プロローグ~未来が閉ざされた日~
いつもと変わらない毎日。少しだけ退屈な日々。
そんな紗綾の唯一の楽しみは、他の部活から自分で選定して引き抜いてきたメンバーで組んだ、バンドの時間だった。
「よし、じゃ、始めるよ!せーの!」
今日も学校の空き教室から、素敵な曲が聞こえてくる。
教師に頼み込み、そこまで言うなら、と特別に空き教室を使わせて貰っているのだ。
バンドを結成した頃。
その時は、それこそただ音をかき集めた様な音しか出なかった。
だが今では素敵な音楽になっている。
練習終わり。
またいつもの様に何処かへ行く予定を決め、それぞれ下駄箱に行く。紗綾は一人、自分の学年の下駄箱へと向かった。
紗綾は高校三年生。
バンドに同じ学年の者はいない。一、二年生ばかりだ。
一つ溜め息をついて窓の外を見る。
「あ……」
紗綾は今自分の見ているものに手をかざした。
それは、橙色に少し赤色を混ぜた様な色の夕日だった。
この時間に、この窓から見える夕日はとても綺麗だった。紗綾はこの夕日が好きなのだ。
「あ……今何か思いついたかも」
夕日を見ていると何かが浮かんで来た。
紗綾はバンドの中で、ボーカルをしながら作詞も手掛けている。
曲を作る時は、自分の思い付いた歌詞を見せ、それから細かい修正を皆でしてから、キーボードをしながら作曲を手掛けている一年生に渡し、また皆で細かい修正をして曲が完成する。
紗綾はいち早く皆に知らせたかったので、急いで階段を駆け下りる。
すると何かが見えた、様な気がした。誰かが階段を駆け上がって来ている。避けようと体を横に傾けた時。
グラッと目の前が揺れた。その瞬間、目の前が急に真っ暗になった。意識が朦朧とし、段々遠退いていく。
階段を駆け上がって来た者は、すみません、と言い終わらない内に、声にならない悲鳴を挙げた。
バンドメンバーは、紗綾が遅いな、と少し心配していた頃。
階段を駆け上がって来た者が、小さく震えている頃。
紗綾の黒くて長いストレートの髪が乱れ、赤く染まっていく。
紗綾の頭からは、
――真っ赤な血が流れ出ていた――




