一話~失った記憶~
外がうるさい。何かあったのだろうか。
ふとそんなことを思いながら、静かにゆっくりと目を開ける。
「先輩!目が覚めたんですね…!待ってて下さい、すぐにお医者さんが来ますからね…!」
「お医者さん…?」
医者、という事は此処は病院な訳で。
何故自分が病院に来たのか全く意味が解らなかった。だから聞いた。が。
女の子が不思議そうにこちらを見てくる。だがすぐにあぁと言って教えてくれた。
「頭を思い切り打ち付けた衝撃で覚えていないのでしょう。先輩、階段で男の子を避けようとして落ちて、思い切り頭を打ち付けたんです。その後男の子が先生に言って、先生が救急車を呼んでくれたんですよ。そして、先生が親御さんに連絡をして、親御さんが先輩の幼馴染みの速水先輩に連絡をして……。私、他の皆に先輩が起きたことを知らせて来ますね!」
女の子が目に涙を溜めて部屋を出た。
「……階段?先生?親?幼馴染み?速水?…って誰…?私、は……」
「紗綾!大丈……!?ど、どうした!?」
勢いよく扉を開いて入ってきた男の子にしがみついた。
泣いて泣いて泣きまくって、思いの丈をぶちまけた。
「ねぇどうして!?どうしてなの!?私、記憶が無いの!?何で!?階段って!?先生って!?親って誰!?幼馴染み!?速水!?皆、皆解らない!?私は…誰…?貴方は……誰なの……!?」
「紗綾……っ!紗綾……!」
「……!」
いきなり男の子に抱き締められた。
何故か猛烈に恥ずかしくなり、話を振ってみる。
「え…と、私の名前は、紗綾って言うの……?」
すると男の子ははっとして回していた手を離す。
「…!あぁ、お前の名前は加東 紗綾。俺は速水 優斗。お前の幼馴染みだ」
「ありがと…っ!」
「紗綾!どうした!?」
頭に亀裂が入った様な痛みが走った。
優斗は紗綾のことをとても心配している。少しおどおどしていた。
「もしかして…起きたばかりだったから……じゃあ、また明日来る」
「…うん」
優斗が扉を閉めて帰っていく。
一人きりの静まりかえっていた部屋では、
「……明日は…どんな記憶を…取り戻すのかな……?」
紗綾は、学校に行けなかった子が学校に行ける様になったら、こんな気持ちなのかな、と思った。
明日が来るのが楽しみだな、と医者の簡単な検査を受けながら、紗綾は思ったのだった。




