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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百二十一話 地下十階

 氷の兵士たちが倒れ伏す広場を抜けて、最初にフユショウグンと対峙した部屋を訪れる。

 壁に咲く血痕が新しいが、既に凍り付いている上に氷晶のような血液(?)であるところから人間のものとは思えない。床に飛び散っている血は何というか……汚い。



 タロウはアレで分別のある大人の牡牛だ、人間を襲い、殺すようなヘマをやらかすような阿呆ではない。

 腕比べと力比べが好きなだけの気の良い奴なのだ。

 野生動物として、その習性はどうなのだろうか?甚だ疑問ではあるのだが、人類とは格段に隔絶した力の生物なので絶滅の気配は無い。

 無いのだが巷で噂される妖怪象殺しに狙われないように注意して欲しいものである。



 時折蘇生した氷の騎士と兵士を倒しながらタロウの痕跡を追う。ユリが魔核の回収をしているが魔法的なことは門外漢なので、深く突っ込みを入れない事にした、そんな事よりも、もっと気になる事があったからだ。


「間違いない、この迷宮、以前よりも天上の高さが高くなって、道幅が広くなっている。」


 以前ならば頻繁に聞こえた氷を削るような音が少ない。いや激減したと言って良い。

 落ちている武器を手当たり次第にマジックバッグに放り込みながら真面目に冒険者らしいことをしている自分に、少しだけ高揚感があることに気付く。

 剣と魔法のファンタジー、その中でも迷宮はやはり憧れの一つではなかろうか。

 新品同様だった壁が古めかしくリメイクされている小細工が忌々しくもあり、セオリーを判っているなとも思う。

 小部屋に魔法陣がありコストを支払う事で使い魔を召喚できると書かれている。


「コボルトとゴーストと…。」


 魔核をゴロゴロと魔法陣に放り込んで臭い生き物と腐った生き物(?)を喚べるだけ召喚して整列させている。

 先程壁に咲いていた血の花を用いて魔法陣を描き、カードと杖でなにやら大魔法を行使して薄く輝く固定魔法陣を創り出した。

 召喚された魔者達はゾロゾロと魔法陣に入って行き、転送されていく。


「ここから先、私達だけで行くのは危険、何もかも不明だから。」


「なるほど、ユリはもう犯人の特定が済んでいると見ていいのか、それでも直接出向くリスクが大きいと判断するんだな。」


「受肉した大精霊か、それに準ずる化け物と受肉した大悪魔の二体。そんなの相手できるのはタツヤだけよ。」


 ユリが断言する。つまり俺が戦えるようになるにはタツヤの槍のような何かが必要なのかも知れない。


「ユリ、私も相手できると思うよ?。」


「今はまだ無理、貴女はまだ貴女を取り戻していないから…トモエはトモエだけどね、ごっそりと奪われたままなのよ、貴女の魂。」


 全てお見通しかと思いながら、私は拾ったハルペーを振るう。

 ユリもタツヤもまるで別次元の鋭さと言えばいいのか、良く分からない。


「変なのが湧いたら任せて、ユリが戦うよりは手傷を負わせられる筈よ。」


 氷の兵士の残党を砕いて部屋を出る。タロウの痕跡を追い続けると上の階に向かって開いている穴があった。

 元は落とし穴なのだろう。壁には彫刻で何者かのメッセージが書かれており、この迷宮を昔支配していた魔法使いへ宛てた嫌味たっぷりの文言であった。


「子供の喧嘩ね。」


「盗んだお守りは返して貰った、そのままそこで朽ちるが良い、と書かれているコレが一番最後ね。」


「二人とも、これが英語で書かれている事に気付いて欲しいのだが。」


 タクマの突っ込みで二人が固まる。

 つまりこの迷宮は元居た世界の産物と言う事だった。その上でタクマが横の壁の隙間を叩く。


「やっぱり壊されてるな。」


「これは転移陣ね。」


「ゲームではここから地上に出られたんだよ。」


 つまるところゲームの中のダンジョンそのままの構造でタクマはこの階層のマップを暗記していたと言う事になる。


「フックと鎖か縄梯子になるものを探りつつ、タロウの居場所まで移動だ。とりあえずはそれでいこう。」




 タツヤが意識を喪っている間、それはそれは豪華絢爛な夢のファンタジーが上演されていた。

 大精霊を纏い、現代の仇花のような可愛さだけを型に嵌めて製造したような杖を振り、掌サイズの小冊子からカードを取り出して魔法を行使する。


「マウスが…マウスが。」


 (うな)され乍らも光に包まれて回復してゆくタツヤを見守り、真剣な眼差しで治療してゆく。

 弱ったタツヤを狙う何かが大魔法の外に居るのが見える、少なくとも十六個の目だ。

 一撃目、命中。上げた叫び声は人間のものでは無かった。

 二撃目、これも命中。ガリガリと空間を砕き逃げようと試みている。

 三撃目、命中したのに抗し切られた、ダメージが入っていない。


「迂闊過ぎだわ、師匠に叱られてしまう。」


 溜めを入れて一枚のカードを引き抜く。剣のカードを召喚し杖の力で解き放つ。


「我が敵を滅ぼせ剣持ちて戦う英雄(ソードデュエリスト)。」


 一合、二合、剣戟と敵のぶつかり合う音が響き、状況を理解する、敵は少なくとも八体。

 カードからの召喚数を増やし三倍の数で対応する。

 その間にデカいのを支度しなくてはならないが、今は治療中である。



 剣持ちて戦う英雄(ソードデュエリスト)二十四人は世界の埒外や人々の理想や妄想や黒歴史から呼び出されるランダム選択カードである。

 当然強さもまちまちであり、使う武器も剣の形状(・・・・)をしていればそれだけで召喚対象に該当する、或る意味に於いて公開(SNSで黒歴史)処刑(ノート公開)そのものな魔法であった。


「なんだこの剣は!自分に刺さってしまうじゃないか!。」


「使えば自分が死ぬって、なんだよコレ。」


 呼び出された二十四人の剣士の内半数が偉い事になっていたが、彼等は戦いを放棄しない、というか出来ない。英雄、勇者、反英雄、闇に落ちた正義の心を持つ者など、全て一応は敵を討つために産み出された者達である。

 ようするに埋もれた英雄たちに本懐を遂げさせるファンタジー大魔法なのである。

 このままでは陽の目を見ずに、廃品回収や裏庭で燃やされて、静かに忘れ去られるだけの者達が奮い立つ。


「喩えこの身がこの場で散り失せようとも!。」


「俺達の燃え滾る熱い正義の魂は!!!。」


「白熱して貴様を屠る!!。」


「行くぞ同志たち。」


「応!咲かせてやるぜ!!命の大花火!。」


 彼等二十四人の伝説級の奥義が炸裂し、ボロ雑巾のようになり乍らも、生き延びた敵は逃げおおせた。

 黒歴史に埋もれた者たちは満足そうにその姿を消していく。


 ドリンダ暦六年元旦。

 激動の新年は()うして幕を開けた。

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