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FPSのUIが現実に見える俺が、いつの間にか殺し屋になるまで  作者: 鳥獣跋扈


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18/22

第18話 潜入

 大男の運転する車の後部座席に揺られながら、俺たちは目的の船へ向かっていた。


 窓の外を流れていく港湾部の景色は、昼間に見れば無骨で味気ないのだろうが、夜になると妙に不気味な雰囲気を醸し出してくる。照明に照らされたコンテナ、遠くで動くクレーン、海面に砕ける光。全部が静かにうねる様に。


 隣では、アルフがシートへ背中を預けている。

 ぱっと見は、リラックスしているように見えた。ドレスの裾をきれいに整え、窓の外を眺める横顔も落ち着いている。だが、よく見ると目だけは据わっているというか、焦点の合わせ方が普段と違う。表情を緩めたまま、神経だけが別の場所にあるような感じだ。


 とりあえず、集中しているのだろう。

 邪魔はしないでおこう。


 俺も、事前に共有されていた情報を頭の中で反芻することにした。


 乗り込む船は、いわゆる豪華客船ってやつだ。


 図面は事前に見せられている。

 全長百九十メートル、全幅二十四メートル。八層構造。

 数字だけ並べるとぴんと来ないが、大きいことだけは確かだ。浮かぶ建物と言った方が近い。


 乗客定員は三百。

 乗組員は二百五十。

 今回のパーティの招待客は二百人前後と聞いているが、当然、多少の前後はあるのだろう。


 さらに、オーナーの身辺警護と、招待客への対応込みのセキュリティが五十人前後。

 このあたりは、先に潜り込んでいる猫背の男の見立てだ。確実とは言い切れないが、当てずっぽうというわけでもないはずだ。


 招待客のほとんどは、国外からのクルーズ旅行を兼ねている。

 つまり船内に宿泊用の自室がある。


 俺たちみたいに、途中からパーティだけ参加する連中は少数派だ。

 それでも数十人はいるらしいが、主流ではない。


 パーティ会場は船の上部二デッキ分。

 オーナーの部屋は、そこから二階層分下がったデッキの最後方に位置している。


 今回のターゲット――救出対象の少女は、恐らくそこにいる。


 パーティ会場を抜け出し、そこを目指す。

 だが、警備の目を盗んで廊下から侵入するのはかなり難しそうだった。


 船の中なんて、閉鎖空間の極みだ。

 廊下に警備を一人か二人立たせておけば、それだけでもう詰む。逃げ場は少ないし、角も限られる。普通の建物とは話が違う。


 だから、プランは外から行くことになっていた。


 上層デッキから船体の外を伝い、目的のフロアまで下りる。

 幸い、今日は天気がいい。風も弱い。もちろん海上だから多少の風はあるだろうが、作戦に支障が出るほどではない、という判断だった。


 問題は、例の欧州方面からの刺客だ。


 あっちがどんな連中で、どのくらいの規模で来るのかは分からない。

 俺たちと同じように客として紛れ込むのか。

 あるいは、もっと露骨なやり方か。


 考えても答えは出ない。

 どうせ、なるようにしかならないさ。


「そろそろです。ご準備を」


 そんなことを考えていた時、前方から大男の声が飛んできた。


 アルフが小さく頷く。

 その視線がこちらへ向いたので、俺も頷き返し、窓の外を見る。


 港に停泊している巨大な船が、視界いっぱいに現れた。



* * *



 停泊している船のそばには、すでに何台かの車が列を作っていた。

 俺たちの車もその末尾へ滑り込む。


 前にいる二台では、案内役らしいスタッフが後部座席のドアを開け、老齢の紳士や若い女を降ろしている。どちらも日本人らしい顔立ちだった。タラップの手前で、警備へ招待状を渡し、軽い会話と簡単なボディチェックを受け、そのまま船内へ通されていく。


 見る限り、チェックはそこまで厳格ではない。

 なんなら、女の方のハンドバッグなんて開けてもいない。形式は踏むが、客を不快にさせない方を優先している感じだ。


 すぐに俺たちの番が回ってきた。


「お気をつけて」


 ドアが開く直前、大男が前を向いたままそう言った。


 俺はその声に、運転席の背を軽く叩くことで答える。

 開けられたドアから外へ出た。


 夜の港の空気は、少し冷たい。

 潮の匂いと、船から流れてくる上品な明かりが少しばかり現実味を薄くさせていた。


 ドアを開けてくれている若いスタッフに、外向きの顔で笑いかける。

 それから、降りてくるアルフへ手を差し出した。


 アルフはにこりと笑い、俺の手を取ってお淑やかに車から降りてくる。

 一瞬、ドアを開けていたスタッフの視線があからさまに止まったのを、俺は見逃さなかった。


 まあ、そりゃそうだろう。

 あれだけ整った顔で、ああいうドレス姿なら、男なら一瞬目を奪われる。


 アルフは、それに気づいたらしい。

 ちらりとスタッフへ笑いかけると、相手は少し照れたように会釈した。


 何してるんだよ、まったく。


 心の中で突っ込みながら、そのままエスコートする体でタラップへ向かう。


 警備は二人。

 男と女。

 どちらも外国籍だ。


 当然といえば当然だ。上流階級の女へ知らない男がべたべた触れてボディチェック、なんて絵面は最悪もいいところだろう。そういう意味では、役割分担はちゃんとしている。

 俺は胸ポケットから招待状を取り出し、そのまま警備へ差し出した。


「ありがとうございます。拝見します」


 封筒を受け取った男の警備は、流暢な日本語でそう言った。

 この港が日本だからなのか、あるいは単に教育の範囲なのかは分からない。


 相手は招待状を確認し、一覧表らしきものと照合し、さらに記載されたコードを手元の機械へ読み込ませる。


 ピッ、と電子音。

 読み取り機の表示が緑に変わった。


「はい、問題ございません。お手数をおかけして恐縮ですが、ボディチェックをさせていただいても?」


 にこやかなまま招待状を返してくる。


「ええ、構いませんよ」


 俺は短くそう答える。

 アルフも横でにこやかに頷いていた。女の警備がそちらへ寄る。


「ありがとうございます。では、失礼いたします」


 男の警備が、スーツの上から俺の身体を軽く探る。

 脇、腰、脚の付け根、足首。物を仕込めそうな場所を手短に確認していく。慣れたものだ。


 ちらりと横目でアルフを見ると、女の警備と何やら言葉を交わしながら、手短に済ませていた。相手を緊張させない、けれど油断もさせすぎない。ああいうやり取りも、やっぱり慣れている。

 流石だな、と思う。


「お待たせいたしました。ご協力ありがとうございます。どうぞ中へお進みください」


 道が開く。


 俺たちは軽く礼を返して、そのまま船内へ足を踏み入れた。


「さて、まずは潜入成功だね」


 腕を軽く絡めてきたアルフが、前を見たまま囁く。


「ああ」


 俺も口元だけで返す。


「入ってからも、手はず通りに」


 そうして、いよいよ船の中へ入っていった。


 さて、これからが本番だ。



* * *



 船内に入ると、そこは広々としたエントランスだった。


 吹き抜け。

 上へ視線をやれば、数層分の空間が抜けていて、一瞬だけ船の中だということを忘れそうになる。高級ホテルのロビー、と言われた方がまだ納得がいく。


 絨毯は厚く、照明は柔らかい。

 歩いている人間たちも、元からの乗客なのだろう。白人が目立つ。どこの国の人間なのかなんて俺には分からないが、少なくとも“こっち側”の雰囲気ではない。


 俺たちが入ってきたのを確認して、金髪の女が一人近づいてきた。


「ようこそいらっしゃいました。パーティ会場までご案内いたします」


 こちらも外国籍で、日本語。

 ありがたいが、会場では英語になるんだろうな、とは思う。


 当然、今の時間に乗り込んでくる人間はパーティの招待客だ。

 しかも、元からの宿泊客ではない。となれば、行き先は会場しかない。余計な場所へ入り込まれないためにも、こうして案内がつくのだろう。


「ありがとう」


 軽くそう返し、後についていく。


 エントランス中央のエレベーターへ入る。

 上へ向かう間、ちらりとボタンを確認する。


 いま乗り込んだのはデッキ3。

 デッキは9まであり、会場は8と9。

 オーナーの部屋はデッキ6。


 エントランスのエレベーター前にも警備が一人いた。

 会場前も、恐らく他の主要動線もそうだろう。


 間違えました、で別デッキへ行くのは難しい。

 そういう意味でも、やはり正面突破は無理がある。


 チン、という音とともにエレベーターが開く。


 案内の女はボタンを押してドアを押さえながら、こちらへ礼をした。


「こちらです。どうぞごゆっくりお楽しみください」


 俺は事前に渡されていたドル紙幣を数枚取り出し、チップとして彼女へ渡す。

 自分の金ではないから、正直、遠慮も加減もない。金額もろくに見ていない。


 経費みたいなもんです、と言われている。

 なくならなきゃいいだろ、たぶん。


 そんな雑な感覚で渡した紙幣を、案内の女は慣れた笑みで受け取った。


 最初に着いたのはデッキ8。

 この上に展望デッキとして9があり、両方が会場になっている。行き来は主に外階段らしい。階段で繋がっているから、人の流れも自然に分散する。


 流石、金持ちのパーティというべきか。

 騒がしい感じはまるでない。


 うるさく酔っ払って騒ぐ連中なんて一人もいない。程よいざわつきの中で、よく仕立てられたスーツの紳士と、見目麗しい淑女たちが、笑みを浮かべて談笑している。誰も彼も声が大きくないのに、場全体はちゃんと賑わっている。不思議なものだ。


 ざっと見て、このデッキには五十人前後。

 上の展望デッキにも同じくらいいるとすれば、今は総数の半分程度か。もっとも、全員が常に顔を出しているわけではないだろうし、宿泊客の中にはパーティに興味のない人間もいるはずだ。


 飲み物はバーカウンターで直接頼めるし、スタッフがトレイを持って巡回もしている。食べ物は壁際に並んだテーブルから取る形式らしい。いかにも上品に整えられていて、俺みたいな庶民には何が何だか分からない小皿がずらりと並んでいた。


 時計を見る。

 二十時半。


 開始予定は二十一時だから、開始まではまだ少し余裕がある。

 俺とアルフは適当な飲み物を給仕から受け取り、壁際へ移動した。


 その時、ちょうど全員が揃ったのか、船がゆっくりと港から離れていくのが窓の向こうに見えた。灯りの列がじわじわ遠ざかり、足元へわずかな振動が伝わってくる。


「出たな」


 俺はオレンジジュースをちびちび飲みながら、隣のアルフへ小声で言った。


「後は、オーナーの挨拶を待つか」


「恐らく、挨拶の後はしばらくここで招待客と話すはずです」


 アルフはにこやかな顔を崩さず、まるで世間話でもするように返してくる。


「プラン通り、目安は三十分で」


 表情と会話の中身がまるで一致していない。

 これがプロ、というやつなのだろう。はたから見れば、ただの仲のいい男女の軽い会話にしか見えないはずだ。


 妙なところで納得して、ちびちびとグラスを傾けながら壁の花になっていると、エレベーターのあたりが少しざわついた。


 白髪の男が現れる。


 後ろには、屈強なボディガードが二人。


 事前に見せられていた資料通りの顔だ。

 この船のオーナー。ぱっと見は、できるビジネスマン。余裕のある成功者。だが、裏で幼女趣味。嫌な話だ。


 じとりと見すぎたのか、横からアルフが軽く肘を入れてきた。

 失敬。


 オーナーはそのまま、近くにいた知人らしい男たちと言葉を交わし、それから会場前方へ進んだ。そこはバルコニーのように少し外へ突き出た位置で、上の展望デッキからも見下ろせる。

 男は一段高い場所へ立ち、マイクを手に取る。


『皆さん、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます――』


 人の意識がそちらへ引っ張られていく。


 俺はアルフへ目配せをし、自然に逆方向へ足を向けた。

 アルフが耳へ手をやり、小型の受信用イヤホンを差す。俺も片耳へ同じものをはめる。


 周囲を見て、こちらへ注意が向いていないことを確認する。

 その上で、襟元のボタン裏に仕込まれたスイッチを押した。


「……聞こえるか?」


 囁くような声で言う。

 一拍置いて、イヤホンからアルフの声。


『問題なし。こちらは?』


「大丈夫だ。何かあるまで通信なし」


『了解。気をつけて』


 よし。

 通信は問題ない。


 俺はそのままエレベーターの方へ向かった。


 会場前には警備の男が二人。

 歩いてきた俺を見て、すぐにこちらへ意識を向ける。


「すまない」


 俺は少し困ったような顔を作った。


「エントランスで買い物がしたいんだ。うちの彼女が、その、ちょっとヘソを曲げてね……」


 英語は得意じゃない。

 だが、このくらいなら何とかなる。申し訳なさそうな、完全に女に尻を敷かれている男の顔を意識して、後ろにいるアルフをちらりと指す。


 その視線につられて警備もアルフを見る。

 すると、アルフは見るからに不機嫌そうな顔を作ってみせた。さっきまでの微笑みはどこへやら、拗ねた恋人そのものだ。


 警備の男は、一瞬の警戒のあと、こちらへ同情するような顔になった。


「なるほど……女性は怒らせると怖いですからね」


 妙に実感のこもった口調だった。


「分かりました。ただし、エントランス以外へは向かわないように。他のデッキへ行こうとしても警備に止められますので」


「ありがとう」


 礼を言って、俺はエレベーターへ乗り込んだ。


 さて。

 少し急ぐぞ。



* * *



 エントランスデッキへ戻る。


 ここにはショップが並んでいた。

 雑貨、土産物、ブランド品らしきもの、香水、アクセサリー。数はそこまで多くないが、船旅の合間に退屈しない程度には揃っている。乗客向けの小さな街、という感じだ。


 何人かが適当に歩いているので、俺がひとりいてもそこまで不自然ではない。

 とはいえ、長居は禁物だ。


 上のパーティ会場に警備の主力を割いているのだろう。ここにも視線はあるが、濃度はそこまで高くない。


 意識を集中させる。


 視界の端に、ミニマップがうっすら浮かぶ。

 現在地、エントランス。

 警備は二人。互いに薄く全体をカバーしているだけだから、視線が切れる瞬間は意外と多い。


 目的地は、スタッフ用クローク。

 この後方にあるはずだ。


 じっと見ていると、警備の視線の範囲が、うっすらと見えてくる。

 ……ほんと、分かりやすくて助かるな。

 ゲームと違い、顔の向きだけで判定されているわけではないらしい。視界の可動域みたいな形でぼんやり表示されるので、範囲はそれなりに広い。だが逆に言えば、その中へ入らなければいいだけだ。


 二人の視線が切れた瞬間に、すっと通路へ入る。


 見つからない。

 そのまま滑るようにクロークへ到着する。


 そこには、先ほど倉庫で別れた猫背の男が待っていた。


「お待ちしてました」


 小声でそう言って、素早く包みを差し出す。


「こちらを」


 周囲に人の気配がないことは確認済みだ。

 俺はすぐにそれを受け取る。


 ずし、と手にくる重み。

 愛銃だ。


 ホルスターと予備マガジンも一本受け取る。

 その場でスーツの下へ装着する。布の内側に固い感触が沿い、ようやく落ち着く。


「……よし、問題ない」


「私はサポートには回れないと思います」


 男は淡々と言った。


「ご武運を」


 そう言って、小さな紙袋も渡してくる。俺がそれも受け取ったのを確認すると、軽く頭を下げ、そのままスタッフエリアの方へ戻っていった。


 よし。


 俺は小さく息を吐き、再びエレベーターへ向かった。

 当然、警備の視界に入らないように。



* * *



 会場前へ戻ると、さっきの警備二人が俺に気づく。


「いやあ」


 俺は紙袋を少し掲げた。


「運よく、よさそうなのが見つかりました。ただ、こんなに早く帰ったんじゃ、ちゃんと探したのかってまた怒られそうなんで、バーで一杯やってから行きます」


 紙袋を見せながら、後方のバーを顎で示す。

 警備の男は、呆れたような顔をしたあと、すぐに“分かるよ”という顔になって、サムズアップしてきた。うんうん、そういうこともあるよな、って感じなのだろう。


 ありがたい。

 わりと雑な芝居でも、場が整っていれば案外通るものだ。


 そのままバーへ向かうふりをしつつ、先ほどのエントランス同様、警備の視線を確認しながら自然にデッキ後方へ向かう。


 挨拶が終わったとはいえ、オーナーがまだ前方にいるおかげで、後方は人が少ない。

 それでも数人は談笑している。後ろの方にもバルコニーみたいな、外へ出られる扉があった。


 その扉の外には、警備が一人。

 こちらに背を向けて立っている。


 よし。

 ひとりなら大丈夫だ。


 俺はゆっくり、しかし自然に、扉へ向かう。

 他の招待客の視線がこちらへ向いていないことを確認する。


 スライドドアへ手をかける。

 ゆっくり引く。


 高級客船なだけあって、抵抗は最初だけだった。すっと開く。音はわずかで、外の波音と船の走行音にほとんど吸われる。

 そのまま身を滑らせ、警備の背後へ入る。


 いける。


 そう思った瞬間、身体が勝手に動いた。


 男の口元を押さえ、首と腕を極める。

 ぐっと力をかけると、相手が硬直した。抵抗はある。だが、逃れられる感じではない。声も上げられない。数秒後には、ずるりと力が抜けた。


 テイクダウン。


 自嘲気味にフッと笑う。

 こんなことしたことないのにな。


 さて、そんなことより手早くいくぞ。


 背後を確認し、ドアを閉める。

 まだこちらに意識は向いていない。


 そのまま警備の身体を引きずり、近くに取り付けられていた救命ボートの中へ押し込む。

 いずれ目を覚ますだろうが、しばらくは大丈夫なはずだ。


 ここで殺すと血の処理が面倒だろうしな。


 しゃがみ込み、さっき受け取った紙袋の中身を取り出す。


 ワイヤーロープ。

 革手袋。


 革手袋を嵌める。

 ワイヤーの端にあるジョイントを欄干の一部へ括りつけ、固定する。

 ぐい、と引いて確認。大丈夫。しっかりしている。


 そのまま、ワイヤーを握りしめ、船体の端から身体を投げ出した。


 ココはデッキ8。

 目的地はデッキ6。

 二階分、下りる必要がある。


 下を見れば、水面はかなり遠い。

 落ちたらただじゃ済まない。いや、場合によってはそのまま終わりだ。


 風が、ばたばたとスーツをはためかせる。

 手袋越しにロープを握る指へ力を込める。


 まずはデッキ7のバルコニーへ。


 デッキ7は乗客用の部屋が並ぶフロアだ。だが事前情報では、この最後方の部屋は空き部屋になっている。

 一応、警戒しながら身を降ろす。気配はない。


 よし。


 一度上を確認してから、さらに一階下へ。


 同じ手順を繰り返し、デッキ6。

 オーナーの部屋の外まで、無事に辿り着く。


 良し。

 ここまでは問題ない。


 ふう、と一息つき、ぺろりと唇を嘗める。


 さて、お姫様はいるかな。

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