第7楽章〜コンクールの日
そして、やってきましたコンクール当日。
僕はあんまり重要視してなかったけど、やっぱり出るからにはいい成績とりたいよね。
「おはよう。」
現在、リハーサル真っ最中。
家からスーツというかタキシードでくるのはやっぱり恥ずかしいから、現場の更衣室に着替え終わったところ。
「おはよう。・・・フルートの手入れ、しておけよ。」
何年ぶりなのかは知らないけど、鏡夜もこの格好には流石になれないらしい。
でも・・・・似合いすぎ・・・・。
いつも顔にかかっている髪の毛をあげたくらいで、あとは服装の力だというのに、ものすごくカッコイイ。
いつよりも増して。
これじゃ、どっちのコンクールかわかんないよね。
「何?」
「いやぁ、カッコイイと思って。・・・・っ!」
何僕普通にいってんだろう。
「そりゃ、どうも。そういうお前も、そうとう似合ってるぜ?七五三みたいで。」
「何だよ!それ!」
「まこ。」
「な、何?」
「頑張ろうな。」
「当然!」
***
「・・・・14番。アンデルセン作曲。常動曲 フルートとピアノのためのカプリース。演奏者・山下 真実。伴奏者・楢崎 鏡夜。」
・・・・ドキドキドキドキ・・・・
「さ、さ、さ、さぁ!出番だよ!」
「緊張しすぎだ。」
「こ、こういう時って!!手のひらに人って三回書いて飲むといいって言うよね!」
「そんなの聞くかよ、さ、行くぞ。」
その頃、会場では。
「楢崎 鏡夜とは、まさかあの少年ではありませんか!?」
「でも、彼はもうピアノをやめたと聞いておりましたが。」
「もし本人だとしたら、一体なぜ・・・・」
「10年前に・・・『天才少年』の称号を得たあの子なのか・・・・!?」
拍手の波に押されながら、僕はステージに進んだ。
「お前なら、大丈夫だ。」
「な、な、な、何で?」
「俺が、天才、と認めた唯一の存在だから、かな。」
「よ、余裕だね・・・・・」
僕は、小さく会釈して、鏡夜と呼吸を合わせて、演奏し始めた。
そうだ、勝ち負けなんて、所詮ゲームの景品みたいなもんじゃん。
肝心なのは、自分がどう楽しんだか、だよね。
音が、僕と鏡夜を優しく包み込んでくれる。
(・・・・楽しい・・・・)
「これは・・・・すばらしいっ・・・・」
「プロの私たちも、顔負けですわね。」
「やはり、ピアノは、あの少年でしたか。」
「でも、フルートの子もすばらしいわっ。この曲を、ここまで吹きこなせるなんて。」
僕は、意識が飛んでいってしまいそうなくらい緊張していて、回りに目が行かなかった。
吹き終わっても、僕はほとんどもぬけの殻といった状態で、拍手喝さいの中でブラボーの声が響いたのが、耳に入らなかった。
「あ・・・・」
会場から控え室に戻った時、がくっと僕は崩れ落ちた。
「よくやった。今までで、一番かもしれない。」
「ほ、ほんと・・・?」
「ああ。コンクールでブラボーコールが出るなんてな。」
「ブラボー?」
「気付かなかったのか?お前、ほんっと、かっこいいわ。」
くしゃくしゃと頭を撫でられて、せっかく整った髪が台無しになった。
「ご褒美、やるよ。」
「え、何っ・・・・」
そのとき、僕は何が起こったのか、よく理解できなかった。
顔が、吐息が近い。
唇に、柔らかい感触が当たる。
これは・・・・・何?
「そこまで赤くなるなよ。」
「な、な、ななななな、なぁ!?」
「な、じゃわかんねぇよ。」
僕が顔を真っ赤にして飛び退くと、クスクス笑いながら、髪の毛を下ろしていた。
「何すんのさ!?」
「何って・・・キス。」
「や、やめてよ・・・・・もう・・・・。」
少し間が開いて、鏡夜はまた僕の頭に手を乗せた。
「やれる事は全部やった。そうだろ?」
「うんっ!」
この時僕は、数秒前に起こった事を、脳内から抹消して、鏡夜とともに、結果を待ちわびていた。
努力の結果が、よりよいものであることを、心から願いながら。




