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放り出されたセカイの果てで  作者: 暇なる人
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第百話 クリスマスプレゼント

 店舗裏の停留所にタロウを停めて、厩舎を借りさせて頂く、持ち込みの干し草と井戸からの水を与えて休んで貰う支度をする。

 店の使用人がタロウの威容に驚き、腰を抜かした事以外は、取り立てて問題は無く、俺達五人は店内へと足を踏み入れる。

 流石はクリスマス、テーブルの中央には銀製の燭台に火が燈った蝋燭と、赤い綺麗な花が可愛く活けられていた。


「これはまた、いい店だな。」


 着席するなり、タクマが周囲を笑顔で見渡し、店を褒めたので、ウェイターが黙礼する。


「可愛い~。」


 そう言いながら花を愛でるユリと大精霊のクー。エセルちゃんもニコニコとしている。


 燃料は高級品であるので、蝋燭など、そうそうお目に掛かれないが、トモエは懐かしそうに揺れる炎を眺めている。

 全員に食前酒が注がれ、先ずは乾杯となる。

 エセルちゃんは既に魔法学校の生徒である、国王陛下直属の組織であり、成績優秀な生徒は晩餐会にも招待される兼ね合いで、飲酒も、喫煙も解禁な身分とされている。

 それは何故かと問われれば、この世界、解毒魔法でアルコールとニコチン、タールに至るまで分解出来ると言う事もあり、このような特例が存在しているのである。

 そもそも最初の一杯のアルコールは、貴族社会、ひいては社交界に於いて、絶対に避けられない代物なのだ。

 そして解毒魔法は、どの家に仕えている魔法師にも必須の魔法であり、入学したての魔法学校生徒は、まずこれから習得すると云うくらい一般的な魔法、と云う訳である。


「みんなとの再会とクリスマスを祝して、乾杯。」


 エセルちゃんの音頭で全員グラスを掲げる。勿論透明なガラスのグラスは無い。透明度が乏しくても高級品である。流石に、このようないい店でも昼間の営業時間は木のコップであるため、お祝いやお祭りの時期や、予約客などの特別な客だけに出すものなのだろう。


 大方の予想通りにエセルちゃんが酩酊してフラフラし始めた。

 此方の世界では、エセルちゃんも成年に分類されるのだが、俺達の世界から見れば余裕でアウトなので解毒する。

 見たところ初のアルコールはかなり辛かったようで目元に涙が溜まっている。それをハンカチで拭うトモエに大人の雰囲気を素っ飛ばして母親の雰囲気を垣間見る。

 以後はジュースをと頼むとウェイターに耳打ちすると、静かに一礼し、速やかにジュースを入れて戻って来る。流石に心得たものであった。



 華やいだ席に座っている、どう見ても今日の主役はエセルちゃんだ、クリスマスの食事を企画したのは良いがどうやって盛り上げるか悩んでいた身にはとても有難い。

 さて赤いドレスに白いショール、黒いアンダーウェアが透けて見えるこのドレスを選んだのはトモエである。祝いに紅白を持ってくるとは恐れ入る。

 ユリの方は紫というかこれは…藤色という感じのドレスでフリルが多め、肩口が広く開かれている鎖骨を見せるドレスだ、そこに乳白色の薄い素材のレースの肩掛けが映える。

 そして二人の色合いよりも、色彩的に前に出て来る、向日葵色のドレスと同色のフレアスカート、そして腰に大き目のリボンのエセルちゃんがトモエとユリの間に座り、その肩には白いドレスを着たクーちゃんがお澄まし顔でチョコンと座っている。

 色調をキッチリ散らしてコーディネートしてくるあたり、隙がまるで無い。


 食事が一段落して、何処か落ち着かなかった心も平静を取り戻した頃。タクマから小さなリボン付きの箱と一目でナイフと解かる無粋なブツがエセルちゃん手渡される。最後にアレを出されたら流石にトラウマものじゃなかろうか?、そんなこんなで始まった皆からのエセルちゃんへのプレゼント攻勢が開始されたである。



 有難う!と笑顔で受け取ると真っ先に抜刀して刃を確認するエセルちゃん。ああ、この世界では其処が重要だよね、と、納得し掛けるが…いいのか?それで?。

 二、三度振って重さを確かめ、鞘に収めてから、ドレスのまま装備しようとする。即刻トモエが制止してウェイターに預ける。物騒過ぎんよ、石岡ぁ、トモエの機転が無かったらマジで通報モノだ。


「あとで説教するよ。」


 あ、こりゃマジ説教コースか、今じゃなくて帰り際に渡せ、そんな鋭器。

 エセルちゃんは空気を読んで小箱の方をあけると、ナイフとフォークとスプーンのセットが入った気の利いた良品が出てきた。

 場に馴染んでる良い物をチョイスしてるのに何故ナイフを渡したこの脳筋、と、今絶対に思われている事だろう、トモエさんマジで怖いッス。

 トモエはもう既にエセルちゃんに渡していた瑠璃色…十二色に輝く無色の魔石とかどうやって手に入れた?。


「魔力籠めてみました、師匠!どうでしょう。」


「凄い色になってるわね、綺麗なもんだわ。」


 感心しているトモエの前を通過してユリちゃんの手にそれは渡る。更に輝きが増しているように感じるのは気のせいだろうか?。


「じゃあ、造ろうか。おいで、木の精のカード(ドリアード)。」


 お店の客が目にした光景は恐らく語り草になるであろう。木の精が顕現してユリから無色の魔石を受け取るとそれは杖になった。ユリの魔力が木の精に流れ込み、無粋な杖が薄紅色の杖になり金色の装飾が石突きとなり、杖の先が時計の意匠を与えられ二枚の小さな翼があしらわれる。

 やっばい、これ絶対男が所有していたら人格を疑われるニチアサの杖だ、エセルちゃんが女の子だから持てる上に若くないと所持が難しい期間限定のマジカルステッキだ。

 嫌な汗が俺とタクマの背に流れる。この中世のような世界に飛び切りブッ飛んだ現代日本の仇花が目の前で開花しようとしている。止めるべきか否かが俺達に問われている。

 神々しく輝く魔法らしい魔法で産み出されるファンシーと魔女っ子の基本中の基本は、ユリの手の中で形を得た。


「お疲れ様ドリアード、また宜しくね。」


 手を振ってドリアードさんがカードに戻りそしてカードは消えて店内は静けさを取り戻す。

 騒めきの中でエセルちゃんに手渡されたそれは彼女を主と認めた様にすうっとその姿を消した。


「あれ?消えちゃった。」


「んふふ~、一人前の魔法使いになれたら呼び出せるから頑張ってねぇ。」


 物凄く楽しそうに弟子の頭を撫でている。

 ああ、俺が死にかけていたのを助けたのはユリさんでしたか(敬語)。


 出しづれぇ…鰻鞄とか出しづれぇ…。



訂正。まだあるかも

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