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アキドル!  作者: パンケーキ
1章
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1章⑤

 「うーん。やっぱり先週と比べて価格が落ちたっぽいな……」


 俺は店頭に飾られたPOPを何気なく見上げながら、ぽつりと呟いた。

 一条さんと別れたあと、俺はその足でジャンク通りに来ていた。

 ジャンク通りはたくさんの人が行き交い、いつもと変わらぬ賑わいを見せている。

 ふむふむ。『ばおー』ではSDHCカードが値下がりで……、『ドスラン』ではSSDが概ね値下げ傾向と……。 

 パソコンショップを何件か見て回った後、俺はパーツショップ『フェス』に向かった。


「おい、『フェス』閉店してるじゃん!」

「うわ、マジだよ。まさか『フェス』が閉店するなんてな」

「どうする、他の店で買う?」

「じゃあ『ドスラン』で買うか。あそこなら、取り扱ってと思うから」

「だな。『ドスラン』に行こうぜ」


 反対方向から男二人が愚痴をこぼしながら通り過ぎて行く。

 それからすぐにパーツショップ『フェス』へ辿り着いた。


―― パーツショップ『フェス』閉店に関する告示書 ――


 シャッターは閉じており、一枚の張り紙が貼り付けてあった。

 姉ちゃんの言った通りだ。

 パーツショップ『フェス』閉店は紛うことなき事実だった。

 

 そういえば、初めてパソコンを自作したときはこの店でパーツを調達したよな……。

 あと、HDDもこの店で購入したっけ……。

 パーツショップ『フェス』を前にして、何だか物悲しい気持ちになった。


 って、感傷に浸っている場合じゃないか。

 俺はポケットから携帯を取り出し、デジカメを起動した。

 少し距離を置いてから一枚、建物全体が収まるように一枚、シャッター前を一枚と写真を撮った。

 よし、写真はこのぐらいでいいだろう。

 あ、ついでに張り紙も撮っておけば……。


「ねえねえ、カノンちゃん。一枚だけでいいんだよ!」


 ケータイを持ったまま声がする方へ振り向く。

 『フェス』から少し離れた十字路の前に、カメラを持った男二人とメイド服を着た女の子が何やら言い争っている。


「一枚だけでいいからさ、写真撮らせてくれないかな?」

「ですから、写真の撮影は無理なんです。お願いですからやめてください」


 男二人はカメラを片手にしつこく言い寄っているらしい。

 フレームの太い黒メガネをかけた男は、夏だというのに黒のTシャツに身を包み、迷彩柄のバックを背負っている。

 もう一人の男は「LOVEアキバ」とロゴが印刷された白シャツを着ており、汗を拭うためか首にはハンドタオルを巻きつけてあった。

 二人の姿はまさにアキバ系男子そのものであった。

 変わって女の子の方は、丈の短いメイド服に白のタイツというオーソドックスな組み合わせだ。

 しかし、絹のような滑らかさのある長い黒髪と理知的な切れ長の瞳は、思わず息を呑んでしまうほどである。


「一枚!たった一枚でいいんだよ!だからさ、写真撮らせてよね、ね?」


 黒シャツの男はまるで仏像を拝むように手を合わせ、女の子に懇願した。


「わたし、急いでるんです!お願いですからやめてください」

「カノンちゃんは可愛いからさ、写真がほしい!ってファンが大勢いるんだよ」

「そうそう!」

「だからさ、そういうファンのためにも、一枚でいいから写真を撮らせてよー」

「ですから、私は写真を撮られるのが嫌なんです。だからやめてください!」

「そんな固いこと言わないでよー」


 彼女は、伸ばしてきた『LOVEアキバ』男の手をバシッと弾いた。 


「おおー、こわ。でも、怒ったカノンちゃんもいいね」

「やだなぁ、まさか『@M@ID』のカノンちゃんがマジギレなんかしないよね?ね?」


 にたにたと周囲に嫌悪感をまき散らすような笑みを浮かべている。

 遠目で見ていた俺は堪えきれなくなって、ゆっくりと近づいていった。

 何がファンのためだ。こいつらは一体何様のつもりなんだよ。

 大方、写真だって金集め目的か、『アレ』に使うって相場に違いない。

 (アレについては言及しないでおく) 

 ああいうの輩がいるから世間に対するアキバのイメージが悪くなるんだ。


「ん?きみ、何?」


 黒シャツの男が振り返るよりもすばやく、俺はケータイのカメラで写真を撮った。


「お、おい!いま何をした!」

「な、なんだよ!なに、僕たちの写真なんか撮ってるんだよ!」


 黒シャツの男は酷く取り乱し、『LOVEアキバ』男は物凄い剣幕で俺に食って掛かってきた。


「お、おまえ、なに僕たちに断りもなく撮ってんだよ!しょ、肖像権の侵害だぞ!」


 「そうだそうだ」と、『LOVEアキバ』男が唾を飛ばす勢いで喚き散らした。

 けっ、何が肖像権の侵害だよ。胸糞悪い。

 嫌がっている彼女に対して写真を撮らせろと無理強いしておきながら、よくそんな台詞が吐けるな。


「おい、だ、黙ってないで答えろよ!」

「まさか、け、けけ警察に、つ、つつ、通報とかしているんじゃないだろうな?」

「つ、通報!ぼ、僕たちを通報するっていうのか!み、未成年の分際で生意気だ!」


 それは通報してくださいということなのだろうか?

 むしろ、この場に居合わせたのが俺でよかったと、感謝してほしいくらいだ。

 もしも、姉ちゃんが目撃していたら、その日のうちに『アキログ』に顔写真付きで公開されていただろう。

 あるいは店長が目撃していたら、今ごろ神田川に放り込まれていたかもしれないな。


「ジャンク通りでカメラを持った男が二名、女の子に写真を撮らせろと強要中」

「う、うぐ!」

「きょ、強要なんて人聞きの悪いことを言うな!」

「これトゥイッターで呟いたらどんな反応するかなー」


 語気を強くした一言に、男たちの顔が青ざめていった。


「お、お前、まさか、僕たちを脅しているのか?」

「そんな人聞きの悪い。アキバで見つけた珍風景をネットに公開するだけですよ」

「も、もも、もしそんなことしてみろ。ぜ、全力でお前を、つ、潰してやるからな!」


 全力で潰すとか強がっている割に、唇ががたがたと震えているように見える。

 額には汗がびっしりと浮き上がってるし、どう見てもテンパっているとしか思えない。


「あ、そう……じゃあ、早速アップを……」

「わ、わかったわかった!消せばいいんだろう!」


 二人は慌ててカメラにあるデータを消し始めた。


「ほほ、ほら、消したぞ!ここ、これでいいんだろ!」


 ちゃんとデータを消したのか確認する。

 ……よし、残っていない。

 どうやら、言われた通りきちんと消したようだ。


「も、もう行こうぜ。いいよ、カノンなんかさ!」

「そ、そうだね。僕たちファンのことを考えないカノンなんて、こ、こっちから捨ててやる!」


 あまりにも情けない捨て台詞を残し、二人は中央通りへと逃げ去っていった。

 心の中で軽く息をつく。また一つ、アキバの平和を守ることが出来た。

 妙な達成感に浮かれつつ、俺はケータイをポケットにいれながら彼女の方へ向き直った。


「大丈夫だった……あれ?」


 俺は自分の目を疑った。

 忽然と、影一つ髪の毛一つ残さずに。

 彼女の姿がきれいさっぱりと消えていたのだ。

 あれ?こういう場合って、普通なら「ありがとうございました。本当に助かりました♪」って感謝された後に、お互いに自己紹介しあったりするんじゃないのか?

 お礼の言葉すらないまま、彼女は何処かへ行くとか……。

 いや、別に感謝されたくて助けたわけじゃないけどさ、お礼の一言ぐらい言ってほしかったかなって思うんだけど……。

 思わず感傷的なため息が漏れる。

 ……ん?何だあれ?

 彼女の立っていたところに、黒い手帳と小さなカードケースみたいなものが落ちていた。

 俺は手帳とカードケースを拾い上げ、カードケースを開けてみる

 カードケースの中には、同じようなカードが何十枚の入っていた。

 どうやら、カードケースではなく単なる名刺入れのようだ。


「えっと、メイドカフェ『@M@ID』の……『カノン』?」


 なるほど、あの子の名前は『カノン』って名前か。

 今度は黒い手帳を手に取り、適当に開いた。


 何々?

 6月30日、ダンスの練習、ジョギング30分、英語指されるので要予習。

 7月1日、発声練習、ジョギング30分、バイト有って、随分とマメに書き込んでいるな。

 手帳には一日のスケジュールがびっしりと書き込まれていた。

 しかし、これだけでは誰なのか特定できない。

 他のページをめくってみる。

 7月2日、ダンスの練習、ジョギング30分、バイト有、13時から学園祭実行委員会:秋星さん。 

 って、何で明の名前が書いてあるんだ?

 まさかこの手帳って、明の手帳……じゃないよな。

 あいつはまだ学校にいると思うし、あの子が明の手帳を持っているのはおかしいよな?

 勝手に納得して、再び手帳を読み進めていったところで、俺は思わず手を止めた。


「これって……学生証、だよな?」


 手帳には一枚のカードが挟まっていた。

 カードを抜き取ってみる。

 これって、ウチの高校の学生証だよな……ってことはこの学生証はあの子の……って?!


 それは紛れもなく一葉高校の学生証だ。

 しかし、問題なのは手帳に学生証が挟まっていたことではなく、もっと別のことだった。

 手帳に挟まっていた学生証。そこには書かれていたものは、見覚えのある名前と顔写真があった。



  ♪ ♪ ♪



「いらっしゃいませー♪」


 『純風』に入った途端、番田が営業スマイルで迎えてくれた。


「って、なんだ相模か」


 番田はやれやれとため息をつき、カウンター席に座ってゲームをやりはじめた。

 おい、何だその態度は!客に対する誠意がなってねえぞ。(客じゃないけど)

 俺の顔を見た途端、面倒くさそうな顔に切り替わるんじゃねえよ!

 しかも、仕事中にゲームなんかするなよ!

 俺は心の中で非難の声を上げた。

 当然、俺のことなど気にも留めずに、番田はゲームを再開した。

 ため息一つ吐いた後、店内を一望した。

 テーブル席にサラリーマンが一人のみ。喫茶『純風』は今日も閑古鳥が鳴いていた。


「晶、おそーい」


 同じくカウンター席に座っていた明が、鋭いまなざしを向けてきた。

 どうやら、明の方が俺よりも早く『純風』に着いたようだ。


「どこで油売ってたのよ」


 俺はアイスコーヒーを注文してから、明の隣に座った。


「……。」


 ん?なんだコイツ。

 何の真似か知らないが、明は俺の顔をいぶかしげに見つめてきた。


「……酷い顔ね」


 うるせー、余計なお世話だ。


「まるで狐と狸に身ぐるみを剥がされたような顔をしてるわよ。何かあったの?」

「色々あったんだ。色々とな」


 そうとしか言えない俺は無理やり笑みを浮かべた。

 明は、俺の言葉の意味が理解できずに眉をしかめた。


「そういえば、あんたたち今日はシフトは入ってなかったよね?なんで店に来てるのさ」


 番田はゲームをしながら訊いてきた。


「明の奴が、店長に話したいことがあるんだと」

「店長に?」

「うん。『純風』を続けてもらうためのいいアイディアを思いついたの」

「ふーん。ま、あたしには関係ないからいいんだけど」


 何故か意気込んでいる明とは裏腹に、番田は素っ気なく応えた。


「で、店長は今どこにいるの?」

「店長なら、さっきまでここにいたんだけど、小夜、知ってる?」


 結城は店内を見回した後、レジの前に立っている小夜に話を振った。


「商工会の会合……日曜市のイベントの件……今日は戻らないって」


 小夜は表情を変えずにゆっくりと言った。


「だってさ。残念だったね、明」

「あーあ、実行委員会なんて無ければ、もっと早く来れたんだけどなー」


 明は愚痴をこぼしながら頬杖をついた。


「今日、戻ってこなっていうのなら、話は明日にしておくんだな」

「晶、あんたは私より早く学校を出たんだから、店長を足止めしておきなさいよ」


 明は口を尖らせながら俺を責め立てる。

 あのな、俺だって一条さんと会ったり、困ってた女の子を助けたりと色々あったんだぞ。

 どっちみち、店長は商工会の会合があったんだ。足止めなんて出来るはずがない。

 ま、今日のところは諦めて、話は明日にしておくんだな。


「……どうぞ」


 目の前に差し出されたアイスコーヒーを一口飲む。


 さてと。このまま『純風』にいても無駄に時間を潰すだけだし、どうするかな。

 下手にここで時間を潰していると、番田に買い出しを押し付けられる可能性もありそうだ。

 このまま真っ直ぐ家に帰ってもいいが、家に帰っても特にすることがない。

 そうだ。さっき拾った『あれ』を返しに行くか。

 いちおう貴重品だし、早いうちに本人の手に戻しておいた方がいいだろう。


 グラスに残っているアイスコーヒーを一気に飲み干す。

 「ごちそうさん」と言ってから、鞄を持って立ち上がり、ドアに向かった。

 

「晶、どこ行くの?」

「用事が出来た。じゃあな」


 そう言い残して俺は『純風』を出た。

 店を出た俺は神田明神通りに向かって歩き始めた。


「ちょっと待ってよ!」


 後ろを振り向くと、いつの間にか店を出た明が制服の襟をがしっと掴んでいた。


「イデデデデ!おい、首がきついぞ。辞めろ、このお団子メガネ地味女」


 明の手を振り払い、襟元を整えた。


「地味って言うな!用事って何、どこに行くつもり?」

「どこだっていいじゃねえか」

「ふーん。なーんか、怪しいわねー」


 明がジト目で睨んできた。

 いったい何のつもりだ?そんな顔で俺を見るんじゃない。


「何だよ、別に怪しいことなんてないから」

「それじゃあ、私もついて行ってもいいわよね?」


 別についてこなくていい。というか、ついて来るな!


「ついて来なくてもいい。暇なら一人でカラオケにでも行って来い」

「じゃあ、晶も一緒にカラオケに行きましょう。久しぶりに私の歌を聴かせてあげるから」


 そう言って、明は鞄からマイマイクを取り出した。

 だから、何でそうなるんだよ!

 もうやだ。お前には付き合いきれない。

 俺は明を無視して、再び歩き出した。


「だから、待ってって言ってるでしょ!」


 再び、明は後ろから制服の襟首を掴んできた。


「イデデデデデデ!!離せよ、はなせぇ!」


 どうあっても、俺を解放してはくれなかった。



  ♪ ♪ ♪



―ああ、『@M@ID』ね。あの場所なら―


 ジャンク通りにあるパーツショップの店員さんはすんなりと場所を教えてくれた。


「どんなお店なんですか?」


―そりゃあ、なんと言ったって去年のアキドルGPで優勝したお店だからね。色々と凄い店だったよ―


「何が凄いんですか?」


―僕の口からはとてもとても……。敢えて言うなら―


「言うなら?」


――メイドだねー――


 メイドカフェだから、当然じゃないですか?


――マシンガンだねー――


 メイドがマシンガンを持ってるんですか?!


――まさにカーニバルだったよ――


 メイド×マシンガン×カーニバル。

 いったい、この三つの単語にどんな共通点があるというのだ。

 そもそもメイトにマシンガンって何だよ。

 あれか、セーラー服とマシンガンみたいなものか?

 それとも『@M@ID』という店は、サバイバルカフェみたいなものだろうか?

 店員から『@M@ID』の詳しい場所を聞き出した後、俺たちは総武線高架下にある裏通りまで来た。

 この通りはパーツショップだけでなく、飲食店やメイドカフェ、ゲームセンターやパチンコなど、数多くの店が軒を連ねているのだ。


「『キュートパイ』です♪ご主人様、寄っていきませんか?」

「今ならサービスチケットを無料配布しています。ぜひ遊びに来てください♪」

「お兄ちゃん、『プリマカフェ』で一休みしていきませんか?」


 そして、ジャンク通りの2倍近くの女の子たちが、熱心に客引きやビラ配りを行っている場所でもあった。


「それにしても……」


 俺の隣を歩いていた明が、不意に口を開いた。


「アキドルGPに優勝したお店へ行きたいなんて、いったいどういう風の吹き回し?」

「アキドルGPは関係ない。俺の行きたかった店がたまたまアキドルGPで優勝したお店だったんだよ」


 俺はわざとらしく『たまたま』の部分を強調しながら言った。


「じゃあ、『@M@ID』にいったい何の用があるのよ?」

「これを返しに行くんだよ」


 俺は名刺入れを明に見せた。


「これって……『@M@ID』の名刺?」

「ああ。偶然拾ったから、持ち主に返そうと思ったんだよ」

「へえ、そういうことだったの」


 ちなみに、手帳と学生証を拾ったことについては言わなかった。

 持ち主の名誉のため、不特定多数に晒すのはいささか気が引けるからだ。


「ねえ、晶。ひょっとしてあそこじゃない?」


 明が俺の袖をちょいちょいと引っ張った。

 明が指差した方向には、T字路の角に建つ5階建てのビルがあった。

 ビルの一階はアキバ最安値を謳うパーツショップ『ばお~』があり、その二階に可愛らしさを前面に出したイラストと『@M@ID』と書かれた看板があった。

 看板の下の部分に、『お帰りなさいませ(はあと)ご主人様』と可愛らしいフォントで書かれている。

 さらに、テラスらしき場所にはメイド服を着た女の子が二人、見下ろしながら手を振っていた。

 近くにあるスピーカーからは耳を疑うような悍ましい台詞と電波ソングが聴こえてくる。


 「あなたのハートに萌え萌えキュン♪」

 「私のハートはメロメロキュン♪」

 「あなたも私も萌え萌えキュン♪」


 激しいめまいと吐き気が湧き上がってきた。

 やっぱり、手帳と名刺入れを返すのは明日にしよう。そうだ、それがいい。


「それじゃあ、晶。早速敵地に突入するわよ!」

「よし行ってこい、俺は帰る!」


 俺は踝を返し、一刻でも早くこの場から立ち去ろうとした。


「ちょっと、ここまで来ておいて帰るつもり?名刺入れ返すんでしょ」


 逃げるよりも早く、明が制服の襟元をがしっと掴んだ。

 くそ、前に進めねえし、首が痛いぞ!

 

「俺は帰るんだ!」


 おもちゃの前で駄々をこねる子どものように喚く。


「ここまで来て何をビビってるのよ!男なら覚悟しなさいよ」

「ど、どんな覚悟だよ!俺はいま帰るんだ。すぐ帰るんだ。さっさと帰るんだ!」

「さ、中に入るわよ♪」

「離せー!」


 断末魔にも似た声をあげながら、俺は抵抗空しくビルの中へと押し込められた。

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