四話~告白の記憶~
紗綾が記憶を取り戻してから一ヶ月が経った頃。
紗綾の親と、優斗が医者に呼び出されていた。
それは、今後についての話だった。
「どうもすみません、こんな忙しい時に御呼び立てしてしまい。…本題に移させて貰います。紗綾さんは徐々に記憶を取り戻せていたので、快調、と言っても良かったのですが……記憶を急に思い出したせいで、心身、特に心を傷つけた、と言う事になってしまいました。我々達も、力の限りを尽くさせて貰いますが…退院の件は、また後程にさせて貰います」
「…あの、紗綾ちゃんは大丈夫なんですか?私達にとってはたった一人の子供です。私達は、あの子の本当の親ではありませんが、其れでも、あの子は私達の子供で、私達はあの子の親なのです。ですから、何か私達に出来る事はありませんか?何でも精一杯します。あの子の為なら…!何か、何かありませんか!?」
「落ち着け、美代子!」
紗綾は記憶を取り戻し、壊れた。
なら、退院どころか外出も出来なくなるだろう。
紗綾の母は言いたい事、胸の内に秘めていた思いをぶちまけ、その場で泣き崩れた。
紗綾の父は、そんな紗綾の母を慰めている。だが、顔の血の気が引いていた事は誰にでも分かった。
医者も、どこか心を痛めた様な、そんな深刻そうな顔をしている。
優斗は何も言わなかった。表情も変えなかった。
紗綾が自分の目の前で壊れた事により、優斗も耐えられない気分だった。
優斗は医者の話が終わったと思い、部屋を出る。誰も気付かないぐらい、静かに。
優斗が向かう先はただ一つ、紗綾の病室だった。
なるべく明るく出来るように努めて、中に入る。
「紗綾!調子はどう?…紗綾?…寝てるのか。…ふぅ」
優斗は思わず、安堵の息を出した。
実際、先程の紗綾の親達を見た後で、明るく紗綾に接する、と言う神業を、優斗は持っていなかったからだ。
優斗は紗綾を起こさないよう、そっと近付く。
紗綾は布団を被っていたので、実際、起きているのか寝ているのかは分からなかった。
ただ此処は、幼馴染みの勘で寝ていると推測する。
優斗はそっと、言葉を紡ぎ出した。
「…紗綾、俺は……っ、俺…」
*
その頃、紗綾の親達は、優斗がいない事にやっと気が付いた頃だった。
「優斗君、何処に行ったのかしら…全然気が付かなかったわ。紗綾ちゃんの所に行ったのかしら?」
「そうじゃ無いのか?何せ、優斗君は紗綾ちゃんとずっと一緒にいた幼馴染みなんだ。…一番ショックを受けているのは、優斗君なのかも知れないな」
「……じゃあ私、とても大人げない事をしちゃったのね……」
「…仕方ないさ」
「……しかし、困ったなぁ」
しんみりした空気を破ったのは、医者だった。
「どうしたんですか、先生?」
「あ、いえ。実は、この前看護師に聞いた話なのですが、紗綾さんの鎮痛剤が切れて紗綾さんが暴れていた時、誰かに怯えている様だったとも言っていましたが…その時に、優斗さんが紗綾さんの名前を呼んだだけで動きがピタリと止まり、優斗さんが、『俺がいるから、落ち着こう…?』と紗綾さんを抱き締めたら落ち着いた、と聞いたので…紗綾さんにとって、優斗さんがそこまで影響される、つまり、其れ程大切な相手ならば、紗綾さんの回復が早くなるのではと思い、一度話してみたかったのですが……」
「…あらまぁ、そんな事が…。其れに、何かに怯える様だったって…」
「…優斗君、何時の間にそんな事を…」
「また、話す事は何時でも出来そうですし…今日はいいかな。御二人とも、長々と時間を取ってしまい、大変失礼致しました。また、御呼びだてするかも知れませんので…今回は有り難うございました。今日の所は、もう帰って頂いても宜しいので…」
「先生、紗綾ちゃんを…お願いします」
*
紗綾の親達が帰って行った頃。紗綾の病室では、
「…紗綾、俺さ、紗綾の事、好きなんだ。ずっと、昔から。また今度、ちゃんと言わせて。…紗綾が元気になった頃に、ちゃんと返事を貰いたいから……」




