第一章)第十六話 セレーナ ①
やっとヒロイン登場です
:セレーナ:
私はある国の下級貴族の長女として生まれた。
下級貴族といっても、家は裕福でもなく貧乏でもなかった。どちらかといわれれば、貴族の中では貧乏な方だったと思う。
家族構成は、父に母、私と1つ下の弟の計4人家族。代々相当な魔力の持ち主が生まれる家系で、ひいおじいさんの時代に魔法関係だけで平民から貴族になったってお父さんに教えられていた。元々平民だったせいで、他の貴族からも私たちの家に対してしつこい嫌がらせがあったけど、それも前もってお父さんたちに聞いていた。悪口や殴る蹴るなどの暴力、石を投げてくるのは、まだいい方、本当に痛くて辛かったのは魔法。大体は初級だったけど、たまに大人の人が使ってきた中級や上級の魔法を受けて本当に死にそうになったこともあった。まだ7歳の私は、そんな強力な魔法に対してできることがなかったから、死にそうになったことは2回や3回どころじゃなかった。それでも、絶対に仕返しをするなとお父さんに言われてたから、やり返せなかった。あまりの辛さと悔しさに現実逃避や自殺しようとすることを何度したか。次第に私の心は壊されていった。
そんな生活を送っていたためか、私の体にはおびただしい量の傷跡があった。最後に確認した時には50を超えていたと思う。
私は、せめて1つ下の弟には辛い思いをさせたくないという思いから、いつも弟を守っていた。私にとって弟は、心の支えだったし、弟にとっても私が無くてはならない存在だった。
でも、
弟が死んだ。
上級貴族、ウィングロード家の次男(確か私よりも2つ歳上だったっかな)の放った風属性の魔法で頭と胴体が切断されたのだ。
その時、私は壊れた。
私は激怒した。
弟の首を落とした奴と、弟を守れなかった自分に。
私は怒りに任せて言葉にならない叫びを上げながらそいつに魔法を放とうとした。
でも、それはできなかった。
お父さんが止めたから。そして、身分が上のものに歯向かった罪として、私の身分は奴隷に落とされた。後から聞いた話だと、お父さんが保身のためにやったらしい。
私は《奴隷の首輪》と呼ばれるものをつけられ、馬車に乗せられて運ばれた。《奴隷の首輪》を付けられたものは、絶対に奴隷商人や主人に歯向かう事ができず、自殺することもできない。だから、抵抗なんてできなかったし、自ら命を絶つこともできなかった。
私は更に壊れた。
そして、
馬車に乗っている私や他の奴隷たちが最初に聞いたのは、奴隷商人たちの悲鳴だった。何かが起こったんだろうと思ったけど、動く気にならなかった。奴隷商人に散々酷い事をされた後だったから。他の奴隷の人たちも同じだったようで、誰も動かなかった。
しばらくすると、悲鳴が途切れた。それと同時に私たちを囲っていた木の壁のうち、私の正面の壁が何かに破壊された。
3つの頭を持つ巨大な赤黒い犬。
Sランクの魔獣、『ケルベロス』
私は恐怖で凍りついた。いや、私たち、と言うべきか。誰一人動ける人はいなかったのだから。
のろのろと、私は視線をケルベロスの足元に向けた。おびただしい量の血が血溜りを作っている。
「(ああ、人の体って、あんなに沢山の血が詰まっているんだ)」
近づいてくるケルベロスを見ながら、私は諦めたようにそんなことを考えていた。
「(私もあんなふうに死ぬのかな)」
ケルベロスの前足が持ち上げられた。
「(これで私は死ぬのか)」
そして、前足が振るわれた瞬間、私の意識は途切れた。
次話もセレーナの話です




