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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百八話 冬将軍到来

「なんなのぢゃアレは!。」


 雪原に法螺貝の音が鳴り響くと、千の騎兵が雪煙をあげて氷の宮殿(アイスパレス)の庭園を囲う氷壁前に陣取る氷の兵士に肉迫する。

 兵も氷、馬もまた氷、負けた方は砕けた氷像となって斃れ伏す。

 氷の妖精達は必死になって兵士を量産して襲い来る騎兵に対抗するが戦況はかなり劣勢であった。

 街道を馬で一気に駆け抜けられてのちは庭園前の門を潜るのみの地形が仇となった、

 もっと早く気が付けば街道を沼地に戻して堀で凌げたものをとメリッサは歯噛みする。

 同属性同士の戦いはその密度が勝敗を分ける、氷塊を投げつけたところでただの物理でありものの役には立たない。黒衣、黒馬の侍大将が陣頭指揮を執り氷の宮殿の衛士達を突き崩していく。


 氷の武装同士の激突ではどう考えても埒が明かない、門が破られるまえに氷の庭園(アイスガーデン)の迷宮化を終えねば落城の憂き目にあいそうであった。いや、間違いなく投入できるコマが自分しかないので陥落必至である。


「お困りですかなお嬢様。」


「お困りぢゃ!お主、アレを始末して参れ。」


 氷の侍大将を見遣り幾らか思案すると頭を振りながらお嬢様に悲しい報告を上げる。


「レベルを上げて物理で殴るような脳筋を相手にできる訳が御座いませぬ。アナライズしたところレベルも四百を越えております。」


「では庭園の迷宮化を手伝ってくりゃれ、最後はタケルに借りをつくりそうぢゃがやれるだけの事はやっておかんと腹の虫が収まらぬ。」


 無言でマナの収奪を図りメリッサに供給開始する。蝙蝠の悪魔が得意な力はサポートであるようだ。



 冬将軍到来で世間も街も凍えるような寒気が吹き荒れ、温かい食べ物がより喜ばれる季節となった。



 氷の宮殿も吹き付ける冷気と雪でどんどん成長しており城門の耐久力も城壁の耐久力もそれに併せて自動的に高まっていた。

 門扉に取りついた氷の歩兵達が氷の丸太でドォーンドォーンと破城槌宜しく破壊を試みているようだ。


「いかん!あれでは長くは保たぬぞ。」


 氷の精霊の増援を送り門扉の後ろに壁を築かせる。ひ弱な精霊に出来る事は門扉に補強用の氷雪魔法を撃たせ続けることくらいだが無いよりは遥かにマシであった。



 今日、客に振舞うお吸い物はボア汁…豚汁だ。一人一杯待合時間にも飲めて入店後もサービスで一杯飲める。

 味噌の味にどの様な反応があるのか未知数ではあったが臨時ウェイトレスのエセルちゃんには好評であるようだった。



 氷の兵士の生産が止まり全員が迷宮へ撤収する。ついに庭園の門は破られ敵将兵は迷宮へと突入した。


「掛かったのぅ!!コントラ・デクストラ・アベニューなのぢゃ!喰らえ、最下層からの冒険開始(テレポーター)!!!。」


 侍大将たちは全員迷宮最下層へとテレポートさせられた。

 メリッサは魔力枯渇で顔面から床に倒れ、蝙蝠の執事はメリッサに限界までマナを吸い取られてぶっ倒れた。



 寒さが厳しいと日が暮れてからの労働は不可能となる。冶金を行う仕事場くらいが営業を続けられる程度で、大方の労働者は昼で仕事は終わりだ。

 全員で後片付けと清掃を終えて戸締りと魔法でのロックをかけて牛車でラボまで移動する。

 脱穀や精米、製造や解体、卵磨きから鶏と牛の世話、厩舎の掃除に植物園の手入れなど、冬であってもやる事は沢山あった。

 ラボに到着して即座にガスの元栓を開けてストーブに火をつける、少し独特な異臭がするが浄化の魔道具も同時に動かして臭いを取る。

 女性陣は炬燵での小物づくりや香辛料の磨り潰し作業、卵磨き、脱穀前穀物に混じった石やゴミ取りなど動かずにできる作業を担当する。タクマは厩舎の清掃、タツヤは鶏舎の清掃である。



 迷宮最下層から地上までの迷宮の構造は酷く単純だった。早く意識を取り戻さなければ壁も作れないし罠も設置できない。

 簡易的な防壁や馬防柵を設置して凌いでいる妖精達と精霊たちは一匹、また一匹とマナに還って行く。

 一層、また一層と迷宮は攻略され、互いに犠牲を払い乍ら陣地だけは確実に削られていく。

 妖精と精霊たちの願いが少しづつ砂時計の砂のように溜まって行く、一粒一粒が命の残滓であった。

 侍大将が咆哮し歩兵と騎兵が整列し隊伍を整えて槍先を揃えて馬防柵を踏み壊し着実に前進しプレッシャーを絶えず掛け続けていた。

 槍に刺されて絶命する妖精、物理で蹴散らされる精霊、その命の雫が静かに積み重なって行く。


「随分と寝ておったようぢゃの、起きよ執事、増殖者(ディーヴァ)の力を貸すが良い。」


 迷宮内に壁が屹立し行く手を阻む鍵付きのドアや落とし穴が設置される。

 遅きに失した感はあるもののそもそもが時間稼ぎである。古来籠城とは援軍があってこそ意味があるのであって、失陥を遅らせるだけが狙いの籠城はそもそもまるで意味がない。

 得体の知れない氷の兵隊共を飼って置く事が出来ればこの城にも漸く本当の軍事力が手に入るのではないかとメリッサは思ったのだ。

 ならば屈服させてやると。

 散らし過ぎた精霊と妖精のリボーンを迷宮内の施設で励起させてマナを流し込む。

 あとは必至に氷の兵士を量産して只管殺し合うだけだ。



 厩舎の清掃とブラシ掛け、寝藁の交換、ハナコの毛布の取り換えと厩舎の暖房の温度調整と湿度管理と餌やりを終えて、タロウを洗いはじめる。

 蹄鉄を外して足裏の汚れを綺麗に取り、桶の水に熱湯を注いでぬるま湯にしてタロウを磨く。

 タツヤは鶏の糞と藁をネコ車に乗せてバイオ槽に捨てた後、厩舎の糞と藁を積み込んでタクマに一声かけて、またバイオ槽へと糞と藁を捨てに行く。

 鶏舎横の井戸で水汲みポンプを漕ぎ、仕上げに井戸廻りの掃除をする。

 深々と雪が降り、キンと冷えた風が全身を切りつける。

 ラボへ向かう足が早足になる。今夜の献立を考えながら荷車を引き、雪に足跡を付け乍ら歩いていく。

 雪の下の畑に藁を敷いて凍結を防いでいる根野菜と葉野菜に用があるのだ。きっと寒さで甘く美味しくなっている事だろう。





 そして、それがタクマを見たその日、最後の目撃情報であった。

今野菜→根野菜 訂正

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