料理だけが私の取り柄
そこはイヌタロウを産んだ母親が経営する「桃太郎食堂」。
割烹着を着た母「トモエ」は、たった一人で今日も働くのだった。
「ここがイヌタロウのお家?」
「正しくは2階だな!1階はマ…母ちゃんがやってる食堂!」
グレーテルとシエラを連れたイヌタロウ。理由が有って家に帰れない二人を迎えてくれる事をトモエは了承した。
「ご飯を頂いたら失礼するから」
「帰るとこあんの?」
「それは……」
「一緒に居ようよ!また一人でブランコするの?」
グレーテルの悪気の無い言葉がシエラを突き刺す。シエラは渋々お世話になる事を肯定した。
「ん いらっしゃい」
「母ちゃんコイツらが例の人!」
「両手に花だね 私も鼻が高いよ」
背丈の小さな少女が料理を味見している。グレーテルとシエラはまさかこれがイヌタロウの母親とは到底思えなかった。
「……娘?」
「せめて妹じゃない?」
「俺の母親だ!紛れもなく!」
「イヌタロウ産んだよ やっほ」
気さくに話してくるイヌタロウ母。店の中には制服姿の女子高生が一人だけの、静かな空間だ。
「まずは胃袋を掴むよ 適当に座っちゃって」
厨房近くのカウンターにグレーテルを挟んで座る三人。母は鼻うたまじりに楽しそうに料理を再開する。
「まずは突出しね」
三人の前に胡麻とと液体のかかった茹で卵が置かれる。イヌタロウは手を合わせて「いただきます」と小声で言いガッついた。グレーテルも後を追う様に真似してガッつく。シエラは不安そうにも空いた胃袋を満たす為にも、覚悟を決めて喰らいつく。
「……美味しい」
「トモエの思い付き麻薬たまごは美味しいよ」
「麻薬!?」
慌てるシエラを宥めるイヌタロウ。麻薬は入ってないが中毒になるほど美味しいという由縁から着いた料理名だと説明した。
「面白い娘だね もっと遊びたくなってきちゃった」
「手加減してやってくれ…この人結構おっかないから…」
「ねぇシエラ 今イヌタロウがシエラの事怖いって」
「撤回します!すみません!!」
睨むシエラと謝るイヌタロウ。騒がしい食事の最中に母トモエは次の料理を並べる。
「今日の定食 カレーセットだよ」
カレーライス、サラダ、豚汁の三つが並んだセット。イヌタロウは「当たりだ!」と喜んで食べ始める。
「カレーに…豚汁?」
「豚汁はデザート 全てを調和するのさ」
よくわからないトモエのポエムに困惑しながらも、シエラはカレーを食べ始める。
身体にゆっくりと吸収されていくのが伝わる。至る所の神経に染み渡っていく。何も考えず夢中に食べ進めていくと、グレーテルが紙ナプキンを手渡した。
「シエラ大丈夫?」
何がと聞き返そうと顔を上げると、シエラは驚愕した。
「なんで…私泣いて……!」
「ありゃ 私も罪な女だねぇ 料理でか弱い女の子を泣かしちゃうなんて」
「うるさいっ…うるさいっ…!!」
そう言いながらも食べ進めるシエラ。締めの一杯まで完食して大きく深呼吸をして「ご馳走様」と言う。
「お粗末さまでした」
「でも…お金は…」
「皿洗い」
「……させていただきます」
「素直だね 良い娘だ」
シエラと母親が距離を縮め、イヌタロウはホッコリしていた。
「イヌタロウニヤけてる」
「ちっちげわい!」
スプーンを頬張るグレーテルとイヌタロウもまた、尊いの対象なのだった。
「こんなの…尊みが深すぎてやばい…!」
唯一の部外者であった少女「ヒカネ」もご覧の通りである。




