第一章)第十八話 赤目の少女
古代樹の根元に着いた俺は、そこで意外な光景を見た。
右翼と左前足をもがれ、傷口から大量の血を流し続ける巨大な鳥、グリフォンと、その眼前に立つ綺麗な金色の髪と少し汚れた白い服を真っ赤に血で濡らし、その血と同じような赤い目を持つ少女。背丈からして、俺と大差ない年齢だろうか。だが、纏っている魔力が異常すぎた。俺と同等かそれ以上といったところか。更に、微笑を浮かべながらグリフォンをいたぶっている様子も相まって、『化物』といった単語が当てはまりそうだ。
と、唐突にその少女がこちらを向いて、目が合ってしまった。
次の瞬間、絶対的な強者に出会った時のような痺れるような強烈な感覚が体中を奔った。そう、あの人。俺に『計算行動』を教え、俺の親友に『制限解除』を教えた、俺が『師』と仰ぐあの人と会った時のような感覚が。俺が『師匠』と模擬戦闘をして勝てたことは一度もない。故に、その『師匠』と同様の気配を持つ彼女に勝てる通りはない。だから、ここに居るのはやばい、相対してはまずいと思うのだが、まるで不可視の糸に絡め取られたように体は固まって動かない。
彼女は、内心冷や汗がダラダラと流れている俺を見て、一瞬、キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに微笑を浮かべ・・・倒れた。と同時に、異常な魔力と威圧が消える。俺は、緊張の糸が切れて倒れ込みそうになるが、なんとかこらえて体勢を立て直した。
荒い呼吸を繰り返しながら俺は、倒れた少女の方を見る。気を失っていて、危険はなさそうだ。とりあえず近づいて顔を見てみると、やっぱり俺と大差ない年齢だった。
こんな子が何故あんな異常な力を持っていたんだ?そして、何故こんなところにいる?
疑問は大量にあったが、その前に何かが動く気配がした。気配がした方を見ると、死に掛けのグリフォンが傷だらけの3本の足で立ち上がろうとしていた。多分、放置しておいても大量出血で死ぬだろうが、この世界には魔法というものが存在する。地球での常識は当てにしてはならない。確実に殺しておいた方がいい。
「『風の刃』」
俺は、魔法でグリフォンの首を落とした。
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依頼対象の古代樹の葉っぱを採って、ついでにグリフォンのそれぞれの部位を剥ぎ取ってきた後、暗くなってしまったので、近くの水辺に少女を移動させて野営の準備をした。この森には水棲系の魔物はいないし、ここの水は飲める。それに、彼女の服とか髪とかがかなり血生臭いので、目が覚めたら洗って欲しいのだ。俺は前世で血の匂いに慣れているけど、こんな格好で街に連れて行くと色々と問題がありそうだし、そもそも女の子が血まみれというのは色々と問題がある。
そんな訳で、グリフォンの羽毛(勿論血は落としてある)で簡単な布団を2つ造って寝かして、そこで目が覚めるのを待っているのだが、全く目が覚める感じがしない。ちなみに、グリフォンの羽毛は結構硬いのだが、水で洗って火属性魔法で乾かしたら何故か柔らかくなった。
大体1時間ぐらい経って、そろそろ寝ようかと思った頃、布団の中の少女が身じろぎし、少女の瞼が開いた。その目を見て、俺は僅かに目を見張った。
翠色だったのだ。
最初に会った時の目の色は血のように赤かった。なのに、今の色は翠色。どういうことなんだ?見間違えか?いや、あの時の目の色は確かに赤かった。ならどうして?
そんな思考をしていると、少女が僅かに首を傾げて口を開いた。
「女の子?」
いや、俺は女の子じゃないからね!?




