第一章)第二十三話 起きたら
Calculation behavior
計算行動
こちらの言語ではなく、地球の言語として聞こえた。つまり、英語として。
何故、英語を知っている?何故、計算行動を知っている?そして、そもそも何故、俺が『計算行動』を使えることを知っている?それに、それなら先程のセレーナからの質問に意味がなかったということになる。
『計算行動』を使えるということは、他の人間とは一線を越えているということになる。何故なら、『計算行動』の膨大な演算はスパコンを使っても演算が追いつかない程だからだ。まあ、比較的簡単な『第四技・流し』などなら、めっちゃ頑張れば出来る人もいるようだが、『第九技』や、『第十技』などを使うために必要な頭を持った人間なんて、そうはいない。というか、俺自身と師匠しか知らない。まあ、これと対極にある技、『制限解除』を使える奴なら他にも知ってるが。
つまり、俺が何者かという質問に対しては地球の言葉を知っているということから、少なくても精神は異世界人ということがわかるし、実力に対する質問も『計算行動』を使えるということで大体は把握できる。
「お前なんで―――」
『ごめんなさい、もう表に出てられない―――』
「ちょっ、まッ」
質問しようとした途端、セレーナの目の色が元の翠色に戻って俺の方に倒れこんできた。勿論、俺の方に倒れてきたのだから、必然的に彼女を受け止める。一応、見てみると、寝息を立てていた。ただ単に寝ているようだ。俺はため息をついて、とりあえず、彼女をグリフォンの羽毛布団に寝かせ、俺も布団の中に入って寝た。
―――――――――――
起きると、目の前に、というか目と鼻のすぐ先にセレーナがいた。セレーナの両手は俺の背中に回っていて、つまり、抱きついてきている。なんでや?別の布団に寝たはずだぞ。
「―――んんっ」
と、至近距離で見ていた俺の視線を感じたのか、呻き声を上げてその翠色の瞳が開けられた。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
意図せず至近距離で見つめ合ってしまった俺達。セレーナの方は、寝起きで状況が把握できていないのかぼんやりとしていたが、数秒後やっと状況が把握できたのか、
カァ
っという擬音語が付きそうなくらいの勢いで顔が真っ赤になった。
「・・・」
「・・・」
「・・・あの・・・」
「なんだ?」
「・・・なんでこんな格好に?」
「知らん」
「なんで知らないの?」
「知らんもんは知らん」
「答えになってないよ」
と、言われてもな。起きたらこの状況だったから答えようがないんだが。
・・・にしても、なんだかんだいってそのままの体勢なんだよな。寒いのか?
―――――――――――――――
何分間かしてからやっとセレーナは離れてくれた。なんか、名残惜しそうだったけど。もしかして俺に気があるのか?いや、流石にそれはないだろ。出会ってまだ一日も経ってないし。一目惚れという可能性もあるが、流石にそこまで自意識過剰ではない。寒いのか、もしくは依存心のようなものだろう。格好を見る限り、恐らく貴族出身の奴隷だろう。それもこの一週間くらいになった。奴隷にしては肌はとても綺麗だし、ちゃんとケアされている。平民は肌のケアなんてしない、というか出来ないので貴族出身ということがわかる。何故《奴隷の首輪》が外れているのかは不明だが、こんなボロ布を着ているのは奴隷かスラムの奴等ぐらいで、スラムの奴等はケアとか出来るはずないので、奴隷ということになる。多分、裏切りとか受けたとか、財政難とかでしょうがなく親とかに売られたんだと思う。そんな状態になった人は大体は人間不信になるが、逆に依存的になる傾向の人もいる。まあ、全部推測だがな。
「・・・これからどうするの?」
「ああ。とりあえず一旦街の方に戻ろうと思う」
「っ・・・!」
「ん?どうした?」
なんだ?人が多いのは嫌なのか?
「・・・どの街?」
「ミニマム王国の王都だが?」
「・・・」
「ミニマム王国がどうかしたか?」
なんだ?会いたくない知り合いでもいるのか?
「・・・ひ、人が多い・・・」
「多いけど、どうかしたのか?」
「・・・ふ、服が・・・」
「ああ、それか」
服の心配か。まあ、元貴族(推測だが)なら、そのような心配もわかる。それならしょうがないな。服は予備のものは持ってきてないから造ればいいか?丁度、グリフォンの素材が余ってるし、グリフォン素材なら綺麗だからいいだろ。
「ちょっと待ってろ」
そんな訳で、俺はセレーナ用の服を造り始めた。




