第一章)第四十話 隠密(ハイド)
隣にいるセレーナから動揺した気配が感じられる。まあ、気配もなくいきなりそこに出現したのだから、動揺するのは当たり前だけどな。
「・・・どうして俺が居ることがわかった? 『隠密』はちゃんと発動していたはずだ」
男は開口一番そんなことを言った。
190cmくらいの長身に、焦げ茶色の短髪。鋭い眼光を放つ赤茶色の切れ目は並の冒険者なら目を合わせた瞬間失神するだろうな。一般人なら死ぬ可能性もある。
「答えると思うか?」
「思わないな」
答えるわけがないという俺に、当たり前かと返す男。
こいつがこんなことを聞くのは勿論理由がある。こいつは俺の『気配探知』に全く引っかからなかった。それどころか、魔力も全く感じられない。動揺していたことから考えると、セレーナもそうだろうな。では何故俺がわかったのか? 疑問に思うのは当たり前だ。種明かしすると、死体の不自然さを感じ取った俺は、まだ付近にやった張本人がいる可能性もあると考えなおして、『計算行動・第八技・掌握』を使い、前回来た時との地形の差を調べたのだ。結果、コイツが隠れていることがわかった。『計算行動・第八技・掌握』は、汎用性が高く、このように空間把握としても使える。その分脳に負荷がかかるからあまり使いたくないがな。
「で、なんのようだ? 何か用があるからすぐに俺を襲わなかったんだろ?」
男は俺達に対して、成功するかどうかは別として奇襲をするなりできたはずだ。しかし、それをしなかったということは、何か用があるということだ。
「もちろんだ。だがその前に、我の使いがそっちに行ったはずだが・・・」
「あのGのことか? それかカブトムシのことか? それとも―――」
「『ごきぶり』と『かぶとむし』? が何かはわからんが、【試作魔獣05】と【試作魔獣06】のことを言っているのならそうだ」
「黒光りしている虫型のやつだよ。角があるやつとないやつ」
「ああ、そいつらだ。【05】からの報告によれば【06】を消し飛ばしたなんとか聞いたのだが」
「角がないやつなら襲われたからな。迎撃しただけだ」
・・・あのカブトムシ、見ていたのか? 全然気づかなかった。目の前の男も今は『気配探知』に引っかかっているので『気配探知』に引っかかる引っかからないはオンオフができるようだな。さっき『隠密』とかなんとか言ってたし、そういう魔法か技能があるようだ。そしておそらくこいつの言っていた【試作型魔獣】とやらは全員使える。そう考えればGに直前まで気づかなかったのとカブトムシが俺に気づかれずに入ってきたのには説明がつく。まあ、どうやって入ってきたのかはわからんが。
「で、用というのは? わざわざ正体を気づかせてここにおびき寄せまでしたんだ。重要性が高い話なんだろ? 早く本題に入ったほうがいいんじゃないのか?」
しょっぱなから脱線してしまったが、何か用があって隠れていたと言っていた。しかし、それは俺がここに来なければ成立しない。そもそも俺がここに来ようと思ったのは、俺が目の前にいるこいつの正体を予測し、古代樹の森の混乱に関係性があるかどうかを、予測通りか調べに来たからだ。まあ、本人が出てくるところまでは予測できていなかったが・・・。どうやらコイツは相当頭がいいらしいな。『計算行動』を使っていなかったとはいえ、俺に予測外と思わせたんだから。
男は、その鋭い目で俺を見ながら、今度は『計算行動』を使った俺に対して、予測外なことを言ってくる。
「そうだな・・・。単刀直入に言う。共にミニマム王国を滅ぼさないか?」
次話投稿は来週です
それから、来週、再来週は、忙しいので一話更新となると思います




