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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第十四話 積み上げて積み上げて

 試しに、ゆったりと槍を構え黒馬の思うがままに無心で応える事にする。

 一気に距離を詰めて「ホラ、刺せよ。」と、スイッと馬体を横に逸らせて敵が真正面に来る。

 無駄な力を入れずに優しく槍を、但ししっかりと握って突き出す。一撃で心臓を捉える。

 軽く飛び退いた馬の力の流れに逆らわず横薙ぎに槍を振るえば飛来する矢を知っていたかのように打ち落とす。

 間違いない、この馬、妖怪か何かだ。



 先行させた第二歩兵隊が逃げ遅れた弓箭兵の山側の部隊に突撃を敢行した。

 僕はその混乱に合わせて敵陣を突っ切る。逃げている数十人の弓箭兵を追いすがって突き殺す。

 不意に黒馬が馬首を巡らす。なるほど歩兵第一部隊が突撃を敢行したようだ、逃げ惑う弓箭兵が見える。



 慌てて僕は魔法伝令弾を数発構築して空に打ち上げる。

 それは後方部隊である自軍の弓箭兵への前進指令であった。



 第一歩兵隊と第二歩兵隊が合流し、街道を敵第三肉壁隊に向かって進む。

 距離があるので間に合うかは五分五分である。

 僕はと言えば、第三、第四歩兵隊に加わり敵第二肉壁隊の解体作業に従事していた。当然だ、日本語を話せるのは僕一人なのだから。

 またもや傲慢且つ、自信に満ちた演劇部ばりの呼び掛けを繰り返し、何十人かの日本人らしき者達と目が合う。

 感慨など後回しであった。僕は、まだ全身に矢の雨を浴びるように弓箭兵へと突撃する。

 次は流石に歩兵部隊と一緒に行く事になったが…。

 不完全なリジェネイションもどきでは深手を負った時逃げざるを得ない。

 文字通り血反吐を吐きながら弓箭兵を狩る破目に陥ったのである。




 血煙で前も見えない。返り血に咽ながら治癒魔法を駆使して小高い丘の陣に躍り懸かる。

 督戦隊の兵士達とは、云わば弱者の頭を蹴り飛ばしながら命を玩具の様に扱える隊であり、多くは貴族の子弟が指揮官を務める。何時でも気晴らしに人が殺せる特殊な隊であった。

 殺到する騎兵が弓箭兵の命で作られた人の壁を紙でも裂くように突破し、督戦隊二千人を鏖殺おうさつする。



 敵主力がこの四千人の騎兵であると、精確に知っていなかった事が彼等にとっての不幸であった。

 督戦隊三部隊が集まれば六千人、弓箭兵を合わせれば四千人、肉壁隊も合流していれば一万九千人、後方の本陣側で防備に当たっている精鋭を呼べば四万人規模で迎え撃てたのである。

 兵力差十倍ともなれば楽々防げる程度の騎馬隊であったのだ。



 それが今、見せしめに殺されるのだと宣言され片っ端から捕らえられては、死体が野積みされていく。

 野晒しの死体は魔物や魔獣を呼び集めてしまう。

 召喚陣など知らなくても呼び出す事が可能だ。なにしろ御馳走は既に用意されているのでやって来る方に不服などあろうはずもない。


「な、何故このような惨たらしい真似をするっ。」


 貴族然とした男が後ろ手に拘束されたまま顔を上げて、ニヤニヤ笑う男に怒りに任せて尋ねる。

 後頭部で結ってある毛髪の束を掴まれて強引に頭を下げさせられると耳元で絞りだすような声が囁かれた。


「先代のハン様にした仕打ちを忘れたとは言わせねぇぞ糞餓鬼。」


 物凄くいい笑顔の男に軍靴の爪先で貴族の顔面が蹴り上げられる。

 不意打ちで喰らったその一撃は貴族の前歯の全てを蹴り砕き、血飛沫と歯飛沫となって飛び散る。


「まだ殺すわけにはいかない。お前はタケルがご指名の身分が高そうな生贄だ。」


 ガタガタと震えて失禁し始めた貴族の餓鬼に、兵士に命じて水を掛けさせる。

 生き残りの督戦隊の中でも華美な衣装を纏った者を天幕で包んで縄を掛けて馬で引いて運んで行く。

 選ばれなかったものは身ぐるみを剥いで殺して積み上げる。

 戦利品は一纏めにして後続からやって来る専門家に任せ、次の督戦隊へと突き進む。

 次の殲滅予定では、蹂躙するだけで今回のような捕虜を取る必要は全く無い。


「次は楽ができるが時間がねぇな。」


 愛馬に軽く鞭を見せて加速を促す。

 ノットの馬巧者ぶりは騎乗したまま寝る辺りに真価が垣間見える。

 彼は御館様の一族に代々突き従う譜代の将だ、古くは騎馬民族の血を引き、世界を大いに駆けたのだと言う。

 古流の馬とされる愛馬に進軍を任せて一眠りする。



 目覚めれば其処は、一面の血の海であった。





 ダン・シヴァの右腕と呼ばれて久しい。

 御館様のかたわらで槍を振るい采配を任され、今や直属の軍を任されるに至った今、イスレムは正に脂の乗った将の一人であろう。

 情に厚いが戦いとあらば容赦が無い。正しい意味で犀利さいりの将である。



 タケルと言う青年が背負う奇妙な何かには薄々気付いていたが、彼にとって近しい人物が部族単位で二百人、それも年若い者達だけが奴隷として捕らえられ、娘達は略売りに出されたと予想されている。

 以前、見目麗しく育ちの良い百人近い女性奴隷を売った金で、タキトゥス公国が魔法師団を編成したのでは?と告げられた事も確かに衝撃ではあった。

 それが同族百人が売られた。と言う真実を孕んでいるとなると絶句する以外他にない。

 そしてそのような大きすぎる責務を望んで背負い込もうとするのは間違っていると言わざるを得ない。



 気配りの出来る青年で、周囲の環境を良く読める。だが、我の強さが其処には無い。

 当初馬にすら満足に乗れなかった唯の奴隷上がりの新兵が、開戦一か月で現した頭角は立派なものであった。

 潰れて仕舞うには惜しい、放っておくのは勿体ない。

 自然にそう思えた。自身の節を多少なりとも曲げてしまうが若者が躓きそうな大岩を除けてやるのも先人の務めであろうか…、そう思い友や同郷の者を見捨てるような輩にはなるなと激励を施した。

 さて、その効果たるや苛烈を極める。



 確かに犠牲は覚悟の上だ、幾つかの手段も提案されたが、結局はタケルの考えに皆賛同した。

 命で命を獲得する重罪とは本人の談ではあるが、罪の在処を分かっているならそれは罪足りえない。

 その罪を背負えるのは一兵士では無い。


「大器か馬鹿かは時間が答えを出すだろう。」


 目前に迫った督戦隊を蹂躙する為に剣を抜き、突撃の号令を発する。

誤字修正

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