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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百二十話 リターンオブ・・・

「今更論議するまでも無いだろうけどさ、ここクリアしないと駄目って事でいいのかな?。」


 トモエがドアの閂に手を置いて此方を振り向く。黙って頷いて返す、そうとしか考えられない。

 転送の条件は睡眠だ。

 勇者が眠りに就いたら自動的に此処に引き戻されるセーフティのようなものなのだろう、迷惑だ、迷惑過ぎる。


「関わり合いになる気なんて全く無かったんだが…。」


 閂を外し、扉を開けて通路を見れば、氷の兵士が槍を揃えて二人づつ並んで列を作っていた。多分だが百人程度で道を塞いでいる格好だ。


 世界樹の槍でもって氷の兵士を突く、薙ぐ、払う。何の効果も無い、通過する!当たらない、全く手応えが無い。

 槍を擦り抜けて敵の武器だけが此方に当たる。

 切れ味の鈍い鈍器に申し訳程度の刃が付いた剣で斬られて刺される。

 槍を支えに氷の兵士を蹴り飛ばし、後ろに飛び退いて安全地帯に転がる。


「武器が擦り抜ける。ゴフッ。」


 受けた傷は八か所、一か所は致命傷だ、血管を傷付けた様で血が止まらない。

 即座に治癒魔法を施すトモエに感謝しつつ懐から布に包んでいた縫合針と持針器を取り出し血管の切れた傷口を開創器で広げて血管を縫合し始める。


「いってぇ、ドジったわ。」


 血管を五針縫った所で血が止まり治癒魔法でしっかりと繋げて貰う。

 治癒魔法は血の流出には追い付かないので流石に縫合しないと失血死してしまう。便利なようで不便な世界だった。

 浄化魔法で血を分解しながら必至に治癒魔法を続けてくれるトモエの頭を撫でる。


「済まない。」


 泣きながら治癒魔法を続けてくれる彼女に詫びながら、槍が透過した理由を探る。

 一つ、幻想武器は通じない。

 これは在り得る、幻想生物と幻想武器は何処にも反発する要素が無いと言う点で納得できる。

 一つ、選ばれた勇者以外戦えない。

 その可能性はあるようで無さそうだ、あちらの攻撃が此方に通る理由が武器だけであるなら生身での攻撃、蹴りは入ったのだ。


「現地調達で戦えって事か…。」


 タクマの武器を転送できなかった説明はこれで付く。


「トモエ、試しにその薙刀で氷の兵士を攻撃して見てくれないか?。」


「治癒終わったらね。」


 拝み倒して一撃入れて貰う、想定が間違っていなきゃ彼女の武器も敵を擦り抜ける筈だと前置きして。


「ええっ?。」


「やっぱりか。」


 トモエの武器も幻想武器だと確定した、何処からどう見てもただの薙刀なんだけど曰く付きなんだろうな、まぁ、それは兎も角、武器は現地調達しなくてはならない。これだけは理解した。

 扉に閂を掛けてマジックバッグから寝袋を取り出し寝る姿勢に入って幾つかの薬を飲み始める。


「ユリが起きたら事情の説明と普通の木の棒を二本持ってきてくれ、多分ここには普通の武器は持って来れない。そして俺とトモエの武器はファンタジー要素のある武器だから此処では使えない。敵がファンタジーだから属性が一緒なんだろう。」


 纏めた考えを伝えて意識を放り捨てて眠る。

 膝枕されているが失血して生命力を大きく喪った身体はもう起きては居られなかった。





 目覚めたユリのマナの圧力で起こされたエセルちゃんは二人揃って地下迷宮へと飛び込んできた。

 タロウを引き連れて。

 扉をぶち破らんばかりに前足を地面にガリガリと擦るその姿は、始めて出会った時の雄々しき姿とタブる。

 なるほど、タクマを一度死なせかけた連中へのお礼参りをしたかったのは、お前も一緒だったか。

 ふら付く身体で閂を外して門を開けると、グレイトフルバッファローの猛突進が氷の兵士に炸裂する。

 下がって力を溜めては前へ力を溜めては前へを繰り返す。助走を付けては突撃を繰り返す。

 迷宮に鳴り響く爆音と轟音でタクマが目覚めた。


「また迷宮に呼び出されたのか。」


「縁切りしたいならクリアしろって事みたいだ。」


 壁に寄りかかり青褪めた顔で答える。

 ハッキリ言って絶不調、意地を張っても絶不調だ。

 タクマに抱えられてベッドに運ばれ、そのまま布団を掛けられる。


「さて、タロウを追わないとな。」


 壁に立て掛けられている青竜偃月刀を手にしたタクマはハルバートも携えて部屋をでる。


「エセルちゃん、回復魔法をタツヤに掛けてあげて、時間は掛かるだろうけど、今の貴女になら出来る筈よ。」


「ユリ、私も行くよ、魔法使いには前衛が必要でしょ。」


 手を挙げて三人に応えると俺はまた意識を手放す。

 魔法らしい魔法で癒される時に限って意識ないよなと、思いながら。





 手応えの無い氷の兵士にイラつきながらタロウは駆ける。こんなにも脆い連中に主を傷付けられたなど納得出来よう筈も無かった。


「ブフゥ…。」


 一息吐きながら周囲を確認し扉に体当たりを数度繰り返して開く。

 犇めき合う騎兵と一合衝突し馬が砕け散る。バキリと踏み潰して騎兵が砕ける。

 しばらくすればまた騎兵として再生されるが、そのたびに何度も粉砕する。

 繰り返していれば何れは運良く魔核を踏み壊し、最初の激突で直撃する事になる、そこは運任せであり、タロウはそんな事は、全くお構いなしで迷宮を揺らしながら激突し、突撃を繰り返す。


「わらわの迷宮に何…ヴクォッ。」


 突撃と壁の挟み撃ちでメリッサが潰れた。


「退散しましょうお嬢…ガバッ。」


 メリッサ共々蝙蝠の執事も空を舞い、地面に落ちる前に転送された。

 つまらぬモノを轢いてもタロウには関係ない。わらわらと現れた次なる氷の兵士へと空気を振るわす嘶きと共に本気の突進からのマナの篭った突撃が見舞われる。

 現在地を中心にして半円形の範囲に空間を歪めての連続突撃である。

 後ろに下がって助走距離をとって…と言う一連の動作を省略する空間魔法だが、グレイトフルバッファローの群れの中で極一部だけが使える絶技の一つである。

 討伐難易度不明クラスに数えられるウルトラなグレイトフルバッファロー。


「お前はウルトラタロウだな。」


 そう名付けてくれた主人の願い通り、タロウはグレイトフルな頂きに至らんとする一頭の牡牛であった。

 蹄鉄を鳴らして軟弱な氷の馬共を粉砕して文字通り蹴散らす。

 後からやって来る主の為に露払いを勤めるのは自分以外に在り得ないのだから。





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