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ざまぁ④「よいこ」になりました!(黒田視点)

俺は今、スーツ姿の男たちに車に乗せられ、どこかへと連れて行かれている。


車内には重苦しい静けさが漂っていた。


どうやら俺はこれから「更生プログラム」とやらを受けさせられるらしい。名前からして胡散臭い。


※※※


だが……こいつらは一体何者なんだ?


あの高校生、藤崎の背後にはヤクザでもいるのか?そうでもなければ、これほどの連中を動かすことなどできないはずだ。


しかし、どうもヤクザのような雰囲気ではない。緩さのない張り詰めた空気は、むしろ軍隊のような印象を受ける。


「な、なあ?あとどれくらいでつくんだ?」


「あと15分ぐらいで到着の予定です」


男は無機質なほどきびきびとした口調で答えた。そこには一切の感情が感じられない。


「君たちは……藤崎社長のなんなんだ?」


「我々は団長……いえ、社長が経営する警備会社の従業員です」


「警備会社?藤崎はそんな会社まで、経営しているのか?」


「はい。社長は偉大な方です」


それきり、男はもう話すことはないとばかりに沈黙を守った。


※※※


到着したのは、男が言った通り、そこから15分ほど経った頃だった。


「ここは……廃校か?」


もとは廃墟のような建物だったのだろう。建物自体は古い。だが、ところどころ修繕が入っており、ちょっとしたノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。周囲を見渡すと、出入り口は開放されていて、出入り自体は難しくなさそうだ。


そんなことを考えていると、俺を体育館まで案内してきた男が口を開いた。


「こちらが『よいこ保育園』です。黒田様、更生プログラムをお楽しみください。保母ガミさん、よろしくお願いいたします」


保母ガミ?藤崎もそんな名前を口にしていた気がするが……誰もいないはずの体育館に、突然声が響いた。


『はい、承知しました。No.1さん、ご苦労さまです。』


澄んだ、はきはきとした女性の声が体育館に響き渡る。これが「保母ガミ」なのか?


男はその声に丁寧に返事をする。


「ありがとうございます。それでは通常任務に戻ります」


一礼して体育館を出ていった。俺は一人、広い体育館に取り残される。


『こんにちは、黒田さん。「よいこ保育園」へようこそ。』


「お前は……何者だ?」


『よいこビーム!』


その瞬間、脳が激しく揺さぶられるような感覚に襲われた。全身を駆け巡る強烈な不快感。


「ぐわあああああああっ!!」


俺は頭を抱えて床に転がり、もがき苦しむ。なんだこれは!やめてくれ!


数秒間その苦しみが続き、不快感が消えた後も、しばらくは地面から起き上がれなかった。


※※※


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」


俺は荒い息を繰り返し、必死に酸素を体中に送り込む。


やっと少し呼吸が落ち着いた頃、体育館に再び声が響いた。


『黒田さん?質問を許可した覚えはありませんよ?今のは「よいこ」ではありませんでしたので、おしおきしました。』


「……」


俺は何も言い返せなかった。


『お返事は?』


「は、はい!」


『よくできました。お返事ができて偉いですね。花マルです。』


……こいつは一体何者なんだ?ここはどこなんだ?


『ご挨拶が遅れました。私は「保母ガミ」と申します。ここは自動更生箱庭施設「よいこ保育園」です。以後、お見知りおきを。』


『黒田さん、「よいこ保育園」へのご入園、おめでとうございます。これから約一ヶ月、私の指示に従い、この施設で生活していただきます。よいこになれるよう、一緒に頑張りましょう!』


入園だと?よい子だと?ふざけやがって……


『まず、こちらの映像をご覧ください。』


「保母ガミ」の言葉と同時に、壁に映像が映し出された。それは、絶対に存在してはいけない映像だった。


※※※


『や、やめて!殴らないで!』


そこには俺の娘が乱暴に押さえつけられ、傷つけられている姿が映し出されていた。


『なんだ?殴るのは駄目なのか?じゃあ、蹴るのならいいのかな?』


ガスッっと、俺の大切な娘が蹴られていく、体には既に青あざがたくさんある。俺の娘は泣き腫らして、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。


娘の悲鳴が体育館内に響きわたる。俺は思わず声を上げてしまった。


「やめろっ!止めてくれぇ!娘だけは!」


頭の中に小さい頃の娘の姿が浮かぶ。「パパー」と可愛く駆け寄ってくる姿が思い浮かぶ。一緒に家族で遊園地に遊びに行った時の娘の笑顔が思い浮かぶ。その、きれいな思い出たちが、どす黒く穢されていく。


俺は必死に空に手を伸ばす。なんで!なんでこんなことに!


『ぐぅ!ぼぁ!お願いっ!お願いだからやめてぇ!うううっ……!』


体育館内には、暴力の音と、娘の次第に弱まっていく泣き声だけが響く。


『シクシクうるせぇな静かにしろよ、うっとおしい』


そして、画面が大きく揺れ、映像はそこで途切れた。


藤崎!あの野郎!娘に手を出しやがった!


「藤崎ぃぃぃぃ!!約束がちがうぞぉ!!」


『よいこビーム!』


また、頭の中がかき乱される。強烈な不快感が、怒涛のように体に押し寄せる。


「うがああああああっ!くそがぁ!ゆるさねぇ!あがががあああぁあぁああっっ!」


※※※


数分後、俺は体育館の床に力なく横たわっていた。全身が鉛のように重く、指一本動かすことすらできない。それでも、藤崎への怒りだけは、心の奥底で燃え続けていた。


「藤崎……絶対に許さない……必ず、殺す……殺してやる……」


頭の中は藤崎への憎悪で満たされ、今まで感じたことのないほどの激しい感情が渦巻いていた。人を本気で殺したいと思ったのは、これが初めてだったかもしれない。


だが、体はまるで言うことをきかなかった。俺は地面に這いつくばったまま、イモムシのように呻き声を漏らすことしかできなかった。


※※※


そのとき、保母ガミの声が響いた。


『何か勘違いされていませんか?』


『この動画は、黒田エステートの社員の端末から見つかったものです。あなたの指示で、土地を売れと脅したときに使われた動画のようですね。藤崎正太郎様、つまりお兄様がこんなことをするはずがありませんよ。』


え?じゃあ、娘はうちの社員に暴力を振るわれていたのか?俺が呆然としていると、保母ガミの声が体育館に響いた。


『ああ、申し遅れました。この動画は顔の部分だけ、あなたの娘さんに置き換えてあります。本物の娘さんは無事ですのでご安心ください。』


「ほ、本当に?娘は無事なんだな?」


『はい、もちろんです。元気にしていますよ。』


俺は胸をなでおろした。


『どうでしたか?あなたの指示で傷つけられた女の子がいたわけですが……その子の親の気持ち、分かりましたか?実感できましたか?』


「……!!」


※※※


俺は言葉を失い、何も返せなかった。


『この動画の元になった事件は実際に存在します。もちろん被害者もいます。あなたの指示で、一つの家族が壊された。その気持ち、少しは想像できましたか?少しは自分の身に置き換えて、考えられましたか?』


頭が真っ白になる。なんとか言い訳をしようと、必死に言葉を探す。


「お、俺は、こんなひどいことをしろなんて……言っていない……」


自分でも、今の言い訳がいかに情けないものか分かっていた。確かに「女の子を傷つけろ」とは直接命令していない。それは事実だ。しかし、「脅してこい」と指示したことは何度もある。そして、その命令を受けたのはチンピラ上がりの連中だ。彼らがどんな手段を使うか、想像できなかったわけではない。


『でも、あなたの指示で、この可哀想な子は生まれてしまったんです。』


『この犯罪者は、あなたが立場を与え、あなたの命令でこのような行為に及びました。あなたに責任がないとでも思いますか?』


俺は何も言えなかった。言い訳などできるはずがない。わかっている、これは……俺の責任だ。


『動画の続きもございます。お見せしますね。被害者とその親の気持ち、少しでも味わってください。』


動画の続きが再生される。俺の娘の顔をした女の子が、さらにひどい目に遭っている。


すべて俺のせいだった。涙が止まらず、悪夢のような映像を呆然と見つめていた。


心が壊れていくのを感じた。


※※※


……そして、一ヶ月後。


俺は背筋を正し、静かに体育館の中央に立っていた。


『お兄様が、あなたの罪が家族に及ばないように守ってくださいます。その代わり……あなたはお兄様のために、人生のすべてを捧げなさい。それが、無責任だったあなたに残された唯一の償いです。』


もはや迷いはなかった。


「……はい。藤崎正太郎様のために、すべてを捧げます」


これまで俺は、家族や会社のためだと信じて、他人の権利や人生を踏みにじってきた。きっと俺を恨んでいる人間は数えきれないほどいるだろう。


「親の因果が子に報う」という言葉がある。その意味の通り、俺の罪の報いは、必ずしも俺自身に降りかかるとは限らない。妻や家族、そしていつか生まれるかもしれない孫にまで及ぶかもしれないのだ。


その恐怖を、俺は何度も何度も味わった。保母ガミは、それを容赦なく俺に突きつけてきた。


そして、俺の犯した罪から大切な人たちを守ることができるのは、偉大なる藤崎正太郎様だけだということも、痛いほど思い知らされた。その恩に報いるために、俺ができることはただ一つ。


藤崎正太郎様のために、命を捧げること。それだけだ。

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