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護衛の早瀬さんとの帰路

時は少し遡る。


「よいこ軍団」に黒田を引き渡した後、俺は早瀬さんの車で自宅まで送ってもらっていた。


車内は、いつもより静まり返っていた。早瀬さんも、どこか落ち着かない様子だ。


やっぱり「よいこ軍団」のインパクトが強すぎたのかもしれない。あの雰囲気、任侠映画とかで見る、ヤクザの親分の刑務所の出所シーンみたいだったもんな。正直なところ、俺自身もビビってた。


でも、オリガミの教育が行き届いているおかげで、彼らが暴走する心配はなさそうだったし、裏切られることもなさそうだった。よいこ軍団については、一安心だ。


※※※


気まずい雰囲気をなんとかしようと、俺は車の後部座席から、早瀬さんに声を掛ける。


「今日は本当にありがとうございました。おかげで安心して交渉できました。早瀬さんのあの立ち振る舞い、すごく頼もしかったです!まるでドラマのワンシーンみたいでしたよ。柚希さんにも感謝しないとですね!」


「い、いえ……」


早瀬さんはどこか落ち着かず、まだ少し緊張しているように見える。


「早瀬さん、どうかされました?体調でも悪いんですか?」


「そ、そんなことないです!元気です!」


そう言うものの、明らかに様子がおかしい。


……そういえば、今日は色々と見せすぎたかもしれない。見られた内容は、柚希さんにも伝わるだろうけど、まあ問題はないはず。


「あ、あの……今日のこと、本当にすごかったですね。正太郎様って、本当に高校生なんですか?」


「え?ああ、はい。一応、そうです。もうちょっとで卒業ですけどね」


「それに、あの動画……あんなもの、どうやって手に入れたんですか?普通は無理だと思うんですが……」


あまり嘘はつきたくないけど、全部本当のことも言えない。適度にごまかしておこう。


「いやー、信頼できる仲間がいまして。その人が被害者の方から直接入手してきてくれたんです。俺の成功なんて、みんな仲間たちのおかげですよ!」


「そ、そうなんですね。じゃあ、あの男性たちは?」


そりゃ聞かれるよね。でも、「よいこ警備保障」については会社設立の過程が酷かったために、本当のことを言いにくい。さすがに洗脳したとか言えないでしょ……


「えっと、あの方たちは、俺が普段お世話になっている警備会社の人たちです。相手がちょっと怖そうな人のときに、たまにお願いしてたんですよ」


嘘は言ってない……はず。俺が社長だけど。


「そ、そうなんですね。最後に一つだけ、聞いてもいいですか?」


「もちろんです。何でも聞いて下さい」


早瀬さんは少し間を置いて、ためらいがちに尋ねてきた。


「……その、更生プログラムって、何なんですか?」


い、言いずらい!特に、自動更生箱庭施設「よいこ保育園」だけは知られては行けない。


「どんな方法で“洗脳”しているのか?」なんて絶対に知られたくないし、倫理的にもアウトだ。下手したら人格まで疑われかねない。それに、もし柚希さんにバレたら、次から次へと人を送り込まれそうだし、下手したら常連になりかねない。それだけは絶対に勘弁してほしい。


ごまかそう!


「えっとですね……うちのAIと話してもらって、自分の過去の行いをしっかり反省してもらうプログラムなんです。意外と評判いいんですよ?」


「まだ実験段階なので、ビジネス化もしてないですし、人に公開できるものでもないですけどね?」


「そうなんですね……AIって本当にすごいんですね」


早瀬さん、絶対に納得してないよな。でも、納得してもらうしかない。これ以上は、さすがに話せない。前庭砲とか自動更生箱庭施設「よいこ保育園」とかについて知られるのは、いろいろマズすぎる。


※※※


早瀬さんが、ぽつりと小さな声で何か呟いた。……今、何か言った?


『お兄様、早瀬さんの独り言をキャッチしました。「ふ、藤崎一族……怖い……」とのことです。』


いやいや、柚希さん、勘弁して下さいよ。柚希さんのせいで、俺まで怖い人扱いされてるじゃないですか。


※※※


このままでは早瀬さんの印象が悪くなってしまう。なんとかしないと!


「実はですね、更生プログラムに使っているAIは、ネムが一生懸命作ったんです。あいつ、本当に天才なんですよ!そういえば、ネムが誘拐された時、寄り添ってくださってありがとうございました!ネムもすごく褒めてましたよ!早瀬さん、心強かった!早瀬さん、優しかったって!」


「そ、そうなんですか?嬉しいです」


「それに、千穂やネムを守ってくれるのは、早瀬さんしかいませんからね。彼女たちが安心して過ごせるのは、早瀬さんのおかげです。俺が安らかに日々を過ごせるのも、早瀬さんのおかげだと思ってます。今度、直接お礼したいんですけど、現金とかはやっぱりダメですよね?何か恩返しできる方法がないか、柚希さんにも相談してみます。早瀬さんのおかげで、みんな安心できてますって伝えておきます!」


「あ、ありがとうございます。そこまで言ってもらえると、さすがに照れますね」


早瀬さんは少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに答えた。


ご、ごまかせたかな?どうか、護衛を辞めるなんて言わないでほしい。俺の心の平穏のためにも、明日からもよろしくお願いします……!


※※※


その夜、柚希さんから電話がかかってきた。


俺は内心ドキドキしながら、着信に応じる。まさか早瀬さんが警護を辞めるとか、そんな話じゃないよな……?


『正太郎くん、こんばんは』


「ゆ、柚希さん、こんばんは。直接お電話いただくなんて、珍しいですね……」


「……」


「柚希さん?」


少し沈黙が流れた後、ボソっと柚希さんが言う。


『……黒田社長の暴力動画』


ビクッ!体に震えが走る。


さらに、間を置いてもう一言。


『……よいこ軍団』


ビクビクッ!さらに心臓がバクバクと高鳴る。まさか、ここまで把握されているとは……。「よいこ軍団」なんて、俺は一度も口にしていないはずなのに。どうして……?オリガミ、助けてくれ……!


『……あ、そうだった。実はまたお願いしたい調査があるの。ちょっと難しい内容だけど、引き受けてくれる?』


「は、はい!承りますぅ!」


『ありがとう。じゃあ、よろしくね。ちなみに、早瀬はこれからも護衛を続けてくれるみたいだから、安心してね』


そう言って、あっさりと電話は切れた。柚希さん、やっぱり怖い。


『くっ……お兄様……なんておいたわしい……藤崎柚希、許せません!お兄様を怖がらせるなんて!』


「だ、大丈夫だから……柚希さんは、たぶん味方……だと思う、多分……」


確信を持って言い切れないのがつらい。味方、だよね……?

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