第9楽章〜こいつの手はフルートを吹く手
そして、コンクールの翌日。
一言で言うと、大変で、今まで生きてきた中で1番驚いた回数が多い日だった。
驚き1
朝僕はいつもどおりの時間に学校に行ったんだ。
でも、バスに乗り込むや否や、周りの人の視線を釘付けにし、学校に着いたら着いたで校門の前にはマスコミの列。もちろん、質問の嵐。
教室に行くと、テレビだけじゃなく新聞にまで載っちゃって一躍有名人になった僕は、クラスメイトや後輩、先輩にまで押し寄せられる始末。
当然、鏡夜の周りにも人は集まっていたけど、眼鏡装着中の『委員長モード』だったから、応対に困っているみたいだった。
「よっ、まこ。お前、すげぇな。ブランク吹っ飛ばして。」
「ま、まぁね・・・。」
「まこにそんな才能があったとは・・・・。」
「いや、あれは奇蹟みたいなもんだから。」
「どんな練習したんだ?あの、楢崎と。」
「聞かないで・・・もう、くたくたなんだよ・・・・」
もちろん、マスコミにはほとんどの事を喋ってないけど、質問攻めはもう真っ平だ。
驚き2
まあ、2番目はそこまで驚くものでもないんだけどね。
「あの・・・山下くん・・・」
「あ、鏡夜。どうしたの?」
「すみません、またあいつがやっちゃったでしょう・・・・」
「やっちゃった?」
すると、鏡夜はほんの少し頬を赤らめて、僕の耳元で囁いた。
「ほ、ほら・・・あの、キス・・・・・とか・・・」
「あ、ああっ!いいよ、気にしなくて。僕も気にしないことにしてるし。」
「そうですか。なら、いいんですけど。」
本当は、少し気になっていたんだ。
というより、なんか恥ずかしくってさ・・・・夜も思い出しちゃって大変だったんだ・・・。
驚き3
「みんなぁー、席つけー。」
担任が教室に入ってくる。
僕と委員長に群れていた人たちが一気に引き剥がれ、僕は安堵の息をついた。
「今日は転校生を紹介するぞぉー。よし、はいって来い。」
え!?いきなり!?
転校生が来る時とかって、前日に前フリをしたりするモンじゃないの?
そして、その『転校生』が来た瞬間、僕と、眼鏡を吹くために外していた委員長はかなり驚いた。
「「まぁこぉー、きょぉーやぁー!」」
「「直!?静!?」」
子供っぽく僕と鏡夜の名前を呼んで教室に堂々と入ってきた片瀬兄弟。
しかも、同じクラスに双子?
「片瀬 直でーす、よろしこっ!」
「片瀬 静です。どうそ、よろしく。」
相変わらず、似てるんだか似てないんだかわからない双子だなぁ・・・。
「それにしても、めずらしいね。双子とかって、違うクラスに分けられるものじゃないの?」
「あれ?まこ、言ってなかったっけ?」
「うち、お金だけはあるから。――って、あれ?鏡夜は?」
「多分、委員会だと思うよ。」
「「委員会!?」」
「あれ?聞いてなかった?鏡夜、ウチのクラスの委員長だよ?」
「「はぁ!?」」
そっか。直と静は『天才』の方の鏡夜にしか会ってないから驚いてるんだ。
・・・・確かに、あのキャラで委員長って言うのは、ちょっとね・・・。
驚き4
そして、本日はお待ちかね、理科の実験の日。
今日は、ガスバーナーと酸素&水素を用いた少し間違えると大爆発になりかねない危険な実験。
でも、ちゃんと手順を守れば大丈夫。先生もいるしね。
理科の班では、弘毅とも、鏡夜とも、直&静とも違う班なんだ。
「フルートって、やっぱり難しいんだろ?」
「しっかし、あの楢崎がピアノマンだったなんてなぁ。」
「俺なんてマスコミに話し聞かせてくれって言われたぜ。」
やっぱりこの話題ですか・・・。
っていうか、このほかに話題はないんですか・・・。
「で?山下、そこのところはどうなんだ?って、うおっ・・・」
僕に話を振った出席番号1番阿部くん。
少し動作をしたときにガスバーナーに制服を引っ掛けてしまった。。
あれ?待てよ、その倒れる向きって・・・やばっ・・・
・・・ガタンッ・・・
酸素と水素のほうではなく、真っすぐに僕に向かって倒れた。
「熱っ!!」
僕は叫び声にも似た声を上げた。
手首を少し焼いてしまったかも知れない。
熱い・・・ジンジンする・・・・
「「まこっ!?」」
机が近かった直と静がすぐに気付いて僕に駆け寄る。
「わ、悪ぃ・・・・」
「山下、大丈夫か?阿部っ!実験中は気をつけろといつも言っているだろう!」
「まこっ!!!!!」
眼鏡を投げ捨てて鏡夜が駆け寄る。
委員長モードではない。
「てんめぇ・・・・・」
鏡夜の声のトーンが少しばかり低くなる。
唸る犬のような凄い形相で阿部くんを睨みつける。
「悪いですむと思ってんのか!?こいつのこの手は、フルートを吹く手なんだぞ!?演奏に支障をきたしたら、ただじゃ済ませねぇからなっ!!」
一瞬の沈黙が理科室を流れた。
コレには流石に先生も硬直していた。
頭がよくて、静かな委員長が、ここまで荒れたんだ。びっくりするのもわかる。
「鏡夜、落ち着いて。とりあえず、保健室に。」
「先生、俺たちも一緒に行ってきます。」
直と静のフォローでその場は落ち着いて、僕は保健室に行くことが出来た。
ただの火傷だし、傷跡も残りそうもないけど、今日は練習できなさそうだ。
「大丈夫か?」
「まこ、痛くない?」
「まこ、まだジンジンする?」
「まだちょっと痛いけど、大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」
3人は同じような顔をしていた。
心から心配してくれているのが凄い伝わってきた。
そんなこんなで、本当にバタバタした一日だったんだ。
でも、今でもあの言葉を思い出すと、心があったかくなるんだ。
鏡夜が阿部くんに向かっていった言葉。
『こいつの手はフルートを吹く手』
鏡夜は、2重人格でも、自分も、委員長も大切に、一個人として扱ってきた。
だけど今度だけは、僕のために『委員長』を切り捨てたんだ。
そこまで大切に思ってくれているなんて・・・・
なんだか、友達以上になっちゃった気分だなぁ。




