4
戦闘が始まって5分。
鈴斗と女神は追い込まれていた。
本来なら、魔族が女神に勝てるはずが無いのだが、女神は今この世界で出来ることしかしないようにしている。それは、この世界の神に目をつけられないためであり、神の力を使う訳にはいかなかった。加えて、鈴斗はそもそも戦闘経験が少なく、戦いに身を置いている魔族にその刃を届かせることが出来ていなかった。
そして、魔族の方は鈴斗達の動きに慣れたのか的確に攻撃をしてきて、いつの間にか鈴斗達は防戦一方に追い込まれていた。
「くっ!」
「鈴斗君!」
鈴斗が、相手の攻撃を利用して距離を取り女神の元に合流する。
「ハァ、ハァ...くそ。強いな」
「うん。私の魔法も上手く避けたり防いだりしてるよ...」
二人が話している間、魔族達は動かず待っていた。いや、片方がもう一方の後ろに隠れ何かをしている。
「おい。俺はあの大剣の注意を引くから、杖の方を速効で片付けてくれ」
「わかった!鈴斗君、気をつけてね!」
鈴斗は頷くと、大剣を構えている魔族へ近付き剣を振り下ろす!
が、大剣で止められ、弾き返されてしまう。
その後も攻撃を繰り返すが、全て弾かれてしまう。
鈴斗の剣の腕は、もはやただの兵士レベルでは対応出来ない程のスピードなのだが、相手はそれを重いはずの大剣で全て弾いているのだ。
「ハァ、ハァ...ふぅ」
一旦離れ、息を整えながら、女神を見た。
「な!?」
そこには、相手の攻撃を、膝をつきながらも何とか魔法で防いでいる女神の姿があった。
しかも、相手の魔族は、誰が見ても大技だとわかる魔法を使おうとしていた。
杖の先に雷を溜めているのだ。
その雷の近くの草は、飛んでくる雷の一部で燃えている。土が抉れている所もあるほどだ。
アルミリスも動き出しているが、距離が長すぎ、間に合いそうにない。
そして、魔法が放たれた。
「あ....」
女神はそこで自分の魔力が尽きたことを理解した。そして、この雷はかなり速く、神の力を解放するのも間に合いそうにない。
ふと、鈴斗のいる方向を向いた。
それは一重に、自分に喜びをくれた相手の姿を見ようと思ったからだ。
短い間ではあったが、料理を振る舞い、機械的にただ仕事をこなしていただけの女神に名前をくれると言ったのだ。
「(あ...結局、名前を貰うことは出来なかったなぁ)」
そして、鈴斗の姿を捉えた。
「え....」
なんと、鈴斗は数m先にまで接近していたのだ。
「なんで...」
「まだ、お前に名前をつけてやれてないからな」
鈴斗は女神と向き合うように立った。雷と一直線になるように。
そして、その一言を言った直後、雷が鈴斗を襲った。
「ガアアアアアアアアアァァアアアア!!!」
とても強力な魔法。それも、雷系のものだ。つまりそれは、死に直結することも有り得る。
だが、鈴斗は倒れなかった。
「鈴、斗くん...?」
鈴斗は生きていた。直撃した上半身の服は燃え尽き、背中を見れば酷いことになっているだろう。だが、倒れず。そこに立っていた。
上を見上げ、ゆっくりと、閉じていた瞼を持ち上げ...
「さぁ....楽しもうか」
魔族のいる方向へ振り向いた。重心を低くし、その姿はまるで獣のようだ。眼は爛々と光り、獲物を狙っているかのようだ。いや、実際に狙っているのだ。先の雷で、リミッターが外れたか...
鈴斗は走り出した。今までの鈴斗とは比べ物にならない速さだ。50mはある距離を一瞬で詰め、剣で首を跳ねた。
女神は、唯一使えるようにしている神の力で、鈴斗のステータスを見た。それは、細かな事は見えないが、その人物がどんなスキルとよばれる能力を持っているのかがわかるものだ。
果たして、そこには一つの異常なスキルがあった。
『流血凶化』
それは、強制的に身体のリミッターを外し、戦闘欲を増幅させるものだった。だがこれは、かなりのダメージを負わなければ発動することはない。だが、発動すれば、自分が敵だと認識している相手を殺すまで止まらない。
勿論、強制的に身体のリミッターを外しているので、身体にはかなりの負担がかかっている。時間が長引けば長引くほど戦闘が終わった後の負担が大きい。最悪死ぬこともある。
......だが、その強さは圧倒的だった。
もう一人の大剣使いが必死に防ごうとしているが、その殆んどが意味を成していない。目に止まらぬ速さで振られる剣に対応仕切れず、胴体を袈裟斬りにされ、その魔族の命も尽きた。
「鈴斗、君....?」
女神が呼び掛けると、鈴斗は空を仰ぎ......
「どう、だ...。爺、さん」
そう言いながら、鈴斗は気を失った。