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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百九話 勇者召喚

差し替えました。

 タロウの寝床を整えて柵の鍵を掛けて牛舎の外に出た筈のタクマの前にはぼんやりと光る壁と床と天井があった。背後には扉がある。

 気を取り直して背後の扉を開けると、粗末なベッドが一つ、薄い毛布が一枚。武器になりそうなものは一本の木の棒だけであった。

 床には複雑怪奇な魔法陣があり、徐々に光が喪われようとしていた。

 確実に言えることは召喚された事くらいで現在地不明、目的不明であるという事だけである。


「誘拐以外の何物でも無いな、これは。」


 木の棒を手に扉を開けると氷漬けの兵士が居た。どんな魔法で冷凍されたのか知らないが酷い事をする奴が居たものだと手を合わせようとして異常に気付く。

 剣を抜いて襲って来たのだ。


 間合いを取る。近くに居ては斬られてしまう、まして此方の得物は只の木の棒、あっさりと得物諸共斬られてしまうのは自明の理と言うヤツである。

 此方に無造作に踏み込んできて剣を振る兵士の手を木の棒の突きで割り砕く。胸板を突き、腹を突き力づくで後退させる。落ちた剣を拾い上げると良く冷えた剣であった。

 人の剣である事は僥倖であると言えよう。魔法生物が持つ魔法剣は拾っても直ぐにマナが解けて消えてしまう。


 今はそのまま握れば手の皮膚を持って行かれかねない程の冷たさなので火魔法を添えて壁に立て掛けておく。

 あからさまに火を嫌がるのは定石通りだなと、想い乍ら鵜呑みにせずに氷の兵士の関節を狙って砕きに掛かる。

 素手と棒では軍配は此方に上がるだろうし、事実氷の兵士は四肢を砕かれてモゾモゾ動くだけの置物と化している。もちろん其れを眺めて嗤うようなナイスな趣味など持ち合わせていないので火魔法で止めを刺しおく。



 多少温まった剣を手に鞘が無い不便さを感じるものの、木の棒よりは折れない確かな手応えを感じる。

 細い道を曲がった先は開けた広間となっており、ほの暗い通路よりは、三ブロック先までは見通せるくらい明るかった。静かに室内をぐるりと見渡すと氷漬けの騎兵が十二騎程此方を見ている。

 モンスターハウスかな?。



 〇ルネコのように、または〇レンのように俺はソッと後ろに下がる。

 一体一体相手して差し上げるしかない。武器は棒切れとロングソード一本、不足はあるが腹を括らざるを得ない。

 狭い通路に大きな騎兵がザリザリと天井に、壁に身体を磨りおろしながらやって来る。

 改めて無機物相手の戦闘を行うのだなと再認識して騎兵を観察する。高見の有利を先ずは対等にせねばならない。

 将を射んと欲すれば、先ず馬を射よ、だがここは、馬の前足を叩き割り、騎兵が落ちて来た処を斬り伏せる。あっと言う間に鈍らロングソードが曲がった。使えねぇ、次のロングソードは、まだましでツーハンデッドソードと呼ばれる両手剣だった。これも暖めないと今は使えない。


 続々とおいでなさる、次のお客様の武器はハンマー。割と長めの柄で武器と言うよりも死体確認の際に頭蓋をカチ割る道具だ。俺はニヤリとする。

 氷の馬をカチ割るのに有利な武器がやってきた。握りなおした棒に力が籠る、相手の武器の刃が無い事が有難い。

 何が有難いのか問われる前に答えておく、斬られる心配がないなら絶対死なないのと同じだ。

 馬すら無視してハンマーを持つ騎士に踊りかかりハンマーを強奪する。

 武器として使うものと道具として使うものの決定的な差は、その殺傷力よりも、より簡易に手傷を負わせる事が出来るかである。

 一寸触れただけで怪我をするようなものを奪うのは危険極まりない。長柄のハンマーであれば、棒で押さえて柄を握って奪い取れば勝敗は決する。

 奪ったハンマーで馬の前足をカチ割り、騎士の体内を走り回る魔核を、暖めているロングソードで叩き割る。鈍らロングソードよりは流石に切れ味も良く使い勝手は良かった、それに何より暖めた事が予想外に良い結果を齎していた。

 バターナイフを暖めて使っているタツヤを思い出しながら、理に適って居るものはあらゆるところで通じるものだと再確認する。



 通路の奥からハルバートを手に進んでくる騎兵を目視する。

 有難い、アレならば槍に対抗できる。今のままでは棒かハンマーで対処しなくてはならない。ハッキリ言って詰みだ。

 ハルバートの突きを数度躱す。棒で、ハンマーでそれぞれ感触を確かめながら受けていく。

 氷の騎士と氷の馬は均一な強さを持っている。有体に言えば個性がない。これはこれで恐ろしいのだが、今はその没個性が有難い。攻撃に小細工が無いなら型通りの新人冒険者と大差がない。

 無限の体力と躊躇と恐怖心の無い新人冒険者など居ないが。

 死を度外視して淡々と襲い掛かって来る存在と言うものは空しいものだ、何かを見て正確にコピーして、同じように行動するだけの張りぼての兵士なぞ、ものの数では無い。

 突き出されるハルバートにハンマーの柄とハンマー自体を絡めて動きを拘束して騎士の内部を蠢く魔核を剣で貫く。

 行ってしまえばテレフォンパンチを掴んでカウンターで顎を撃ち抜くに等しい。ハルバートを構え足元にツーハンデッドソードを突き立て壁に棒とハンマーを立て掛ける。



 赤黒い馬に跨り槍を構えた騎兵が此方に向かって前進してくる。

 否、全身を削りながら突進してくる。コピーした対象が猛将の類であろうか、突き出された穂先の文様を見取って思わず笑みが零れる。

 ハンマーを傍に引き寄せ棒を両手で構えて槍の横腹を打ち据えて軌道を逸らす。膂力に変化なし、馬も頭が削れて(あたか)もデュラハンを相手取っているかのようだ。

 朱色の槍が薙ぎ払いに来るのを棒で凌ぎハンマーで馬を割る、ゴルフスイングだ。

 騎馬が地面から軽く浮き、馬腹の半分が床に割れて落ちる。ツーハンデッドソードを担いでハンマーを手に騎馬の懐深くに飛び込む。武器を引き俺を抉ろうと騎士が構えるが密着姿勢からのハンマーを躱す事など出来ず馬が崩れ落ちる。

 ハンマーで槍を打ち据えそのまま投げ捨てツーハンデッドソードを袈裟斬りに騎士へと振り下ろす。

 槍の石突きが回転しながら此方の顔面を襲う。額で受けて騎士の中の魔核だけを見逃さず断ち割る。

 或る意味クロスカウンターだ、もう半回転できるスペースがあれば、槍の穂先は俺の顔面に突き刺さっていた事だろう。

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