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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百二話 倖せに為れぞと思ふ雪景色

 今夜私は確信した。”馬鹿に刃物を持たせるな”と言う言葉の意味と重さと手遅れ具合(・・・・・)を、そう、手遅れなのだ。マジカルとマジシャンな二人が馬鹿なのだよ、うん、チート持ちが揃いも揃って色々と大事な価値観とか倫理観とか何処かに置いて来てるのよ。特にタツヤの方は一度泣かされたレベルで人として大事なものを忘れてる。

 ユリはもうこの世界に大分(だいぶん)馴染んちゃって、帰る気とかは無さそうだ。

 帰る帰らないはある意味、私もどうでも良いとは思ってる皆とは違う事情だけどね。



 タクマは武力チート、ユリは魔力チート、タツヤはクリエイトチート。ここまでハッキリとチートが解かると爽快だわね。私?私はチートとか言うモノとは違う別枠ね。使い道は無いから安心して。

 想いが力になるって言うのなら、私の願いや想いはチートとして形にはならない筈だから。


「んーふーふーふー、恋する乙女の顔してるわぁ、トモエちゃん。」


 酔っぱらってても鋭いわね…油断も隙も無い。

 だぁぁ、魔法の行使は、やめろぉぉ。


「あれぇ?凄く遠いよ?トモエちゃんの好きな人凄く遠いよ?。」


 ユリの頭を抱えて気道を確保してから、酒瓶を口に押し込んで中身を流し込む。

 覗き見せんとや、あのお方に無礼千万でありまする。


「ささ、ずずいと聞こし召されや、ユリさんや。」


 気道はキチンと確保してあるので溺れる事は無いのでご安心を。全くもって刃物を振り回す、歯止めが効かない酒の席、と言うのは百害あって一利なしですわ。



 男共に帰り支度を指示して私たちは店の奥で平服に着替える。

 ユリ?ユリなら寝てる間に解毒してシラフに戻しておいたわよ。

 すっかり記憶の飛んだユリと二人でエセルちゃんの着替えを手伝って私達も速やかに着替える…と言っても軽く半刻(30分)は掛かるわよ、男じゃないんだからね。





 俺達は男なので女子の着替え等とは違い、あっと言う間に平服にチェンジできる。牛車の荷台で十分だ。

 タロウの軽い肩慣らしにブレイブロックは付き合っている。首に腕を回してがっぷり相撲を取っていらっしゃる。時折ああ言うじゃれ合いがあるのがグレイトフルバッファローの社会だ。群れの長としての勤めを果たせる人間などそうはおるまい。



「本当に凄いわね、そのポシェット。ドレス一式全部入っちゃったわ。」


「凄いもの貰っちゃいました。」


 純軍事的に、それは補給の概念が変わる、下手な兵器よりも危険なものよ…とは、やはり言い憎い。

 身一つで走り回れる輜重隊とか狂気の沙汰だわ、なんてもの創るのかしら。


「いいなーユリも欲しいなー。」


 説明不要かな…この子、飲んでた間の事、食べ物と飲み物の事以外、全部忘れてるのよ…。はぁ…。


「これ、ユリさんが綺麗にしてくれたんですよ?。」


「えー、そーなの?。」


 暫し腕を組んで考えている。多少は思い出して欲しいものだそうすれば少しは苦労が…。


「美味しいごはんと、あまーいお酒しか覚えてないや。」


 ちくせう、やっぱりダメかぁ。

 ガックリ肩を落とす私にクーちゃんが励ましのエールを送ってくれる。見えないと言ったら見えるように改造されたので今は、この子が見えてしまう。そのせいで合成精霊とか、合成獣魔とかの生命の冒涜を目撃せざるを得なくなった訳だ、自然に生まれる冪、御祖(みおや)より賜る貴重な生命を勝手に創るなと言いたいのですよ(わたくし)は。



 準備万端整った牛車に揺られて帰路に就く。タクマは酔ったままタロウと相撲を取って疲れたらしく、手綱を持ったまま、うつらうつらとしているが隣のユリが手綱も握らずニコニコとタロウに指示を出している。


「はーい、そのまま~、ハナコちゃんの所に帰ろうねー。」


 そういやエセルちゃんは手狭な我が家に一泊だった。


「任せろ、寝具一組はこの寝袋で解決だ。」


 タツヤが自信満々で言い放っていたのは、確かお昼頃のお話だ。

 本当に大丈夫かと聞き直したら、飛んでもない返事が来て私は凍り付いた。


「母が浮気をしていて家に男を連れ込んでいてな、どうにも家に帰れずに、山奥の雪が降る公園で、寝袋一つで寝起きしてたから大丈夫だ、まして今回は家の中、当然激しい隙間風も無いし暖かい。凍死することは無いから安心だな。」


 屈託のない笑顔で、微塵の暗さも無い顔でそう答えやがったのだ。

 今振り返るとより深く解かる、コイツの心が壊れた原因は母親だ。

 牛車に揺られての帰り道、満足そうな顔で椅子に座るタツヤを見ていると目線に気付かれたようだ。


「酔ったかい?。」


 酒にではなく牛車に酔ったのかと聞かれた。


「大丈夫、お酒の方が酔うくらいだよ。」


「そうか…俺も楽しかったし皆も楽しんでくれた見たいで良かった。ノープランだったからな。エセルちゃんが飛び入りしてくれて予定より盛り上がったし良いクリスマスだった。」


「そうね。」


「ああ、生まれて初めてのクリスマスが楽しくて良かった。」


 さらっと爆弾投げてきた、その張本人であるタツヤ本人には、きっとその意思は欠片も無い筈だ。

 楽しそうに大精霊のクーちゃんと座ったまま踊っていて、本当に心の底から楽しそうだった。

 魔法でクリスマスのサンタ帽子デザインの白い綿飾りの付いた三角帽を大精霊にプレゼントしていた。



 じゃあ、コイツの父親は何をしていたのだろう?。複雑な家庭の事情は判ったが、何故に其処まで居ない者として扱われていたのだろうか?。

 よそう、今日はクリスマスだよ、こんな暗い話に拘泥してたら本当に詰まらない。



 エセルちゃんが気付く。空から白い雪がふわりふわりと舞い降りる。ユリも気付いたようで一枚カードを取り出して何かを呼び出していた。


「うわぁ!。」


 私は声もでなかった。牛車がイルミネーションのように明滅して空を駆ける。


「あははっ!メリー・クリスマス!。」


「メリー・クリスマス!。」


 タツヤとユリが魔法でクラッカーを鳴らす。タクマが落ちそうになり慌ててタツヤがキャッチしている。


「来年も幸せであります様に!。」


 私は特にタツヤに向かってそう言ってやった。コイツはこの世界に来て努力している。しなくてもよさそうな事まで背負い込んで努力している。

 楽しそうに、役立てる事を噛みしめながら楽しんで努力している。不器用な人間が一握りの幸せを掴もうと思えば器用な人間の何倍もの時間と努力が必要だ、私が昔も今も好きなヤツもそういう男だった。

 そういう人間を支えたくなる性分なのだろう。




 エセルちゃんが静かに祈っていた。


「もう皆と離れずに居られます様に!。」


 真摯な願いが空に届きます様に。





「「無事に降りられます様に。」」


 牡牛とタクマの心からの願いは暫くは叶えられそうも無かった。


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