第3楽章〜委員長の複雑
『お前、いい音を吹く』
エコーがかかったかのように、僕の頭では何度も聞こえていた。
にやっと顔の筋肉が緩み、怪しげな顔を浮べていた。
「きもい。」
「え?何か言った?」
「ねぇ、最近思うんだけど、あんたってホモ?」
「へ?」
「どーして、男子校帰りにそんなにやにやしてるわけ?」
この「にや」の理由を聞かれて、僕はたじたじとした。
なんて説明すればいい?
委員長にフルート褒められて、嬉しくってニヤニヤ?
それじゃ、ホモですっていってるようなものじゃ・・・。
「べ、別に・・・・・」
「怪しい。」
「彼女でも出来たの?真実ったら、全然女の子連れてこないんだもの。」
そうなんだ。僕は、生まれてこの方彼女を作ったことがないんだ。
「かっこいい」って言われたことが、人生の中で一度もない。
可愛い、とかなら何回もあるけど、男のプライドが、褒め言葉として取っちゃいけないって言ってる気がするんだ。
「ねぇ、お母さん。」
「何?」
「僕・・・またフルートやろうかな。」
「「えっ!?」」
お姉ちゃんとお母さんが声をそろえて、驚いていた。
そりゃ、いきなりだったからびっくりするだろうけどさ、そこまでになる?普通。
「お母さんもいいと思うけど・・・・」
「あんた、バカにされるからやめたんじゃなかったっけ?」
「うん。まぁ、それはそうなんだけど。ちょっと、いいことがあってね。」
「いい事って何よ?」
「実は・・・・・・」
ここでやっと僕は気付いた。
危ない!危うくここで言ってしまうところだ。
「ぴ、ピアノをやってる友達が、バカにされてないからっ・・・かな。」
「ふ〜ん。」
お姉ちゃんはしっくりしない、って顔で見てくる。
何なんだよ〜、僕ってそんなに顔に出やすいのかな・・・。
「いいわよ。フルート、新しいの買ってあげる。」
「ほんと!?」
「音楽教室の先生にも、伝えて置いてあげるわね。」
「ありがとう!お母さん。」
「お母さんも、真実のフルート、好きだったから、嬉しいわ。」
よかった。
僕はそっと胸を撫で下ろした。
これで、委員長にまた褒めてもらえるかな・・・・・
って、何考えてるの!?僕!!
・・・・翌日・・・・
「まーーこーー。」
「あ、おはよう。弘毅。」
「はよ。聞いたぜ、乙さんから。」
乙は、僕のお姉ちゃんの名前。
って、聞いたって・・・・・・何を?
「お前、フルート始めるんだって?」
「げ。」
「んだよ、げってのは。」
「だって・・・・誰にも知られたくなかったんだ。」
僕は、じっと弘毅を見つめた。
すると、はぁっとため息をついて、弘毅が俺の頭をぐりぐりと動かす。
「お前のそれって、わざと?」
「ふぇ?何が?」
「もういい。あ、それと、さっき委員長がお前のこと探してたぜ?」
「ほんと?何だろ。」
「委員長、僕のこと探してたって。」
「昨日のことなんですが・・・・」
昨日・・・・僕にとっては、本当に幸せな時間だったよなぁ。
「山下君に、何かしませんでしたか?」
「え?」
「いえ、私が気付いた時には、すでに家の前だったので。」
「あ、ああ。別に、何もなかったよ。それより、今日も放課後、あいてる?」
「え、ええ。」
「よかった。今日も、音楽室で会おうよ。僕、委員長のピアノ、好きだな。」
僕はにこやかに言うと、委員長は複雑そうな顔になった。
僕は、察した。あれは、委員長であって、委員長でないんだもんね。
「ご、ごめん。でも、委員長と音楽について話せると、僕も楽しいし。」
「まぁ、いいですけど。でも・・・・」
「でも?」
「今度こそ手を出すんじゃないかと、心配で。」
手を出す?
僕にフルート教えてくれるとか、そういうことなのかな。
別に、それならそれで構わないんだけど・・・。
「え?僕は嬉しいよ?」
「はっ?」
「何か、僕変なこといった?」
「いえ・・・そういうご趣味なら・・・・・」
「ごしゅみ?」
そして、後から弘毅にこっそり聞いて、やっと「手を出す」の意味を知ったんだ。
そう考えると、僕、凄いこと言っちゃってたんだなぁ。
そりゃ、委員長もびっくりするよね。




