『恐怖!マリオン地獄の雑煮黙示録っ!?』
今年もあと少しで終わりを告げる頃…
舞浜市内にあるとある木造二階建学生寮の一室では、大掃除という名の大戦が終了し、ようやく一息つく人物の姿があった。
「はうぅ…やぁ〜っと片付いたよ」
「ふぅ…何とかね。まさか光雄先輩がこんなにも様々な物を溜め込んでいるとは、まだオカルト部の部室の整理の方がましですよぅ〜」
狭いリビング内を埋め尽くす段ボール箱の山の天辺付近に、この部屋の掃除の手伝いに招かれた部長直属のパシリ事、杉原響と。
同じく彼の所属する部活の先輩であり、響の面倒約かつ部長事。マリオン・オヴ・シュペーが向かいあわせに腰を降ろす。 そして腕まくりをしているセーター越しの両腕を組ながら不機嫌そうな表情で特徴的な水色髪を揺らす。
「そうだよ光雄っ! 全く。バイトの臨時ボーナスを貰ってるからって」
と。意味ありげな皮肉を突き付ける彼女に続き向かいにどっかりと腰を下ろしてはうだれるような声を鳴らす響。
「そうそうっ。ちょっと買いすぎですよっ! 少しは俺やマリオンさんみたいに自重して貯金に回しとかないと。又何かあって結局マリオンさんにたかるのは恥ずかしいですよ」
「うぐぅっ!? まさか後輩の響にまでそんな事言われるとは…。っつーかあくまでもこれはだなぁ〜、俺様の趣味であってなぁ」
とまぁ〜…。ご自慢のピンク髪を揺らしながら謎の開き直り状態の光雄だが。 年末の大掃除を何気なく始めた彼は、なにやら密かにかなりのゴミを今現在段ボールの山脈が軒を面萎えるリビング。
そこのクローゼットの一部や隣にある和室の押し入れ。
はたまた様々な場所を整理する度にいろんな極秘の品やら、とあるBO●K・OFFで買い溜めたコミックやホビーの数々がひっきりなしに出て来る始末なのだ。
本人いわく、マリオン達に内緒で密かに自身のコレコションを苦労して集めた光雄なのであるが。
やはり、男女の違いなのか、元々常に必要最低限しか持たないマリオンの性格からすれば。
全てが部屋を狭くする原因であり、尽く処分し、やっとまともな綺麗な部屋になったのである。
「んもぅ!光雄はさぁ。今までどんな生活して来たんだよ。この際さぁ〜…。ハッキリ言わせてもらうけど、暇な休日とかゲームやるのはいいんだけどねっ」
「なぁマリオン。でもよぅ…。俺様も言わせてもらうが。その休日の度に押し掛けアンタも遅くまで一緒にゲームを?」
「うっさいよ! それはそれっ。だから私が言いたいのはね? 何時も散らかしたら全部やりっぱ! 他にも雑誌やマンガだって…全部あなたが散らかしたの掃除すんの私だからねっ!」
彼女の主張をうんうんと首を縦にふりながら頷く響き。その響の様子を横目にむぐぅ…と、何も言えずに居る光雄と。
何故か、光雄は昔からの性格なのか…なんでもかんでも作業したら置きっぱなしで、そんな光雄とは正反対な常に身の回りを綺麗にこなすしっかり者のマリオン。
そんな彼女の性格からして許せないのか、何時も下校時に両手一杯の食材をかかえ彼の部屋に立ち寄る。 せっせと散らかしっぱの彼の部屋の掃除や家事全般をキチンとこなしてるのだが。
流石に年末の大掃除で彼女の知らない所でこんなにも散らかす原因を隠し持っていた光雄に、普段から気の短いマリオンは遂に怒りが込み上げちゃったのである。
その彼女のただならぬ様子をあわわと慌てながら押さえようとする響に対してもギロリと睨みを聞かせてはあっさりと沈黙させるのだ。
「ったくもぅ〜! だから光雄って。聞いてる? ふぅ〜ん? そうなんだ。さっきから私が言ってる事全然聞いてなかったでしょ!」
「ん? ま…まぁ〜んだから落ちつけって。って!? 所でなに言ってたんだっけ?」
「こ…」
「へっ? "こ"ってんなにっ?」
「こ――」
遂に間抜けな一言が彼女の起爆剤に触れ、ぴくりと謎の引きつる笑顔を始める。そのただならぬ様子に響はマリオンからさり気なく身を退き部屋の奥にあるキッチンまで足速に避難をする。 そしてキッチンの影からそっと顔を出しては問題の起爆スイッチの入ったマリオンと未だ状況がわからず彼女を間抜けな一言で挑発する光雄の様子を生唾を飲み込みながら伺うのだ。
しかし時既に遅く、部屋の隅っこのハンガーにかけてある白いコートのポケットをマサぐる。そこから数個の赤い小さな瓶を片手に持ち器用に開けながら…キシリと可愛いく腹黒い笑顔を光雄に向ける。
一言何かしらを唱えながら青白く発光させる魔法の薬にも見えない事もないが。
そんな様子に流石の鈍感な光雄も気付いたようで引きつりながらたじろぐのだ。
「なっ! まさか? ままマリオンっ。待てまてっ! んだからこんな場所でまじゅ…いひっ!?high●o? 」
謎のワードを残しながら響の目の前で"それ"は必然的に起きたっ!
珍しく見開いた流し目に涙を溜めその場を逃れようとする光雄のピンク頭をガシリと掴むマリオン。
更にジタバタと藻掻く光雄の口元にむぎゅると"それ"を
「こんのぉぉぉちったぁ人の忠告を聞けやクソピンクゥゥ!!」
と?、まるで可愛い顔に似合わないような罵声を後に無理矢理押し込む様をっ!?
「えぶろっ!! ぷっぽ?」
とまぁ〜、一様彼女が開発した独自の回復魔術を仕込んだアイテムのようだが味はともかく…(汗)
そんなこんなで何時もの如く二人して夫婦漫才をやらかしている様子を眺めながらやれやれと。膨大なため息をつく響なのだ。
というか、常に彼女を挑発する原因は光雄本人なのだが…。
そんなこんなで何時ものてんやわんややっとる学生寮の一室に突如インターホンが鳴り響き響は我に帰る。
只今マリオンが今度は光雄の上に跨り顔面をむぎゅると力任せに引っ張るわ、ピンク髪をクシャクシャにするわ。
謎の取っ組み合いに移行する様子を横目に響はキッチンから飛び出しそのまま玄関まで慌てるように赴くのである。
◇◆
「はいはいっ! カレン。今行くからインターホン連射すんの止めろっつの!」
その一言を後に響は玄関前で鉄製のショボイドアの鍵を回す。そして脇側に引っ掛けてあるチェーンを器用に外す。
片手でガチャリとドアを開けた瞬間彼の知り合いの黄色い声が耳に触る。
「ちわ〜す! ちと近くのスーパーでてこずっちゃってさぁ」
「なぁ…カレンに哲也ぁ〜。お前等いくら何でも遅すぎだっつの。もう光雄先輩の部屋全部片付いちまったぜ」
「そうかぁ〜…悪いっ響っ! 実はな。カレンの奴がサボ?」
「――黙れ鳥」
とまぁ〜。ぶつくさと文句を言いたげな響に特徴のある金髪ホウキ頭をユラユラさせながらヒソリ…と何か言いたげな哲也のわき腹にエルボーを食らわすカレンと。
大体の二人して一体何をしてたのか察しがつく響は又もやため息混じりの一言を溢し哲也達を掃除が終わった光雄の部屋にエスコートする。
その響の脇をそそくさとカレンが乱雑に靴を脱ぎながら上がり込み。狭い学生寮の一室に響筆頭にオカルト部メンバー全員が揃うのだ。
そんなこんなで突如狭い廊下を抜けながら突き当たりにあるリビングに傾れ込む響を含む三人が見た光景は?
「「「……あ……」」」
「ぐふぅ〜ww」
「ふえっ? てっ。哲也にカレン? 遅すぎっ! てかわわわっ! こここれはええっと…あははっ。ちょいと運動をね(汗)」
とまぁ〜。なにやらお取り込み中だったみたいのようで、自慢の程よく伸びたピンク髪は謎のボサボサになり床にうつ伏せに倒れ込む涙目の光雄。
その両足にガニ股に跨り「むんっ!」と謎の雄叫びを挙げながら留めていわんばかりにコブラツイストから四の時固めに移行する。
少女とは思えないような有様の彼女なのだ。
瞬間的にこのヒートアッブする光雄とマリオンの取っ組み合いに、三人で固まり目が点になるのは当然なのだが…
◇◆
「あだだっ…くっ。首がまわらねぇ」
「いやまぁ…光雄先輩も先輩すが。マリオンさんも少しは自重して下さいよ〜」
「って!?…響ぃ。言っとくけどさぁ。光雄は私の話をちゃんと真面目に聞いてんのかわかんないんだよ!だから身体で解らせな…」
「いや…それを拷問と」
「ふぅ〜ん? 哲也…何時から鳥の分際で部長に口答えするようになったんだよっ」
「まぁまぁまぁ。哲也もマリオンさんもっ! 皆さん揃った事だから美味しく頂きましょうよっ」
そして。あれからメンバー全員で山積みの段ボールを綺麗に片付け。大晦日の夜を迎える。
カレンとマリオンは買って来た食材で特製お雑煮をこしらえ。
光雄はスーパーのお節料理を盛り付け。
今年最後の仕上げにテーブルを皆で囲みながら中央に置かれたお雑煮を取り囲む。
そして部長事マリオンの挨拶の後に光雄筆頭に毎年恒例のオカルト部での大晦日パーティーなのであるが?
何故か光雄だけがまるで顔面蒼白でフルフルとナニカに怯えている様子なのだ。
響筆頭に今年入学して来たメンバーはこの光雄の表情の意味を知らないのだ。
そして…ニンマリと。謎の不適な笑みを浮かべては顔を綻ばすカレンとマリオンの不気味な表情が余計に不安を仰ぐ…。
「なぁ…哲也。所でスーパーで食材買ったのって」
「え? まぁ俺は御節だけだぞ? 途中でカレンと分かれて後になって両手一杯の食材カレンが持って来て」
「「……まさかっ!?」」
光雄に引き続き冷や汗を垂らす響達の嫌な予感通りに円満な笑みを浮かべたマリオン達がグツグツと煮えたぎる地獄の釜戸の如く紫色の液体を目撃した瞬間もう既に遅いのだ。
そして。この毎年恒例の如く狭い学生寮に悲痛な三人の悲鳴が響き渡るのである。
「わあっ…カレンっ。すっごいすっごい美味しいよっ!このマリオン特製の召喚したヴァイオレッドイボガエルのダシとぶつぶつが」
「うっげ!? 何か零れた汁が机溶かしてっぞ?」
「うっひ? 光雄先輩が既に死んで?」
「さあさあっ。響っ今回はカレンちゃんが奮発したエヒーラ雑煮っ残さず食べてよねっ!」
そして今年も一部の犠牲者はあれど平和だった!?
BAD・END(笑)
響「うっぷ」
哲也「うげぇぇ…」
光雄「マジ無理だから」
マリオン「今年も我が『オカルト部』よろしくねっ!」