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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百五話 或る親子

 その日、晴れて婚約者となったローラの居場所はどこなのか?と問えば、答えはタケルが眠る予定の部屋のクローゼットの中であった。

 発見者はディルムッドで、食事を終えてタケルを伴い、迷う事無くタケルの部屋へ入り、一切の逡巡なくクローゼットを開いて即発見、と言う神掛かった予測で居場所を割り出した。そして予想通り無邪気な寝顔で夢の世界へと旅立っているローラを発見した訳だ。



 タケルが上半身をディルムッドが両足とドレスのスカートを纏めてローラが眠る予定の母エルの部屋へと、出来る限り迅速な運搬を行うという、なんともアレな一仕事が発生する。

 目撃されれば不名誉極まりない、放って置いても婚前で婚約直後に婚約者の部屋で寝るというのも色々と問題がある。

 彼等は慣れたものだが事情を一切知らない者には得難い噂のタネだ、そんなもの芽生えられても困るのは何処の世界でも同じで、そう言う噂をこそ貴族達は尊び、後日の騒乱やなにやらで使うために取って置く。



 諜報部隊の隊員達の暗躍も砦に居る間にディルムッドに概ね把握され、窓から出入りする者たちに、「痕跡を遺すな!。」と説教をブチかまし剰え掃除を強要する姿が深夜に目撃されている。

 ディルムッドの警戒網を突破するのは忍法無しでは不可能だと報告されるに至るが、この世界で僕から見たディルムッドという存在は兄貴分であるからそのように配慮せよとは申し伝えてある。

 その内なんとなくではあるが忍者隊でも編成して頭領でも勤めて貰おうかと漠然と思う…いや一番の汚れ役に恩人を就かせるとか正気じゃないなと思い直す。



 これからまだまだ殺さなくてはならない、飽きても殺さなくてはならない。

 シルナ王国の処罰法、処刑法を網羅しても足りないかもしれない、飽きが来ないように殺し方を考案し続けた、彼の国の女王やそれ以降の子孫たち、貴族達が、快楽としての殺人と処刑法を追求し始めた理由は、もしかすると同じような出発点だったのではなかろうか?。



 氷精メリッサから聞き出す前に人間の遺した文献を読み漁る。彼女から聞き出せる情報には限りがある。

 聞き出してから殺し合いに発展する事までしっかり考慮に入れなくてはならない。

 闇の女神は最近近くに居ないがアレも警戒を怠ってはならない、幾ら魔法でガードしても他人の寝室に無断で入れる最強の存在など、そう簡単に受け入れられる訳も無いだろう?。



 相打ち覚悟の科学の力で存在を消せるのかは実験しなくてはならない。もしかすると一番の近道だと思わなくも無いからだ。

 全くゴールディ・ナイルの著書は難解な分、核心だけはキッチリと書いてある。

 僕たちは、このセカイから元の世界には還れない。科学でも魔法でも不可能だとハッキリと書かれている。

 だからあんな巨大なモノを拵えて実験しても境界に穴すら開けられなかった等と日本語で記されていても驚かない。英語も添えられていたが、そちらには諦めてエンジョイしろとアドバイスも添えられていた。

 ゴールディ・ナイル自体は此方の世界の人間だ、そしてセカイに攫われてきた多くの新世界人達と交流を持ち、神の居場所を探し続けていたフシがある。





 ディルムッドに思案から現実世界に引き戻された僕は、未来の義父と義兄と共に男同士酒瓶を傾けて語りあう、腹を割った酒席へと赴く事となる。先程までの畏まった服装では無く普通の軍服だ。

 ディルムッドも軍属扱いなので軍服だが生地が通常のものでは無い。安物過ぎて給仕に向かないと言う理由だが、なるほど刷新の余地があるなと軍務尚書宛ての書簡に一行添えておくことにした。通る通らないは兎も角、みすぼらしいアクセサリーを貴族が好むかどうかを問うだけで一考くらいはされるであろう。

 我々軍隊とは、突き詰めて言うと、そういうモノなのだ。



 ラウンジでは出来の悪い弦楽器と音響の悪いスペースと、上等な歌が聴こえる。環境が印象を悪くするのかどうか知らないが彼等に罪は無い。楽器の程度の低さと音響設備については文化を磨けるほど平和が続いていない証左なのだから。

 執事長として長く務めたジュノー氏とこうして差し向かいで一杯呑る事になろうとは思っても居なかったが、まぁ悪い気持ちはしない。幾らかローラについて語り合い、頭を抱え合い、そして諦め合った。

 親子としての会話からやはり戦場に立つ者としてどの程度生きて居られそうかと言う話へと移り変わる。

 総じて軍人は短命だ、戦後であるなら長生きもするが、日夜前線に駆り出されるような兵士は明日とて見えぬ死地の畔に仮初の生を受けた泡沫の様な儚い生き物だ長く生きられると思っている方がどうかしてる。

 生きた証を遺す事は短命な兵士の義務であるし、死んでしまう己の命の倍以上は遺して死んで行かなくては次代の兵士が不足してしまう。

 夫婦分で二人、女児が生まれれば男を一人追加で儲けねばならない。作り手であり殺し手であるのが軍人の偽らざる真相だ、少なくとも僕は十万人程度の命の負債を抱えているが一々そんなものを支払って等いられない。数年程度の平和より五十年単位の平和があれば人口は億に届く。概算で数千万人殺すとしてもちゃんとお釣りは来るはずだ。



 話は至近の戦争相手デモルグル国とシルナ王国についての話となる。シルナ王国は国境線を封鎖し交易も一部を除いて禁止されていると言う。

 密輸と密貿易で別の場所では好景気を迎えているようだが、同時に幾つかの港で疫病が発生しているとも聞く。勿論対処はさせているがシルナ王国の者達は助けてはいけないと言う暗黙の了解が存在しており殺処分による防疫は恙なく執り行われているようだった。

 概ね指示通りだったが改宗策は受け入れられなかったようだ、殺処分が真っ先に選択される辺りに怨念の深さが嫌でも感じ取れる。後からどの様な状況であるか報告させるしかあるまい。


「それで、勝てるのかね?我が娘の花婿よ。」


「既に勝っているのでもう事後処理だけなのですよ未来の義父上。」


「父さん、タケルの言っている事は事実だ。衛生兵だらけの軍隊になりそうで戦えるのか心配になるほどだ。」


「心配してくれて有難いな義兄さん、もっともっと衛生兵が居ないと南進が出来ない計算なんだが、増援で送られて来る貴族軍達が南部平定を横取りするために殺処分をやらかしそうで今はそちらの計算の方が面倒でね。」


「貴族様は相変わらずか、タケル、貴族が従わないからと言う理由で軽々しく軍法に照らして処罰したりするんじゃないぞ…お前とディルはなんとなくだがそういう事を見逃す余裕がないように見える。」


「俺は見逃す気は無いが、タケルは…まぁいいか。」


 軍事の話は人気が増えて来始めた事もあって打ち切りとなった。

 ディルムッドは判っているようだけど、僕ならばそういう面白い貴族は簡単には殺さない。

 僕達は酔い潰れない程度に、呑めるだけ呑んで雑談を楽しんだ。

 また、何時の日にか、こう謂う良き日が来る事を願いながら。


一人称ミス

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