第一章)第四十四話 初代勇者 ①
ベルゼブブが消えた後、俺達は街に戻ってギルドでベルゼブブについて報告をした。勿論、所々ぼかして伝えた。あと、今回はちゃんとギルドマスターがいた。・・・副ギルドマスターもいたが。
ギルドマスター、アグニ=バーステッドは、元Lランクの規格外的な存在だ。
まず目を引くのが、左目を覆う赤く縁どられた黒い眼帯。そして、70代という歳を感じさせない爛々と輝く赤茶色の右目。髪は年齢通りの白髪だが、服越しにでもわかる隆起した鋼のような筋肉は名剣でも通さなさそうなほどに鍛えられていて、本当に70代なのか疑いたくなる。外見的にはそんな感じだが、纏っている威圧感というか、オーラというか、そんな感じのものは更にすごい。圧倒的経験に裏付けされた自信などによる威圧感は、思わず臨戦態勢をとってしまいそうになってしまうほどだ。ちなみに、Lランク時代の二つ名は、『爆帝』、『鉄壁』と、名前と見た目通りの二つ名だった。名は体をあらわす、的な言葉があったと思うが、まさにその通りだと思うな。
アグニは、その鋭い眼光で俺を見ながら、口を開く。
「・・・話はわかった。しかし、それを証明するものがない」
「こういう時、ギルドっていうのは最悪の事態を想定して動くべきだと思うんだが、その辺はどうなんだ?」
「確かにそれも一理ある。しかし、不確かな情報で緊急依頼を出すわけにもいかないのだよ」
「まあ、それはそうだろうが、そもそも調査の緊急依頼で見てきたというのにその真偽性を問うってどんなんだよって思うが?」
「だが、さっきも言った通り、『暴食の悪魔』の封印が解かれていることがちゃんと証明できるものがないというのが問題なのだよ。さっき提出された冒険者の遺留品だって偽造、もしくは殺して奪ったものかもしれない、という話になるかもしれない。それだけ『暴食の悪魔』の封印が解けているというのは異常なのだよ」
俺は絶句した。つまり、調査依頼の結果、あまりにもありえないことが報告されたために、調査員の報告を完全無視するというものだ。この依頼は報酬金額が全く変わらないために、そんな混乱する情報は流す意味がないはずなのに。・・・いや、混乱させてその間に何かやらかすとでも思われてんのか? 副ギルドマスターを殺気で気絶させたことがあるから警戒されているだろうしな。
「・・・・・・勝手すぎんだろ。それなら調査依頼をする意味が全くねえじゃん」
「しょうがないだろう。それだけ初代勇者による封印というのは伝説的なものだよ」
なるほど、初代勇者の伝説のせいか。
文献によると、初代勇者は『全能』属性を持つ第四位世界、つまり、俺の故精神的な故郷からの転生者だったらしい。銀髪銀眼の少女で、左腕がガラス細工のように透明だったらしい。しかし、ガラス細工のような左腕には、漆黒の網目状の刻印がまるで左腕に、絡みつくように、拘束するように食い込んでいたという記述もあった。まあ、真偽はわからないがな。




