレイヤーだと言っておるだろう。」


 スレイヤー、つまり殺した者、目の前のこのタケル様がドラゴンを殺したのか?!。

 目の色が変わった俺にタケル様が微笑して語りかけて来た。


「この訓練を耐え抜いたその先に”ドラゴンスレイヤー”の称号があるとすれば、キミはやる気が起きないかな?。」


 否やも無い。望んで得られる称号としては破格に過ぎる。

 そしてこれがそれを成し遂げた武器であるというのならば、軌道が安定しない曲がった丸太など確かに言語道断だ、中に割れが生じていたりしても宜しくない事は疑いない。

 そして全てが腑に落ちると不意に言葉が漏れる。嗚呼、成る程…猛烈に木材の伐採と加工と品質に拘る意味が深く重く納得できた。


「ヤル気が漲って参りました、御無礼の数々、平にご容赦を。」


 そうして左胸に手を当て、深々と頭を下げると笑ってお許し下された。

 イノとコンラッドに後から滾々と説教されて思いっきり搾られたのだが…。



 翌日から、俺達はもっと強烈な訓練を課せられることになった。



 すっごい笑顔のタケル様に…。

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