第一章)四話の別視点の第五話
遅くなりました、第五話です
:暗殺者(仮):
おかしい。
どう考えてもおかしい。
暗殺対象は上級貴族、イルヴィナス家の子供で、最も簡単な任務だというから、ナンバー7、つまり最弱の俺が使われたというのに・・・。
何なんだッ!?この子供はッ!?
最弱といっても、剣の速度だけはかなりの評価を頂いている。
だというのにッ!!
なんで、本を読みながらそう簡単に避けているんだッ!?
こちらを一切見ずに、華麗な足さばきで避けている。しかも、かなりの余裕をもって。
「なんで当たらねえんだッ!!(小言)」
俺は、その態度に対する怒りと焦りで、ついつい『ブースト』を使ってしまう。『ブースト』は、魔力を各部に付与することで、一時的に力や速度を増す技術だ。しかし、その威力によって、凄い音がする。もし、よけられた場合、あの危険人物が来る可能性が高くなってしまうのだ。そう思い、内心焦ったが、その心配は杞憂に終わった。
バシッ
「んな・・・ッ!?」
その子供が、『ブースト』した俺の剣を真剣白刃取りで止めたからだ。しかも片手で。一応利き腕の左だが、それでもありえない。達人のレベルになってやっとできる程のものなのに、こんな子供が、しかも片手でやるなんて信じられるものではない。だが、現にここでやってみせた。
これはマズイと思い、剣から手を離してから利き足による回し蹴りを放つ。内臓をぐちゃぐちゃにする程の威力の蹴りだ。これで死ぬはず。
バギッ
クリティカルヒットした手応え。実際、脇腹に足が突き刺さっている。
流石にこれなら死ぬだろう。
が、何かが引っかかる。
何故、内臓の潰れる音ではなかったのか?
何故、子供の足元の床板が折れているのか?
そして何故、内臓が潰れたはずなのに、血を吐かないのか?
答えは簡単。
この子供の内臓は無事。
代わりに床板が破壊された。
「な・・・ッ!?」
見てみると、この子供は何事もなかったかのように本を読んでいる。その碧い瞳が一瞬、こっちを向いた。その瞬間、殺らなきゃ殺られる、と思った。
そこからの動きは、自分からしても見事なものだった。
流れるような動きで足を戻し、そのまま踵落としを繰り出す。この一撃だけは、ナンバー1にも劣らないものだった。
「(絶対よけられない!!)」
そう確信した。一瞬、この子供がこちらを見たが、これなら何も出来ないはずだ。
だが、そうはならなかった。
何が起こったのかわからなかった。
ただ、いつの間にか自分の足が跳ね返って、自らの額に蹴りをしていたことだけはわかった。
それを認識した瞬間、俺の意識は途切れた。
―――――――――――――――
:父親:
さて、これからセイトに会うのだが、どうすればいい。
セイトとは、生まれてから一度も会ったことがないのだ。いくら、仕事が忙しいからといって、会わないのはどうかと思うだろう。が、上級貴族として、国の責務がある。しょうがないのだ。
と、思考がそれたな。
う~ん、ここは普通に行くか。
でもな~、相手は子供だし明るい感じの方がいいか?
ただ、セリムはべったりしているせいでセイトに嫌われたって、ミレイちゃんに言われたし。
う~ん。
う~~ん。
う~~~~ん。
う~~~~~~~~ん。
う~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
よし、ここは明るく行ってやるぞ!!
そして、セイトの部屋のドアを開けた。結果・・・
「セイト~、お父さんだぞ~。って、おい、この状況は何なんだ!!」
本を読んでいる金髪碧眼の子供に、その椅子にされている大人。そして、割られた窓や折れた床板。
理解不能だった。




