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アキドル!  作者: パンケーキ
1章
15/15

2章①

 午前中で授業が終わり足早に学校を後にした俺は、昼食を取るため家には戻らず駅まで来ていた。

 昭和通り改札口前を横切り、アキバ最大の家電量販店ヨドカメの脇にある連絡通路から中央改札口方面に向かって歩いていく。

 連絡通路を抜けて通信広場に辿り着くと、スーツ姿のサラリーマンから外国人の観光客など多くの人でヨドカメ前が賑わっていた。

 梅雨明け前の青い空に焼き付けるような日差しが降り注ぎ、思わず目を細めてしまう。

 最高気温は31度、アキバの空は一足早く夏の色をちらつかせていた。

 横断歩道を渡って中央改札口前まで来たところで、人だかりを目にした。

 ざっと見た感じ15人程度の人だかり。何だろうと思い、人だかりに近づいてみる。


 あれ、この声……ひょっとしてユニ&エミかな?

 どうやら、この人だかりは路上ライブをやっているユニ&エミの見物人だったようだ。

 二人は白のTシャツにチェック柄のミニスカートという涼しげな恰好で、マイクを片手に日差しに負けないくらいの眩しい笑顔で歌っていた。

 いま歌っている曲、確か「水平線―28マイル」って曲だったよな?

 去年の夏ごろに、四葉の週刊ランキングでベスト3に入った曲だからよく覚えている。

 今日のような真夏日にはぴったしの曲だと思う。


 駅前のモックで済ませたかったけど、この時間帯は混んでいる可能性が高い。

 俺は時間つぶしも兼ねて二人のライブを見ていくことにした。

 しばらくして、ユニ&エミが歌い終わると、人だかりから僅かばかりの拍手が起こる。

 ユニ&エミは額に汗を浮かべながら、笑顔で拍手に応えていく。


「皆さん、聴いてくださってありがとうございました!」

「いま歌った曲は紙飛行機Pさんの曲で『水平線―28マイル』でした」

「エミ、最後に何を歌おうか?」

「うーん、何がいいかな。ユニは何か歌いたい曲ってある?」


 ユニとエミはハンドタオルで汗を拭いながら、最後に歌う曲について考える。


「今日はすごく暑いから、暑さを吹き飛ばすような曲がいいんじゃないかな?」

「よし、それならバタPの新曲『夏色BLUESKY』でいこうか!」

「オーケー、ユニ」


 ユニとエミは次の曲の準備を始める。

 『夏色BLUESKY』って、バタPが2週間前に公開した新曲だよな?

 確かに、あの曲なら今の雰囲気にぴったしの曲だと思う。

 スピーカーから夏の空を連想させるアップテンポな曲が流れ始める。


「それじゃあ、いくよ! バタPさんの新曲『夏色BLUESKY』です。聴いてください!」


 ユニとエミははじけるような笑顔と共に元気よく歌い始めた。

 


 ♪ ♪ ♪



 ユニ&エミの路上ライブが終わると、時刻はすでに午後2時をまわっていた。

 俺は遅めの昼食を取るため、近くにあるファーストフード『モック』に入った。

 うまく時間を潰して混雑時を外したつもりなのだが、店内は非常に混雑していた。

 外まで伸びている注文待ちの列に並んでから、やっとの思いで喫煙席手前のテーブル席を座ることができた。


「はぁ……」


 騒がしい店内とは裏腹に、俺は視線をトレイに注いだままどんよりとした気持ちで大きく肩を落とした。

 トレイの上にはハンバーガーとSサイズのコーラのみ。

 食べ盛りの高校生にしては、あまりにも少なすぎる量だ。

 別に夏バテで食欲が沸かないわけでもないし、ダイエットしているわけでもない。

 本当ならハンバーガー1個なんてケチくさいことはせずに、豪勢にWバーガーとポテトのセットを注文したい。

 しかし、先日、剛で明たちにラーメンをご馳走したせいで、俺の懐は冷凍庫のように寒くなってしまった。

 少しでも食費を切り詰めて、次の給料日まで節約しなければならない。

 重苦しい息を吐き出してからハンバーガーにかぶりつき、あっという間にハンバーガーを平らげた。


 ……足りない、全然足りないぞ。

 ハンバーガー一つで腹が満たされるわけがない。

 しかも、中途半端に食べたせいで余計に空腹感が増してきた気がする。

 どうしよう、もう1個ハンバーガーを食べようかな……。

 いや、次の給料日まで2週間以上もあるに無駄な出費はできない。ここは我慢だ。

 ハンバーガーを包んでいた包装紙をクシャクシャに握りつぶし、ドリンクのストローに口をつけた。

 ドリンクの中の氷は半分近く溶けているため、気の抜けたコーラの味がした。

 それとも姉ちゃんに頭を下げてお金を貸してもらう……のは辞めておこう、後が怖い。


 給料日までどうやって切り抜けようか考えていると、不意に制服のポケットに入れてあったケータイがヴヴヴヴと震えだした。

 ケータイを取り出して画面を確認すると、画面には『秋星明』と表示されていた。

 あれ、おかしいな。

 明は今、純風でバイトしている中のはず。どうして電話なんかかけてきているんだ?

 まさかあいつ、客が来なくて暇つぶしに電話をかけてきたんじゃないだろうな?

 バイト中に電話をしてくるなと文句の一つでも言ってやろうと思い電話に出る。


―あ、晶?!


 案の定、受話口から明の声が聞こえてきた。


「明か? お前、何で電話なんかかけてく――」


―ちょっと、何ですぐ電話に出ないのよ!


 ケータイからキーキーとした声が耳の奥まで飛んできた。

 いきなりのことで、思わず受話口を耳から遠ざけ、少し間を置いてから受話口に耳を当てた。

 文句を言うつもりが、逆に文句を言われたぞ。


―ねえ、晶。ちょっと聞いてるの?


「聞こえてるよ。お前いまバイト中だろ? 電話なんかかけてきて、仕事はどうしたんだよ」


―ちゃんとしてるわよ。もっとも、今はお客さんがいないから暇だけど。


「それなら店の前でも掃除してればいいじゃねえかよ」


―掃除ならとっくに済ませたわよ。もっとも、暑いから適当に済ませちゃったけどね。


 俺の問いに明は呆れた声で返してきた。

 こいつ、まさか本当に暇つぶしで電話をかけてきたってオチじゃないよな?


「それで、お前はバイトの時間に電話をかけてきて、一体何の用だよ」


―実はね、灯里がアキドルGPに向けて具体的にどうすればいいかみんなで話し合った方がいいって言うの。私も灯里の言う通り、早いうちに色々と決めた方がいいと思う。


 話し合いか……たしかに、灯里先輩の言う通り早めにしておいた方がいいな。

 ということは、明の電話は話し合いをするから空いている日時を教えろって催促ってことか。


―実は一条さんも純風に来ているから、今日、話し合いをすることに決めたから。だから、18時ごろに純風に集合ね。


「おい、ちょっと待て。まさかその話し合いって、俺も参加するのか?」


―当たり前じゃない。アキドルGPで優勝するための大事な話し合いなんだから。


「俺が参加したって役には立てないと思うぞ。それなら、明たちだけで話し合ってさ……」


―つべこべ言うんじゃないの! 晶も参加するの。いい、わかった?


 どうやら俺に拒否権はないらしい。


「わ、わかったよ、行けばいいんだろ、行けば」


―わかればいいのよ。18時から始めるから、ちゃんと時間前に来なさいよ。


「そういえば、原垣内はどうするんだよ? 俺と一条さんはいいとして、原垣内は数日前からバイト休んで――って、オイ!」


 明の奴、言いたいことだけ言って電話を切れていた。

 毎度のことだけど、何で明の奴は最後まで俺の話を聞いてくれないんだ!

 

 脱力感と疲労感に苛まれながら時間を確認する。

 今は2時半を過ぎたあたりだから、時間まで……3時間以上もあるじゃねえか!

 一度家に戻ってもいいけど、また外に出るのは面倒だ。

 かといって、3時間も外でうろうろなんかしていたら間違いなく熱中症になる。


「あのう……」


 となると、選択肢は二つしかないな。時間までここで涼んでいるか、時間前に純風へ行って涼んでいるかの二択だ。


「あのう……」


 前者の場合、長時間店に居座り続けると店員に注意される可能性があるな。しかし、後者の場合、明の奴に買い出しとか品出しとか色々と雑務を押し付けられる可能性がある。

 この暑い中、バイト中じゃないのに面倒事を押し付けられるのはごめんだ。


「もしもし、私の声が聞こえてますか?」


 ……よし、決めた。時間までここで涼んでいよう。


「あのう!」

「は、はい!」


 突然の大声に俺はびっくりしてしまい、慌てて周囲を見回した。


「良かった、気が付いてくれた」


 ショートカットにやや幼さの残った顔立ちをした女の子がトレイを持って目の前に立っていた。

 彼女を見た途端、思わず自分の目を疑ってしまった。

 目の前に立っていたのは、さっきまで中央改札口前で路上ライブをしていたユニ&エミのエミがいたからだ。


「ごめんね、いきなり声かけて」


 エミはとのんびりとした口調で遠慮がちに言う。


「い、いや……な、何か用?」

「実はね、いま店内が凄い混んでて座れないの。だから、一緒に相席してもいいかな?」


 店内をざっと見回してみると、窓際のカウンター席からトイレ前のテーブル席まですべての席が埋まっていた。

 そのうえトレイを持ったまま席が空くのを待っている客すら見受けられ、いつ店内アナウンスが流れてもおかしくないぐらいの混雑ぶりである。


「ひょっとして、誰かと待ち合わせでもしてた?」

「いや、そんなことないよ。俺一人だから、良かったら座ってよ」

「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて」


 エミはトレイをテーブルに置くと、俺と向き合うように椅子へ腰かけた。


 お、驚いた……。

 まさか、あのユニ&エミのエミが俺に話しかけてくるとは思いも寄らなかった。


 エミはトレイの上の食事には手をつけずにじっと待っている。


「写メ君、どうかした?」


 エミは俺の視線に気づいたのか俺の方に振りむいた。


「えっと……君って、あのユニ&エミのエ――」

「あ、ユニ。こっちこっち!」


 エミは俺の後ろに向かって手を振った。

 後ろを振り返ると、階段のすぐ近くでエミとうり二つの女の子、ユニがトレイを持ってきょろきょろしていた。


「いやー、こんなに手間取るとは思わなかったよ」


 ユニは手を振っているエミに見つけると、俺たちの座っているテーブル席まで近寄ってきた。


「ごめんね、ユニ。混んでて席がとれなかったから、写メ君に頼んで相席にしてもらっちゃったんだけど、いいよね?」

「写メ君?」


 ユニはエミの反対側に座っている俺の顔を見た途端、


「おお、写メ君じゃん! こんなところで会うなんて奇遇だね」


 驚きの声を上げた。


「ユニ、いいよね?」

「うん、写メ君なら全然、むしろOKだよ!」


 ユニは意味深な返事をすると、持っているトレイをテーブルに置いてエミの隣に腰かけた。

 エミのトレイにはチキンバーガーとポテトとドリンクのセット。ユニのトレイにはフィッシュバーガーとサラダ、Mサイズのドリンクが乗っている。

 ハンバーガーとSサイズのドリンクしかない


「まったく、平日なのにすごい混んでて参っちゃうよ。地元のモックはここまで混んでないんだけどね」

「さすがアキバってところだね」

「人が多くて賑やかないいんだけどさ、あたしとしてはもう少し落ち着いて食事がしたいかな」


 ユニはうんざりした表情でフィッシュバーガーの包装紙を剥ぎ取ってから、大きく口を開けてフィッシュバーガーにかぶりついた。


「ユニ、またフィッシュバーガー食べてるの? ライブで喉がカラカラなのに、よくそんなパサパサしたものが食べられるよね」

「別にいいだろ。そういうエミこそまたチキンバーガーじゃないか。そんなのばっか食べてると、ぶくぶくに太るぞ」

「私はユニと違って、食べても太らない体質だから全然気にしてないもん」

「あたしだって、はちゃんとカロリー計算しているから太るわけないし」

「でもこの前、お風呂上がりに体重を測ったとき、1キロ増えたって叫んでたよね?」

「な、なんで、知っているんだよ! ……って写メ君、まさか昼飯はハンバーガーだけ?」

「本当だ。写メ君、ひょっとしてダイエット中なの?」


 ユニとエミは自分と俺のトレイを交互に見比べると、心配した表情で尋ねてきた。


「そんなわけないだろ、エミ。写メ君が体重を気にしてどうするんだよ」

「あ、それもそうだね」


 すかさずユニがツッコミを入れると、エミは納得したように苦笑した。


「なあ、さっきから気になっているんだが……」

「うん?」

「写メ君、どうかした?」


 二人のやりとりを見て、先ほどから疑問に思っていた俺は二人に尋ねる。


「その写メ君って、まさか俺のことか?」


 まさかと思い尋ねてみると、ユニ&エミは互いに顔を見合わせてから、


「そうだよ」

「写メ君以外に、ほかに誰がいるの?」


 顔色一つ変えずにきっぱりと言いのけた。


「どうして写メ君なんだ?」

「だって、写メ君、よくあたしたちのライブをケータイで撮ってたじゃない」


 ユニはうんうんと首を縦に振る。


「そうそう。だから、写メ君って名前なの」


 言われてみれば確かに……。

 二人の路上ライブを見かけるたびによく写真を撮っていた気がする。

 写真は姉ちゃんに渡してアキログに載せてもらったり、自分のトゥイッターにアップして載せたりしていたもんな。

 それで二人は、俺のことを写メ君って呼んでいるのか。なるほどね……。

 ……って、納得できねえよ!。


「いやいや、写メ君なんて変なあだ名を勝手につけないでくれ。俺には相模晶って親からもらった名前があるんだよ」

「へえ、写メ君は相模晶って名前なんだ」

「でも、写メ君の方が親しみがあるよね?」

「うん、やっぱし写メ君でいいじゃん」

「よくねえよ!」


 写メ君なんてふざけた名前で呼ばないでくれよ。


「それよりもさ、写メ君、今日のライブも見に来てくれてたよね?」

「今日のライブ? ああ、さっき駅前でやってたライブのことか?」

「そうそう。今日はいつもより気合を入れてライブをやってみたんだけど、写メ君的にはどうだったかな?」


 ユニは期待に満ちた眼差しで尋ねてきた。

 学校帰りに偶然通りかかっただけだし、どうだったと言われてもな……。

 昼過ぎを狙ってライブをしただけあって、いつものライブと比べて人が多かったと思う。


「普段よりも見ている人が多かったと思うし、概ね良かったんじゃないかな」

「でしょ?! あたしもさ、写メ君もそう思うよね?」


 適当に感想を述べると、ユニは腕を組んで嬉しそうに頷いた。


「でも、ユニ。最後の曲で振り付け間違えてたよね?」


 隣に座っているエミはジト目でユニを見ながら低い声で言うと、


「え、そ、そうだっけ?」

「そうだよ。間奏のところでステップ間違えての覚えてないの?」


 エミが指摘に対して、ユニは一瞬考えたフリをしてから、


「まあ、細かいことは気にしない。いいじゃん、うまくいったんだから」


 呑気な顔で笑い飛ばした。


「まったく、ユニはいっつもいい加減なんだから」


 エミは呆れ顔で軽くため息をついてからストローに口をつけた。


「エミ、やっぱり夏休みも近いしさ、しばらくはこの時間帯にライブやらない?」

「夏休みに入れば、もっとたくさんの人に見てもらえるかもしれないよ」

「でも、あんまり無理すると熱中症になるかもしれないよ」


 ユニの提案に対して、エミは乗り気でない様子で言うと、後ろを振り向き窓の外を見る。

 店の外は相も変わらず、眩しい日差しが降り注ぎ、見てるだけでも汗がにじみ出てきそうだ。

 エミの言う通り、この炎天下の中で夏休み中ライブなんかしていたら、大の大人でも熱中症にかかるし、下手をしたらぶっ倒れるかもしれない。


「そんなの気合で乗り切ればいいよ! それに、逆境が大きいほど燃えるってものでしょ!」


 ユニはそんなことはお構いなしに強気の発言をする。


「そんな体育会系みたいなノリで言わないでよ。それに、ライブ以外にも練習だってしなきゃいけないし、さすがに毎日アキバに来るのは大変じゃない」

「そっか、それもそうだな……」


 エミが冷静に指摘すると、ユニはごもっともと言った顔で納得する。


「アキバに来るってことは、二人とも家はここら辺じゃないんだ」

「そうだよ。あたしたち、学校は都内だけど、家は埼玉の方にあるんだ」


 ということは、ライブをするためにわざわざアキバまで足を運んでいるってことかよ。

 思わず感心……というか呆れてしまった。

 わざわざアキバでライブなんかしないで、地元ですればいいのに……。


「以前は地元でライブをやってたんだけど、なかなか人が集まらなくて盛り上がらなかったんだ」

「その点、アキバはみんなノリがいいし、人が集まりやすいからやりがいがあって最高だよ」


 それで、わざわざ地元じゃなくて、アキバでライブをしているってことか。


「今は路上ライブでしか人を集められないけど、いつかたくさんの人の前で歌って見せるんだ!」

「そうだね。目指せ、トップアイドルってところかな」


 そう言って、ユニとエミはガッツポーズを作った。

 ユニ&エミのアイドルに対する熱意は本物みたいだ。

 二人を見ながら、今度こそ素直に感心してしまった。

 しかし、それと同時にちょっと複雑な気持ちにもなった。

 俺にはユニとエミのように、一生懸命になれるものなんてなかった。何の目標もなく、無駄に青春を過ごしているといっていい。

 純風で働いているのだって、別に喫茶店の仕事が好きなわけでもなく、ただの小遣い稼ぎで働いているに過ぎない。

 俺が無意味に毎日を過ごしている一方で、同い年くらいユニとエミは自分のやりたいことをしっかりと見つけて、それに向かってがむしゃらになって頑張っている。

 そんな二人が俺にはとても眩しく見えてしょうがなかった。


「あれ、写メ君どうかした?」


 思わず顔に出てしまったらしい。

 二人は心配そうな顔で見ていたので、俺は慌てて表情を取り繕った。


「い、いや、何でもない。ちょっと考え事してただけだから」


 あと2年で高校生活も卒業なんだし、俺も少しは自分のことを考えないといけないかもしれないな。


「ねえ、写メ君。いい機会だし、一つだけ写メ君に聞きたいことがあるんだった」

「俺に訊きたいこと?」


 何だろう。俺に聞きたいことって……。


「写メ君って、実はアキログの仕事とかしていたりする?」

「アキログの仕事?」

「たまにね、アキログを見ていると私たちの写真がアキログに掲載されてたりするんだ。そういうときって、写メ君が私たちのライブの写真を撮っている日だからさ。だから、写メ君ってアキログの仕事とか請け負ってたりするのかなって思って」

「仕事ってわけじゃないけど、姉ちゃんに頼まれてアキログに載せる写真を適当に撮ったりはするよ」

「写メ君のお姉ちゃん?」

「ああ。俺の姉ちゃん、アキログの運営やっているんだよ。それで、よく写真を撮ってこいって頼まれることがあるんだ」

「へえ、そういうことだったんだ」

「じゃあさ、そのお姉さんに頼んで取材してもらったりとか、できないかな?」

「取材?」


 思わず聞き返すと、二人はおずおずと頷いて見せた。


「もし、アキバ系サイトの最大手であるアキログに取材してもらえたら、私たちの知名度もぐっと上がると思うの」

「写メ君、お願い。お姉さんに頼んで取材してもらえないかな?」

「姉ちゃん、いま仕事が凄い忙しいみたいだし、取材してくれるかどうか……」


 今週に入ってから、姉ちゃんはアキドルGPや他のアイドルの取材で多忙な毎日を送っているから、引き受けてくれるかどうか微妙なところである。

 昨日だって取材で外に出たっきりで、家に戻ってきたのは深夜遅くだった。


「そんなこと言わないでよ。私たち応援するつもりでさ」

「そうだよ。あ、写メ君、ポテト食べたくない? あたしのポテトを少し分けてあげるよ」


 ユニは自分のトレイにあるポテトを3本ほど、俺のトレイに乗せた。

 ポテト3本で取材してもらうなのかよ。


「ね、この通り!」

「お願い、写メ君」


 ユニとエミはテーブルの上に三つ指をついてから頭を下げた。

 そんなに必死になってお願いされると、無下に出来なくなる。

 ……まあ、ダメ元で頼むぐらいなら別にいいかな。引き受けてくれる可能性は限りなく0に近いけどね。

 眉間に皺を寄せながら、トレイに乗ったポテトを一本つまんで口に放り込んでから、


「わかった。ダメ元で頼んでみるよ」

「え、本当にいいの?!」

「特別だからな、特別」


 渋々と言うと、ユニとエミは両手を合わせながら大喜び。


「おいおい、ダメ元なんだから、あまり期待はしないでくれよ。」


 あまり過度の期待を抱かせないよう念を押すが、二人はお構いなしに喜んだ。


「わかってるわかってる」

「大丈夫だよ、写メ君。期待はしてないから」


 口とは裏腹に、二人の表情は期待と喜びに満ち溢れていた。

 本当にわかってるのかな、この二人。

 喜んでいる二人を見ながら、俺は氷が完全に溶けきったコーラを一気に飲み干した。

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