第一章)第四十三話 子供
「いや、別にいい」
俺の言葉に驚いたようにベルゼブブは僅かに目を見開く。動揺しているのか、声を出さないベルゼブブに俺は言葉を重ねる。
「俺は別にお前の下につくつもりはないし、同士とか仲間になるつもりもない。だから条件とかは別に言わなくていい。それに、俺が知りたかったのはどうして俺を味方側に入れたいのか、それだけだ。それが知れたのだから別にもう用はない」
「・・・・・・説明させておきながら身勝手な・・・・・・」
俺の言葉に怒りを滲ませながら、搾り出すように声を出すベルゼブブ。
その物言いに、俺は思わず吹き出しそうになるのをこらえる。
「何がおかしいッ!! わざわざ頼みに出向いてやったというのに!!」
ベルゼブブが更に怒気を強めながら声を荒げるが、俺としては更に笑いの衝動が強まってしまっている。
「いや、な。どこまで自己中なんだよって話なんだよな、それ」
「なに・・・?」
俺は馬鹿にされて今にも飛び掛りそうなベルゼブブにわざわざ説明してやる。
「自分は一緒に町を滅ぼそうだの俺達に上から目線で言っていたくせに、それを断られたからって切れるとか子供か、お前は」
それに、と俺は続ける。
「俺は説明しろといった覚えはない。ただ、理由を教えろと言っただけだ」
「だ、だが理由を言えば・・・」
「それはただお前が曲解しただけだろ? おれはそんなつもりで言ったわけじゃない」
「・・・・・・」
飛び掛ろうとしているのを必至で抑えているベルゼブブ。ちょっと挑発し過ぎてしまったようだ。といっても、少し精神を逆撫でするような口調で言っただけだ。人によっては、というか、殆どの人はこの程度でここまで切れないと思う。
この状況でベルゼブブとやりあっても、多分勝てるだろうが正直めんどくさい。それに、ミニマム王国の事を攻めるつもりとは言っているが、まだ実際に攻められたわけじゃない。一応まだ俺の周りを引っかきまわさない可能性が残っているしな。とりあえず今は敵対しない路線で行きたい。
では何故怒らせるようなことをしたのか。
簡単なことだ。
こいつがどれだけ脅威になるのか探っていたからだ。・・・まあ、それほど脅威じゃないことがわかったがな。沸点低いし、思考回路が子供だし。
ベルゼブブは、辛うじて怒りを抑えられたのか、若干震えた声で俺に声を掛けてくる。
「貴様、俺を馬鹿にした事、許さんぞ」
そう捨て台詞を残してベルゼブブは俺から背を向けて、消えた。
セレーナはそれを見てまた驚いているが、俺は全く別の事を考えていた。
・・・・・・あいつ、切れたら2人称がお前から貴様になるんだ・・・・・・。
次話投稿は6月1日です




