第一章)第三十二話 抱きつき
その後、疲れが溜まっていたのか、セレーナは風呂に入った後、直ぐに眠ってしまった。俺のベッドで。といっても、俺のベッド以外にこの部屋にベッドはないし、持ってこさせるのは悪い。自分で持ってくるのは、セレーナを一人にするということで論外。防御系の魔法でセレーナを守っておいて、持ってくるというのもあるが、緊急時に対応ができないし、何よりめんどくさい。ということで、同じベッドで寝ることにした。昨日も一緒に寝てたし、ベッドもかなり大きいので問題ない。ちなみに、風呂はメイドさんに入れてもらったが、一応外で警戒はしておいた。
「・・・明日はどうするか・・・」
隣に膝を抱えて寝ているセレーナから視線を外し、天井の方を見ながら呟く。
やることが多い。とりあえず、セレーナの服(一着だけしか買っていない)、セレーナの実家のエレメント家の状況、ケルベロスに襲われたという奴隷がどのように伝わっているのか。まあ、急ぐのはこのくらいか。
「・・・お父さん・・・お母さん・・・」
天井の方から再度セレーナの方に視線を向けると、何か夢でも見ているのか、両親を呼びながら閉じた目から涙を流していた。
「・・・エクレム・・・」
セレーナの話に出てきていた首を落とされた弟の名前だろうな・・・。
「・・・」
なんとなく気まずいな・・・。
・・・一応疲れも溜まっているし寝るか。まだ夕方だけど。
俺は雷属性の上級魔法『球雷壁』を発動する。この魔法は簡単に言えば雷の結界なようなもので、100億ボルトの高電圧で形成されたドーム状のバリアを作るものだ。それを俺達が寝ているベッドを覆うようにして発動し、寝ている間も魔力が尽きないように魔力量を調整しておく。ちなみに、電圧はめちゃくちゃ高いが、電流は接触した相手によって、ほぼゼロから0.001Aの間で変化するように設定してある。その基準はあえて言わないが、電流が高くなればいくら熟睡していても俺は起きるとだけ言っておこう。
クイ
服を引っ張られる感覚がして、セレーナの方を見るとセレーナの右手が俺の腰辺りの服を引っ張っていた。目を閉じていて、呼吸の仕方からまだ寝ていることがわかる。わかるのだが、
グイ
グイグイ
なんでこんなに強い力で引っ張れるのだろうか?いや、むしろ寝ているからこそなのか?
ググググ
軽く計算してこの力では動かないように重心を移動したのだが、服の方の耐久値が限界に近い。
しょうがなく、俺は引っ張られた、というか俺が抵抗をやめたら左手も使ってきたので抱き寄せられた、という方がいいか。そのまま、ギュー、と抱きしめてくる。
今朝の状態の原因はこれか。
・・・にしても力めっちゃ強いな。まあ、育った状況が状況だから当たり前か。ちなみに俺は『計算行動』を使う関係で、同年代よりはかなり鍛えられている方だ。セレーナはその俺よりも結構力が強い。それだけ厳しい状況だったのだろうと予想できるな。
適当に思考していると、徐々に目蓋が重くなってきた。
野営した後はやっぱり疲れが溜まっているのか、すぐに寝れる。
俺はその眠気に逆らわずに、セレーナに抱かれたまま意識を手放した。
次話投稿は来週の月曜日予定ですが、もしかしたら火曜日になるかもしれないです




